新入社員研修の重要性と成功のための秘訣

新入社員研修の重要性と成功のための秘訣

新しいスタートを切る新入社員は、企業の未来を形作る鍵となる存在です。しかし、その潜在能力を最大限に引き出し、長期的な成功につなげるには、効果的な研修が不可欠です。
本記事では、新入社員研修・新人研修の重要性と目的について詳しく解説し、効果的な研修プログラムを構築するためのヒントを提供します。
人的資本経営など人材育成の重要性が高まっている今こそ、改めて新入社員研修および新人研修について見直してみましょう。

筆者プロフィール

杉崎 高広 (Sugizaki Takahiro)

学校法人産業能率大学 経営管理研究所 人事・マネジメント研究センター長 主席研究員 総合研究所教授

杉崎 高広
(Sugizaki Takahiro)

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新入社員研修の目的と重要性

新入社員研修の目的は各社によって異なりますが、一般的な研修目的として下記3つが挙げられます。
下記目的の(1)を会社内部で実施し、(2)と(3)を外部研修機関に委託するパターンが多いようです。

(1)会社と仕事への興味・関心を高めること

経営理念、経営戦略や事業概要、社内の制度やルールなどを幅広く学習し、会社や仕事に関する興味・関心を高めます。また、社内の人材とコミュニケーションを取り、自組織の文化を実感することで会社への愛着を高めます。

(2)社会人としての意識を醸成すること

社会人としての心構え、組織の一員としての意識、仕事に対する責任感などを醸成することで、学生気分を払拭し、社会人としての意識に変革を図ります。

(3)社会人としての行動を身につけること

社会人として必要となる基本的な仕事の進め方(PDCAサイクル、報連相など)、ビジネススキル(コミュニケーションスキル、文書作成スキル)、ビジネスマナーなどを理解・習得し、配属後からの早期戦力化を図ります。

新入社員研修を行うメリット

組織への適応力の推進

「組織社会化」という専門用語がありますが、個人が新しい組織の価値観や行動様式、そこで効率的に働くために必要な知識、スキル、態度を理解し、少しずつその組織に適応していくプロセスを指します。
新入社員研修は、まさに「組織社会化」を図る登竜門の位置づけになります。
研修を受講するプロセスの中で、自分が組織の一員として受け入れられていると実感し、組織の文化を理解しようとします。そして、その組織に馴染んでいくために、少しずつ自分自身を変化、適応させていく入り口が新入社員研修なのです。

同期との仲間意識の醸成

新入社員同志が研修の場で共に学ぶことで、コミュニケーションが促され、同期同士の連携や仲間意識が醸成されます。同期は仲間であるとともに、お互い切磋琢磨していくライバルでもあることから、学習へのモチベーションが高まり、成長意欲が生じやすい点もメリットです。
そして、このように研修期間に構築された人間関係は、研修後も継続し、相談や助け合い、ノウハウの共有ができる関係性へと発展していきます。

また、新入社員研修で管理職や先輩社員によるサポートの機会を設けると、その後の配属職場においても気軽な対話が促され、仕事の悩みを早期にフォローしやすくなります。

自己肯定感の高揚(自信を持たせる)

環境が大きく変わる新入社員にとって、初期の緊張感や未来に対する不安感を持つことは当然のことです。そのような不安な気持ちを、研修の受講を通じて軽減させていくメリットがあります。
研修で知識や技能を学習し、仲間となる同期と話し合うことによって、不安な気持ちを「自信や期待」に変えていくことができます。

昨今は、日本の若年層の自己肯定感の低下が問題視されています。研修の様々な学習や体験を通じて、新入社員たちの気持ちを前向きにさせ、「自分もやっていけそうだ」 という自信を持たせることができます。

教育の効率、効果の向上

新入社員研修は社会人としての基本を学習することが目的になりますので、すべての新入社員が学ぶべき内容であり、能力の底上げや平準化を図ることが可能です。
仮に、このような研修を実施せずに、いきなり現場に配属したらどのような状態になるでしょうか。各職場で新入社員を育成する必要があるため、全体としての教育効率は低下します。
また、教育の質という面でも、各職場でバラツキが出てしまい、その後の中期的な成長にも足かせになるでしょう。すべての対象者に共通の知識や基本スキルを学習してもらう新入社員研修の趣旨からすれば、集合型の新入社員研修は効率、効果という両面においてもメリットがあります。

新入社員研修でよくある課題

研修で基本、現場で応用(多様性に関する課題)

新入社員研修では、仕事の進め方やビジネスマナーなどの基本を学ぶカリキュラムは必須と言えます。一方で、昨今は組織での働き方や仕事の進め方の多様化が加速しています。例えば、身だしなみ1つ挙げても、各社でドレスコードは多様化し、かつ自由度が進んでいます。電話応対、名刺交換などのマナーも、ビジネスの変化やスピード化の流れの中で、基本的な所作が簡略化されることもあります。
新入社員の立場からすれば、「研修で学習したことが配属職場で実践されていない」、と感じるケースも増えています。

