【SANNOエグゼクティブマガジン】目標による管理・人事評価制度を定着化させるスキル習得アプローチ 「組織目標意味づけスキル」

前回、目標による管理・人事評価制度を定着化させる3つの要素と2つのアプローチ(スキル習得・運用ノウハウ共有化)を紹介しました 。
今回は、スキル習得アプローチを紹介します。

上司が説明したはずでも伝わらない部門目標

ある企業で、全社員に年度の組織目標が浸透しているかについてアンケートを実施しました。
管理職に「組織目標をきちんと伝えているか」と尋ねると、「イエス」の回答が80%を超えました。 逆に部下に「組織目標をきちんと伝えてもらっているか」を尋ねると、「イエス」と「ノー」が半々に割れました。
このギャップを追跡調査すると、製造部門のある管理職からは「ちゃんと説明した」という回答があったものの、部下からは以下のような発言がありました。
「課長に『毎年設定されるクレーム低減の目標設定の背景は去年とどう違うのか』と尋ねたら、『年度方針書で説明済みだ。あとは自分でブレークダウンしろ』のひと言でおしまいです。背景説明なんかありません。これでは納得できませんよ」。

図らずも上司の安易な説明・指導の実態が判明したのです。では、どうすれば納得が得られるのでしょう︖

組織目標意味づけシートの活用法と期待効果

管理職は、部門の目標設定背景をメンバーが分かる言葉で伝えることが求められます。
そこで紹介するのが「組織目標意味づけシート」の手法ツールであり、その手法を「組織目標意味づけスキル」と呼びます。これは、総合重機大手の管理者研修を通じて考案したものです。

図表 組織目標・方針の意味づけシート

目標・方針 視点 意味づけ内容
設計品質の向上 きっかけの動機 ライバルのK社の追い上げにより、T社の受注が激減した。このままいくとジリ貧となりT社からの受注がなくなり、当社の経営の屋台骨をゆるがす恐れあり。
そこで設計品質を向上させ、K社との差異化をはかり有利に展開する必要がある。
たとえば 目標達成手段として、設計品質マニュアルをメンバーに週間勉強会で周知徹底する。
メンバーへの影響 (デメリット)
勉強会を開くためのテキスト作成等の準備負荷は増大する。
(メリット)
一方で、勉強会を通じメンバーの設計能力が向上する。お客様にも感謝され、やりがいも増える。
ねらい 設計品質を向上させ、競争力を高める。 メンバーの設計能力向上をはかる。
参照︓「七つの能力」-管理職前に身につける技法42」日本経団連出版 金津健治著

これは、優れた説明サンプルを解析し、抽出した「きっかけの動機」「たとえば」「メンバーへの影響」「ねらい」の4つの視点で整理する手法です。
年度初めに部門目標を伝達する機会に限らず、上期が終わったタイミングで下期に向けての部門目標、期中での部門目標の変更時の背景説明にも使えます。
図表のシートは、「設計品質の向上」という部門目標の設定背景を4つの視点でまとめています。それでは、以下6つのステップで活用法を紹介します。

ステップ1 シートを準備する

年度目標に関連する資料と「組織目標・方針の意味づけシート」を用意します。シートを作成する際に、部門の目標をあらかじめ決め、シートの最上段に記入します。

ステップ2 「きっかけの動機」を整理する

目標設定のきっかけとなった出来事や影響などを整理し、意味づけ内容の欄に記入します。これにより、目標の重大さが明確になります。シートの例では、競合の追い上げで受注が減少した事実を挙げています。

ステップ3 「たとえば」を整理する

目標を達成した状態をメンバーが分かるようにするため、目標達成に向けた手段・方法を考えます。図表では、品質管理マニュアルの勉強会を実施するとしており、設計品質の向上という目標に向けてメンバーの設計力を高めていくことの必要性がすっきり整理されています。

ステップ4 「メンバーへの影響」を整理する

部門の目標とメンバーの業務との関係に気づいてもらうため、目標に取り組むしんどさ(デメリット)とメリットを示します。
図表では、勉強会準備業務が増大することがデメリットとして記載されている一方、メンバーの設計力の向上等のメリットが記されています。

ステップ5 「ねらい」を整理する

目標による管理の真の成果である組織と個人の成長・発展との結びつきを整理します。
図表では、競争力強化とメンバーの設計力向上が2つ記載され、まさに「目標による管理」のとおり、部門目標と個人の目標が一致していることをご理解いただけるのではないでしょうか。

ステップ6 職場でシートを活用して設定背景を説明し、納得づける

課会などの職場会議で質疑応答を入れながら部下に説明します。4つの視点の内容が重複するところもありますが、様々な角度から目標設定の背景が分かるように伝えることが大切です。