現代における「課長の価値」とは?実態調査の結果から見えた最新傾向を分析

現代における「課長の価値」とは?実態調査の結果から見えた最新傾向を分析

この記事では、今日の組織における「課長の価値」について、本学が実施した調査をもとに最新の傾向を詳細に考察します。課長がプレイヤーとしての役割とマネジャーとしての役割との狭間で苦悩しているという現実を踏まえ、管理者の育成課題と解決に向けたヒントを提示します。

プロフィール

原 義忠 (Hara Yoshitada)

学校法人産業能率大学 経営管理研究所
人事・マネジメント研究センター 主席研究員

原 義忠
(Hara Yoshitada)

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※所属・肩書きは掲載当時のものです。

表1
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2023年に本学が実施した「上場企業の課長に関する実態調査」によると、94.9%の課長が「自身はプレイングマネジャーである」と認識していました(表1)。
昨今の組織においては、組織のスリム化や雇用環境の厳しさなどにより、プレイングマネジャーの存在が常態化しており、眼下のさまざまな情勢を鑑みると、この状況が急激に変化することは想定しにくく、プレイングマネジャーとしての課長の存在を前提としたマネジメントの適正化を考えざるを得ないといえます。加えて、50%超の課長が「年上部下」とともに仕事をし、「在宅勤務」や「労働時間・場所に制約がある部下」をチームとして束ねることを求められている課長も多く存在します(表2)。

表2
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これらを見るだけでも、今日の課長像は、課長自身が若かりし日に見てきたものとは全く異なるものであり、課長本人のみならず、組織としても、「課長の価値」を再定義することの必要性を示しています。
この調査結果を踏まえ、「課長の価値」を再考するためのいくつかのキーワードを検討していきます。

課長自身の自己肯定感

この調査では、プレイヤーとしての役割遂行に追われ、課長として実践したいさまざまな役割を遂行できないジレンマが「悩み」として吐露されています。また、「能力開発・育成施策の取り組み度合い」が低位~中位の組織においても、労務管理、リスクマネジメント、コンプライアンスといった、今日の職場運営上の「必須項目」に対処することへの要求は一定レベルで感じ取っており、「できていなければならないこと」の維持管理で疲弊し、「やりたいこと」の実現や「自己啓発」にまで目を向ける余裕がないことが伺えます(表3)。

表3
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課長に対して、「部下の動機づけ」を期待して、MVVの浸透やストレッチした目標の重要性などを教育する場面は多々ありますが、組織的に「課長の動機づけ」のために取り組んでいる施策を強調できる組織がどれほど存在するでしょうか。非管理職と大差ない処遇を諦めとともに受け入れ、MVVが示す姿と現実に掲げられている目標・職務の間に大きなギャップを感じているのは、ほかならぬ「課長自身」なのではないでしょうか。加えて、30%を超える課長が自らのリストラの可能性を感じつつ仕事をしている現状では、部下を動機づけるどころの話ではないように思います(表4)。

表4
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課長として「他者を通じて成果を出す」という役割を果たすためには、まずは課長自身が役割遂行に対する達成感、充実感を持ち、自らの存在に対する肯定感を持つことができなければならないはずです。組織としては、課長本人の意識変容や自責感のみに依拠することなく、「自組織の課長」に期待すべき役割を明確にし、それを実践している課長に対しては、評価や処遇といったさまざまな面で「明確な賛辞」を示しつつ、課長の仕事ぶりや職責をリスペクトしているというメッセージを発信し続ける必要があります。

  • 「Mission(ミッション)」、「Vision(ビジョン)」、「Values(バリューズ)」の略称。一般的に企業や組織の経営戦略や文化を形成する重要な要素のこと。

「課長のマネジメント力の向上」への投資

「意欲」と「所属組織の能力開発・育成施策の取り組み度合」の結果における低群と中・高群の差に目を向けると、『より高い成果を出せるように、積極的に努力している』と『組織が求めている以上に、自身の職務を献身的に務めている』の2つの項目については、他の項目と比較して差が小さくなっています(表5)。これは、低群に属する課長たちが、「自分の組織は自身に対する能力開発・育成施策が低調であるにも関わらず、こんなにも積極的、献身的に仕事をしている」と主張しているようにもみえます。