ここで重要なことは、「基本を学ぶ意味」を理解させることです。多様性を理由にして基本を学ぶ機会がなければ、何が基準なのかが分かりません。マナーも「基本」をしっかり理解した上で、現実の職場や仕事に柔軟に「応用」していくことが大切なのです。研修で「基本」を学び、現場で「応用」していく重要性を理解させることが大切です。

厳しさと優しさのメリハリ(厳しい指導に関する課題)

昔は、新入社員研修の場合、「厳しく指導してほしい」というお客様のニーズが強くありました。しかし、時代背景を踏まえ、そのようなニーズは減少しています。確かに、パワハラと指導の線引きが難しくなる中で、新入社員といえども根性論、精神論で上から圧力をかけていくような指導はできなくなりました。

一方で、組織で働く以上は、厳しい指導が求められる場面もあります。そこで大切なことは、「言葉で丁寧に説明すること」です。人材も多様化が進む中で、「言わないでも分かるだろう」「見て覚えろ」という指導は通用しません。「なぜ、いけないことなのか」という理由を筋道立てて論理的に説明することが人事・教育部署に求められます。

また、厳しい指導を行うためには、それ以上に「褒める」などの温かいアプローチも必要です。「頑張っていること」に対しては、目に見える形で承認し、言葉を通して賞賛することも必要です。厳しさと優しさのメリハリをつけながらコミュニケーションを取っていくことが大切です。そして、このような姿勢は、研修講師にもそのまま求められる要件になります。

1人1人に寄り添う指導(集合型研修に関する課題)

研修は一般的には集合形式で実施されますが、教える側が1人で、教わる側は大人数という集合型研修のまま形式的に進めても、受講者の学びを促進することはできません。特に、新入社員の場合は、1人1人と向き合い、丁寧に指導していく「個別学習」が重要になります。

本学においても、「受講生1人1人に寄り添う指導」を重視しています。受講生との双方向コミュニケーションを軸にして進行し、受講生からの個別の質問や相談を奨励し、1人1人へのフィードバックを大切にしています。受講者数、研修日数などの制約条件はありますが、その中でも「新入社員1人ひとりと向き合えるか」が、人事・教育部署や研修講師に問われています。

成功する新入社員研修カリキュラム

組織ニーズに応えるカリキュラム

企業の経営戦略や、それに基づく人材育成方針などの組織ニーズに基づき、「組織が求める人材像(どのような人材になってほしいのか)」を明確化する必要があります。その上で、新入社員研修のねらいや到達目標、研修カリキュラムにブレイクダウンしていきます。

研修カリキュラムとは、あくまで組織ニーズや目的を達成するための1つの「手段」として実施するものです。よって、育成ニーズや、研修のねらいが明確になっていなければ、より良いカリキュラムを企画することはできません。「目的と手段」を混同せず、相互の整合性を図りながら、自社らしい独自の研修カリキュラムの企画を期待します。

主体性を引き出すカリキュラム

新入社員が受け身ではなく、主体的に参画できるカリキュラムを企画する必要があります。講義だけでは受け身姿勢で研修を受講することになりますので、主体的に参画できるグループ討議、グループワーク、ロールプレイング、研修ゲームなどの研修技法をバランス良く組み合わせたカリキュラムを企画することが大切です。

昨今は、反転学習という学び方が増えてきてます。一例ですが、内定段階においてテキスト、eラーニングなどを通じて知識を学習し、入社後の集合研修ではグループ討議や演習を中心に実施する実践的な学び方です。限られた日数、時間を有効活用することも大切なことです。

受講者の立場に立ったカリキュラム

新入社員のレベルにあわせたカリキュラムを企画し、分かりやすい学習内容で、分かりやすい研修資料を準備することが大切です。対象となる受講生は組織での実務経験が少ないことを忘れずに、新入社員の立場に立ってカリキュラムを企画します。

また、カリキュラム企画において「系列化の原則」という考え方があります。学習テーマや内容を、受講者が混乱しないように脈絡を持った一貫性のある配列に作り上げることです。例えば、「知識提供 → 演習・実習 → 振り返り」といった意図をもってカリキュラムを企画します。研修も1つのストーリー(物語)が必要であり、受講生にそのストーリーをワクワクした気持ちで体験してもらうことが求められています。

外部研修機関のカリキュラム

本学の新入社員研修の標準的なカリキュラムを下記掲載いたします。当然ながら各企業のニーズによって調整が必要となるわけですが、このような外部研修機関のカリキュラムを参考にすると、自社の研修カリキュラムにおける「抜け、漏れ」などをチェックすることが可能です。

