【"攻め"のダイバーシティを推進する:interview2】⼥性の活躍を推進するのは 制度の充実+キャリア展望、コミュニケーション+⾃らの発信

はじめに

ダイバーシティを実現する上で、特に直近の課題となっている「⼥性活躍推進」。⼥性がキャリア展望を持ち仕事に臨むには、どのような⽀援が有⽤なのか。また、⼥性が⾃らのキャリアとどう向き合い、捉えていくべきか。
その実践策について、企業の⼈材マネジメント・教育、キャリア開発に関する調査・研究をおこなっている産業能率⼤学情報マネジメント学部の荒⽊淳⼦准教授からお話しいたします。
産業能率⼤学
情報マネジメント学部 荒⽊淳⼦准教授

荒⽊淳⼦准教授 プロフィール

東京⼤学⼤学院⼈⽂社会系研究科(社会学)、株式会社⽇本総合研究所研究員、東京⼤学⼤学院情報学環助教等を経て現職。博⼠(学際情報学)。
専門はキャリアデザイン論。主な著書に『ここからはじまる⼈材育成-ワークプレイス・ラーニングデザイン⼊門』(共著、中央経済社)、『企業内⼈材育成⼊門』(共著、ダイヤモンド社)がある。

企業も⼥性⾃⾝も、中⻑期のキャリア展望を描けていない

― ⼥性活躍推進の調査研究に携わられたきっかけをお聞かせください。

きっかけは、専門としている学習環境デザインやキャリアデザインの観点から、⼥性活躍推進に関する調査に参加したことでした。
以前に⽐べ、仕事と出産・育児の両⽴を⽀援する制度は整ってきていると思います。

しかし、実際は制度だけがクローズアップされ、⼥性⾃⾝がキャリアをどう伸ばしていくのか、そもそも⼥性をどう活躍させたいのかなどについて、企業も、⼥性たち⾃⾝も中⻑期的キャリアを描くに⾄らず、迷いが⽣じているのではないか。そして、その迷いを払拭することこそに、問題の本質があるのではないか、と考えるようになったのです。

そこで、⼥性が企業の中で中⻑期的な目標を持って働けるような職場の要件や環境を明らかにするために、予備調査として約半年間のインタビューをおこない、その後、2014年4⽉にWisH株式会社、株式会社ビジネスリサーチラボと共同で、⼤企業3社の社員267名(男性135名、⼥性132名)に対してアンケート調査を実施しました。

キャリア展望を育てる要素

― 調査でどのようなことが分かったのでしょうか。

まず、中⻑期的なキャリアの展望、すなわちこれからも組織の中で働き続けていける⾒通しが、⼥性は男性よりも⽴てにくいことが明らかになりました。

そして、⼥性が活躍するためには、第⼀に、育児と仕事の両⽴を⽀援する制度があること、第⼆に、⽀援する制度がただあるだけでなく⼥性に活躍してもらおうとする組織⽂化があることが重要であると分かりました。

⼀つめの⽀援制度については、⼥性⾃⾝だけでなく、上司や同僚も制度を認知していることがポイントのようです。また、⼆つめの⼥性の活躍を推進する⽂化の有無については、⼥性は、男性よりも悲観的な認識であることが分かりました(図表1)。この原因は、上司による「内省⽀援」が少ないからではないかと思われます。
内省⽀援とは、客観的な意⾒を⾔ったり、振り返る機会を与えてくれたり、新たな視点を与えてくれたりする、少し離れた視点からの⽀援のことで、「内省⽀援」に対する認識を男⼥間で⽐較すると、⼥性のほうが受けていないと感じていることが分かりました(図表2)。

東京⼤学の中原淳先⽣もおっしゃっているように、若い社会⼈がキャリア展望をつくったり成⻑したりするためには、他者の関わりや内省⽀援は⼤事なものです(『職場学習論』東京⼤学出版会,2010)。

この認識得点の低さと実態との関連の確認は今後の課題ですが、⼥性の活躍を推進するには、キャリアについて上司が意識的に関わり、⽀援していくということが不可⽋ではないでしょうか。