表5
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上場企業における情報開示の義務化を契機として、人材への投資の有効性や必要性が議論される中で、社員教育の充実や人材定着に向けた処遇の最適化など、さまざまな施策が講じられています。これらの施策に関して、投資効果の観点からは「若手~中堅社員」を軸にしたものが中心になることは当然のことでしょう。しかし、多少の環境変化があるにしても、職場マネジメントにおいて、課長が果たす役割が大きいことに変わりはありません。
人材育成の面に限ってみても、30%超の課長が「部下を育成する力」の向上を望み(表6)、加えて、60%を超える課長が「部下を育成する力」に自信を持ちきれていない現状では(表7)、自身を成長させてほしいと願う若手~中堅社員の期待に応えることはできないでしょう。「職場メンバーの求めに応じて、ヒト、モノ、カネ、ノウハウなどの必要な資源を提供している」と回答した課長は40%未満であり、人材育成についても従前以上に「効率」が求められています(表8)。従来型の「自然発生的」で「成り行き感」が強いOJTではなく、コスト(特に時間)を有効に活用する「投資計画」としての育成プランを策定し、効果的、効率的な人材育成を推し進めていくことは、今日の課長の必須スキルです。職場における人材育成の中で課長が果たすべき役割やプランニングの枠組みを明確にしつつ、その遂行に必要な知識やスキルを習得することに対する「積極的な投資」が求められています。

表6
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表7
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表8
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組織の打ち手(人事施策)の浸透

「所属する組織の課長職向け人事・教育施策」に関する結果を見ると、すべての質問項目について、「どちらともいえない」と回答している課長の割合が最も高いという結果でした(表9,10)。

表9
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表10
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自組織の施策を否定的に見ているよりはよいとも言えますが、矢継ぎ早に打ち出されるさまざまな施策の運用に手一杯で、組織側の説明不足も相まって、さまざまな施策を貫くポリシーや効果が見えにくく、課長として施策の是非を評価できるほど理解が進んでいないともいえそうです。また、「人事諸施策に満足しているか」との問いに対しても、45%の課長が「どちらともいえない」と答えており、人事施策に対して「冷めた目」で対応している課長の姿が想像されます(表11)。

表11
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組織としてさまざまな人事施策を実行していくにあたっては、運用プロセスを説明するだけではなく、「現場」にもたらすメリットを課長と共有していく努力を怠ってはなりません。施策の効果を明確にしたうえで、課長層にもオープンにフィードバックするといった、人事施策の検証を充実させることも重要です。

「次代の課長」の育成

この調査から見える課長の実像は、「人手不足を感じ、プレイヤー業務も含めて仕事量は増え、部下の育成に時間が割けないことに納得できていない…」といったものです。もちろん、課長自身の職務の充実という点で、この状況を看過すべきではないことは言うまでもありませんが、このように苦悩する課長の姿を目の当たりにしている「部下」に与える影響にも目を向けるべきです。
さまざまな組織で、若手~中堅社員の管理職への昇進の忌避傾向に苦慮しているとの声が聞かれるようになってから久しいですが、プレイヤーとして奔走しながら、多様な価値観を持つ部下とのコミュニケーションの複雑化に苦労し、疲弊してしまっている課長を見れば、課長として仕事をすることに魅力を感じない、「なりたくない」と感じるのは必然でしょう。

従前の組織では、組織内で昇進することが、自身の処遇を向上させるための最も有効かつ分かりやすい手段だったために、多少の負担の増加を許容することができていました。しかし、労働市場の変化に伴い、今日の中堅社員たちは、魅力に欠ける仕事をするくらいなら、他の組織で自分のスキルを発揮したいと考えるようになりました。そのような状況であるからこそ、「次代の課長」の育成責任を負う課長は、日常場面において、職場をリードする立場として仕事をすることの充実感や成功体験といった、マネジメントに関するポジティブな側面を積極的に「見せること」「伝えること」の必要性を認識すべきでしょう。

例えば、課長の仕事ぶりを部下と一緒に振り返る場をつくってみてもよいかもしれません。課長としての仕事の成果や苦労や、部下から見た課長の仕事ぶりに対する印象や希望についてもオープンに共有する場を持つことで、「次の課長」を担う部下の成長とともに、課長自身のマネジメント力の向上も期待できます。

この調査が明らかにした課長の仕事ぶりや能力、意識については、人材育成上の課題として、数年来、常に語られてきたテーマであり、この調査の結果についても「想像どおりだ」と感じる組織も多いのではないでしょうか。しかし、課長の仕事ぶりの充実に向けて、さまざまな策を講じているにも関わらず、これらが「どちらともいえない」と受け止められ、組織、課長のいずれにとっても満足のいく変化を生み出すには至っていない現実を正視する必要があります。この調査が、自組織における課長の価値や担うべき役割を再考する契機となり、理想と現実の狭間で折り合いをつけながら職務を全うしようとする課長たちの活性化につながれば幸いです。

『上場企業の課長に関する実態調査』ダウンロードはこちらかから!

上記のデータのほか課長の職場での現状や課題、さらには課長自身の人的資本価値(意欲/能力/知識)およびマネジメント行動と、これらが人事・教育施策とどう関連しているかなど、 多岐にわたる調査結果を報告書にまとめています。
調査の詳細については以下のボタンからダウンロードしてください。

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※講演者の所属・肩書きは初回配信時のものです

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