幅広く情報を集めた上で、重要な学習内容に焦点を絞り、各社オリジナルのカリキュラムの企画を期待します。

1日目 9:30 - 17:00

1. オリエンテーション

  • 研修のねらいと自己紹介
  • 求められる人材
    • 個人・グループ検討とクラス検討
  • 検討:自身の目指したい人材

2. 企業(組織)の仕組み

  • 企業(組織)とは
  • 社会の一員としての企業(組織)
  • 組織の目標と役割分担
  • 利益と費用
  • 検討:自社のプレゼンテーション(自社紹介)

3. 職場生活のルールとマナー

  • 職場の人間関係
  • 職場生活のルールとマナー
  • 身だしなみと言葉遣い
  • メールとソーシャルメディア対応

4. 仕事の進め方

  • 仕事の進め方(PDCAサイクル)
  • 指示の受け方とホウレンソウ
  • 注意の受け方
  • ワーク:チームで仕事をする

5. 一日目のまとめ

2日目 9:30 - 17:00

6. オリエンテーション

  • 研修のねらい再確認
  • 昨日の振り返り

7. 電話応対の基本

  • ビジネス電話の基礎知識~固定電話と携帯~
  • 電話の受け方
  • 演習:電話の受け方(取り次ぎ/折り返し/伝言承り)

8. 来客応対、訪問マナーの基本

  • おじぎの基本
  • 来客応対と訪問マナー
  • 名刺交換の基本

9. ビジネスプロとして仕事をしていくために

  • 役割とその種類
  • 検討:新入社員の役割
  • 自己啓発の重要性とそのためのポイント

10. 受講レポートの作成

  • 2日間の振り返り
  • 検討:自身の未来イメージ
  • ワーク:受講レポート作成

11. 研修のまとめ

新入社員研修を成功させるコツ

入念な準備と計画的な実行

人の成長について、「最初の3年間で将来の差がつく」という考え方があります。もっと言えば、一般的なOJT期間となる「最初の1年間」、さらに言えば、「最初の1カ月」「最初の1週間」が重要になります。

新入社員研修は、まさに最初の数日間、数週間に実施されることが多く、新入社員たちが会社の文化や働いている人材の特徴を最初に実感する場になります。そのような重要な場にも関わらず、「行き当たりばったり」の状態で研修を実施してしまえば、新入社員を動機づけることが難しくなります。

人事・教育部署としては、そのような重要な場であることを再認識し、ベストなカリキュラムを企画し、入念な準備を行い、全力を尽くして教育していく姿勢を見せてください。その熱心な教育姿勢は、必ず新入社員たちの気持ちを奮い立たせることと思います。

外部研修機関とのコミュニケーション

外部機関に委託する場合は、事前の打合せを入念に実施することが欠かせません。冒頭で述べた研修のねらいなど事前の意見調整、すりあわせを行い、コミュニケーションを図りながらより良い研修を開催することが大切です。

また、外部の公開講座などに新入社員を派遣して研修を受講させるケースもあります。その際は、新入社員への事前説明や動機づけが欠かせません。どのような受講姿勢を期待するのか、何を学んでほしいのか、など事前に動機づけを図り、新入社員たちと密にコミュニケーションを取ってください。研修終了後のフォローや面談も大切です。

本学の公開講座(公開セミナー)では、各日の研修終了後に、自社へ電話での「研修終了報告」を課しています。研修を受講することも「仕事の遂行」になります。そして、仕事が終われば上司に「報告」することを研修では指導します。指導したことを早速実践させるべく、新入社員たちへ自社への報告をさせるのです。このように、外部研修機関とも協力しながら新入社員たちを丁寧に育てていくことが大切です。

チャレンジと学び

一般化はできませんが、昨今の若手社員の傾向として、「失敗したくない」「手堅くいきたい」「チャレンジは避けたい」といった仕事姿勢が見られます。それに対して、組織側が、新入社員たちを厳しく管理・統制するような教育を実施すれば、若い人材のチャレンジ精神をさらに弱めることにつながります。

研修はトレーニングの場であり、「失敗する場」でもあります。様々な課題や演習を課して、新入社員たちにチャレンジしてもらい、そこから学びを獲得していく、そのような研修を実施する必要があります。本学としても、「ここで失敗してよかったね、学びが得られたね!」と声を掛けるような研修を心がけています。新しい課題に主体的にチャレンジできる人材を育てていきましょう。

おわりに

新入社員は純粋な目を持ち、前のめりの姿勢でひた向きに研修を受講します。研修は年に一度、4月に集中的に実施されることが多いわけですが、講師を担当している我々も、新入社員から気づかされることが多く、初心にかえり、心が洗われます。

未来の企業を担う貴重な人材を、人事・教育部署の皆さんと一致協力しながら一生懸命育てていくことに、本学としても微力ながら貢献していきたいと願っています。

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