シリーズ「各国の駐在妻が見た、新型コロナと現地の今」【第6弾】ドイツ・バイエルン州

新型コロナウイルス感染拡大に直面する世界の駐在妻がリポート! ~駐在家族たちは、今、何に戸惑い、何を思っているのか~

執筆者プロフィール

佐藤 みちる
(さとう・みちる)

  • 夫の赴任に同行するため、同銀行を休職、2019年1月渡独。
  • 現在、ドイツのバイエルン州在住、第一子を妊娠しておりドイツで出産予定です。
  • 渡独当初から異文化交流に積極的に参加してきました。世界各地からドイツに来た人たちやドイツで生まれ育った人たちと深い話がしたい!というモチベーションでドイツ語習得に奮闘する毎日です。

新型コロナウイルス=東洋の病気?

「新しいウイルスが中国から出たらしいよ。日本も東アジアも大変みたいだよ。」

1月下旬。新型コロナウイルスの感染者数が中国で爆発的に増えているニュースがテレビなどでたびたび報じられるようになりました。
しかし、私たちが住むドイツでは、新型コロナウイルスを「中国またはアジアの謎の病気」として、正に「対岸の火事」といった認識でした。

その頃の私は、妊娠によるつらいつわりの時期がやっと終わり、旅行の予定を楽しみに立てており、日常生活でコロナを意識することはほとんどなかったように思います。

2月に入り、ドイツでもコロナの感染が徐々に広がりはじめました。
この頃、日本のニュースでは、「欧州でアジア人差別が横行している」という報道があったため、日本に住む家族や友人から心配の声をたくさんもらいました。
しかし、私たち家族は結局一度も差別を受けることはなく、むしろ、知り合いのドイツ人たちはいつでも私たちを気にかけてくれ、「なんて温かい国なんだ!」とドイツをもっと好きになったほどでした。

コロナパーティーで高まった危機意識

しかし3月に入り、状況は一変しました。
まずイタリアやフランスといった周辺国から感染者が急増し、私たちも、予定していたイタリア旅行を中止しました。

そして、3月17日。日本を含むEU域外との国境封鎖が実行されました。このときの感染者数は、ドイツ全土で7,156人。バイエルン州では1,109人を記録しています。
EU諸国の間では、経済的損失を理由に国境封鎖には当初否定的でしたが、メルケル首相がドイツ全土に向けた演説をしたことで、一気に緊張感が高まったように思います。

一方で、若者を中心に「コロナパーティー」が横行しているという報道もありました。
当時、若年層はコロナに感染しても重症化しにくいと言われており、その上学校が休みなことも手伝って、無鉄砲な若者がナイトクラブなどで濃厚接触の機会を増やし、抗体をつけようとしていたらしいのです。

日本で例えると、自粛期間中に大規模な飲み会を開催するような感覚に似ています。
「そのような行為をしている人の気が知れない」というのがドイツ人の友人に共通した考えで、そうした信じられない行動があったからこそ、行動規制が明確化したと考える人もいました。

外出規制:集会を予防するためにそこここに警察が見回っています

このような報道を機に、3月21日、外出規制が敷かれることになります(感染者数はドイツ全土で16,662人、バイエルン州では2,960人となる)。
最初のうちは、水際対策が二転三転した印象を受けましたが、それよりも迅速な現状把握から今考えられるベストな選択を最速でやる!という心意気が感じられ、ドイツ連邦政府、州政府を頼もしく感じたものです。

ドイツ人特性からコロナ禍の行動をみる

こうして、さまざまな規制が敷かれ、街の様子は一変しました。誰もいなくなった通りを夫と家の窓からよく見下ろしていたのを覚えています。

ロックダウン当初はトイレットペーパー、パスタや小麦粉が買い占められた状況を何度も見ましたが、2~3週間もすると不自由のないレベルまで供給が戻りました。スペインや他の欧州諸国に見られる厳格な外出規制はありませんでしたが、人々は平時よりも粛々と生活しているように見えました。

これは、ドイツ人が持つ「まじめさ」「他人の目を意識する」ことによるものと私は考えています。日本人の私からするとドイツ人との共通点を感じやすく、安心感を覚えるところなのかもしれません。

