【第3回】同時セッション

前回のコラムでは、ATD2019の基調講演についてご紹介しました。
今回は、筆者が参加したセッションを中心に、同時セッションの概要やそこで得られた気づきについてご紹介し、本コラムをしめくくりたいと思います。

※12のコンテンツトラックと3つの産業トラックから構成され、全部で300以上のセッションが開催されます。講演会形式やワークショップ形式など、さまざまなタイプのセッションがあり、人材開発や組織開発、リーダーシップなどのトレンドを把握することができます。

ATD2019セッションの様子

1.心理的安全性(Psychological Safety)への注目の高まり

筆者は今回、「Leadership Development(リーダーシップ開発)」「Learning Technologies(学習テクノロジー)」「Science of Learning(学習の科学)」といった領域のセッションを中心に参加しましたが、発表の多くが『心理的安全性(Psychological Safety)』の重要性を裏づけるもの、またはその実現のために有効な手法について論じるものだったと感じました。

ニューロサイエンス(Neuroscience)により心理的安全性の重要性が裏づけられ、メンバーとの信頼関係(Trust)を築き、チームあるいは組織を心理的安全な場としていくためのフィードバックの重要性が論じられていました。
フィードバックをテーマにしたセッションも昨年以上に増えており、日本に限らず米国においても、上司・メンバー双方がフィードバックを恐れ、うまく機能していない状況がうかがい知れました。

ヘルスケアやレジリエンスを高める土台として、またイノベーションを生み出す源泉として心理的安全性に触れる発表も見受けられた他、VR(Virtual Reality)技術を活用することで、例えば高所作業のような危険を伴わず安心して失敗できる学習環境を整える(=学習の場を心理的安全の場とする)ことが、学習を促進させるといった発表もありました。

日本人参加者としては、“文化的背景が異なっていても適用できる考え方なのか?”というそもそもの疑問は残りますが、今後もチームの心理的安全性を高め、メンバーのチャレンジやイノベーションを促すリーダー行動のあり方について、さまざまな研究や取り組みが出てくることを期待したいと思います。

2.テクノロジーの活用を前提とした、ラーニングパフォーマンスの向上

「Instructional Design(インストラクショナルデザイン)」「Training Delivery(トレーニングデリバリー)」といった領域では、テクノロジーをいかに活用して学習の効果性を高めていくか、という発表が多く見受けられました。
日本ではどちらかと言えば、“テクノロジーが人に取って代わる”という悲観的な見方が先行している感もありますが、米国では“テクノロジーを活用していかに効果的に人材を育成するか”に主眼が置かれた発表が多いと感じました。

また、学習を一過性の“イベント”として捉えるのではなく、“旅(Journey)”として捉え、学んだ内容を仕事で実践できるようにするまでの学習設計が重要だとするセッションにも、多くの参加者が足を運んでいたようです。
研修プログラムそのものを最適化するだけでなく、研修受講前・受講後の上司の巻き込みや職場での実践などを含めた学習転移のプロセス全体を設計する(そして最終的にはビジネス上の成果に結びつける)ことの重要性が、以前にも増して強調されるようになってきていると感じました。

なお余談ではありますが、研修効果測定領域の大御所であるJack Phillips氏自らが登壇するセッションでは、初学者にも分かりやすいようにROIの計算方法から丁寧な解説がされていました。
ただ、そのことがかえって、研修効果測定の難しさを浮き彫りにしているように筆者には感じられました(実際に、適切なデータ収集や研修効果を金額換算することの難しさについても語られていました)。

おわりに

ATD2019への参加を通じて、人材開発に関わるさまざまな領域の潮流に触れてきましたが、文化的背景が異なる状況においても、フィードバックなど同じような悩みを抱えている状況をうかがい知ることができました。
米国をはじめ世界から学ぶことも多い一方で、日本企業が直面している人材育成課題もまた、ある意味で世界最先端の課題であり、解決に向けた取り組みや工夫は全世界に発信できるノウハウとなり得る可能性も感じ取ることができました。
今回得られた貴重な知見を活かしながら、これからも企業・組織が抱える人材開発課題の解決につながるソリューションをご提供していきたいと思います。

これまで3回にわたって本コラムにお付き合いいただき、ありがとうございました。

ATD2019に見る人材開発のトレンド

公開日:2019年07月30日(火)

【第1回】ATDの概要

公開日:2019年07月30日(火)

【第2回】基調講演

公開日:2019年08月20日(火)