スーパーではいたる所で Abstand halten=ソーシャルディスタンスを促すシールやプラカートがあります

また、街中では買い物に行くのが困難な方(特にお年寄りの方)に向けて、ボランティアで買い物代行を名乗り出る張り紙を多く見かけました。

この時期のドイツの人々はコロナの恐怖にとても怯えていたと思います。いわゆる「コロナ疲れ」で「コロナという単語を聞きたくない」と言っていた友人も何人かいました。

そんな中でも、ドイツ人の知人から心配の声をもらったり、お互いに励まし合ったり、オンラインで会話を楽しんだりしながら、長い自粛生活を乗り切ることができました。

買い物代行を名乗り出る張り紙
隣人支援:接触を避けるために支援物資をビニール袋に入れて教会の前の塀に縛り付けています

家族の価値観を改めて考える

私たち家族の一番の問題は、「どこで出産をするか」でした。
夫は仕事の都合でどうしてもドイツに残らなければいけません。週ごとに出入国に関する規制が変わる状況で、しかも初めての出産。分からないことや心配だらけでした。

ドイツに残ったとして、医療崩壊はしないだろうか?

立ち合い出産はできるだろうか?

帰国を選択したとして、帰国中に感染するのではないか?

日本に着いてからの検疫や隔離生活に妊婦の体で耐えられるだろうか?

日本で帰国者は平等に医療を受けられるのだろうか?

出産後いつドイツに戻れるのだろうか?

不安な材料はいくらでも出てきます。
結果的に、「どこで、誰と育児をするのが子どもにとって良いのか?」という視点で考え、ドイツの医療を信じ、ドイツで出産することを決めました。

現在のところ、妊婦検診の立ち合いが認められていないため、毎回の検診は私一人で受診しています。私のドイツ語はまだ実践的ではないため、本当に大変です。「意思疎通のためにも検診の立ち合いくらい容認してほしい」と思ったことは何度もあります。でもこうしたみんなが持っている「これくらい許してよ」という自分基準では、今回の異常事態は乗り越えられないでしょう。ここが頑張りどころだ!と気持ちを切り替え、ドイツ語習得への学習意欲もより一層熱くなっています。これが私にとってのコロナの“福”産物です。

  • (駐妻カフェではコロナの影響でプラスに働いたことを副産物ならぬ、“福”産物と呼んでいます。)

悩みに悩んで決めた「ドイツで出産に臨む」という決断に対して、今でも100%の自信を持っている訳では決してありません。妊婦検診でコミュニケーションがうまく取れなかったときには2、3日ずっと落ち込むこともあります。ですが、自分たちの考えられ得る範囲で他人軸ではなく、自分たちの軸で精一杯の決断をしてきたからこそ、納得感を持った日々を過ごしています。

いつの日か、生まれてくる子どもと話ができるようになったら「あなたがおなかにいるとき、生まれるときは大変だったんだよ!」と今の特殊な状況を笑い話に変えて話したいです。そんな和やかな日常が早く来ますように。今は願うばかりです。

規制が緩和されて…

5月末時点で徐々に規制が緩和されています。その直後から、一気に日常が戻った気がします。街は人々であふれ、湖や行楽地にも人が密集しています。

どうやら「今まで規制を守ってきたんだから、もういいでしょ?」という考えらしく、規制緩和されたその週からジム通いを再開した友人もいます。近所のビアガーデンもすぐに賑わいを取り戻しました。
「日本だったら周りの様子をみてから自分の行動を決めるだろうな」という日本人的感覚の私はすごく驚きました。

感染第2波を心配しつつ出産を待つ今日この頃です。

規制緩和直後、人が街にあふれてきました

執筆日現在5月30日の感染者数:
ドイツ全土 181,196人。 バイエルン州 46,854人

  • 感染者数のデータは以下ホームページを引用しました(ロベルト・コッホ研究所)
    https://www.rki.de/DE/Content/InfAZ/N/Neuartiges_Coronavirus/Situationsberichte/Archiv_Mai.html

(2020年5月30日 ドイツ)

  • このコラムは、『駐妻カフェ』を運営する〈グローバルライフデザイン:飯沼ミチエ氏代表〉にご協力いただきました。