メンターやロール(役割)モデルの⼒を借り、独⾃のキャリア展望を組み⽴てる

― キャリア展望を持つには、メンターやロールモデルなども有⽤とのことですが…。

はい。メンターとは、⾃分を⽀援してくれる年⻑者を指し、

・キャリア機能(キャリアの上で実際に引き上げていく)
・⼼理社会的機能(仕事の上でアドバイスや⽀援などをする)
・ヘルピング機能(悩みを聞いたり相談に乗ったりする)

の3つの機能があると⾔われています。
特に「ヘルピング機能」は、⼀般的に⼥性のほうが多く受けていると⾔われており、調査からも同様の結果を得ています。
⼀⽅、「キャリア機能」や「⼼理社会的機能」は男⼥間に差はなく、これらの⽀援を受けている⼈はキャリア展望が⾼いという結果でした。

ロールモデルとは、⾃分のキャリアに関する模範やお⼿本となる⼈のことで、あの⼈のようになりたいと思える存在のことです。
ロールモデルがある、いるという⼈はキャリア展望が⾒通せており、これも男⼥間に差はありませんでした。

したがって、男⼥共にメンターやロールモデルを持つことが、キャリア展望を組み⽴てる上で有効であると⾔えるでしょう。

その中で留意すべき点が、ロールモデルを持つにあたり、⼥性は「独⾝か既婚か」、「⼦供がいるかいないか」、「⼦育てと仕事のどちらを中⼼にしたいのか」など、男性以上に置かれている状況や仕事への想いはさまざまであるということです。
⼦育ての時間を⼤切に、仕事とうまく両⽴させたいという⼈もあれば、仕事を優先した育児を望むという⼈もいます。
コース別⼈事などが重なると、さらに多様化するため、ロールモデルは⼀⼈とは限りません。

⼀般職の⼥性のモチベーションを上げるために、いわゆるバリバリのキャリアの⼥性を招いて講演いただいたとします。
その結果、「あの⼈と同じようにはできない」という印象を持たれ、逆効果を⽣む場合もあります。

対象が⼥性であるからといって、ある⼀⼈の⼥性だけをロールモデルとし、成功例として提⽰するのではなく、個々⼈が複数のロールモデルを⾃分で組み合わせて独⾃のロールモデルを描けるようにする。その⽀援を組織が積極的に担っていくことが必要になってくるのではないでしょうか。

各⼈の事情を把握して可能な範囲での貢献を導く

― ⼈との接点の中で築かれるものがある、ということでしょうか。

そうですね。接点が相互によく持てている、すなわちコミュニケーションがうまく取れている職場では、⼥性がキャリア展望を持ち易いと⾔えます。
仕事だけでなく、個⼈としての価値観や家族事情などを共有していると、メンバーのキャリア展望が⾼いという結果も出ています。

⼀⽅、うまくいっていない職場は、上司が⼥性に遠慮し、⼀⼈ひとりとのコミュニケーションが男性の部下と同様にはとれていなかったり、⼥性側も「上司や同僚は⾃分に対しもっと働いてほしいと思っているに違いない」、「定時になっても帰りたいのに帰れない」と認識していたりするなど、すれ違いが⽣じているケースがあるようです。

こうしたすれ違いを解消する⼀つのヒントとして、インタビューした中で「職場を眺めていて、ちょっと元気がないな、顔⾊がさえないな、と感じると隣に⾏ってまめに話を聞いている」というマネジャーがいました。
また、メンバーの⼥性でも、「⼦どもの⾏事やプライベートな予定を、話せる範囲で意識的に出している」というお話も伺いました。

もちろん信頼感や、プライベートを開⽰することの好き嫌いに配慮することは重要です。
その上で、男性の部下へのちょっとした声かけや配慮を、⼥性にも遠慮なくできるように、企業として対応していく必要もあるかと思います。
前述のマネジャーとは対照的ですが、ある50代のマネジャーは「⼥性の部下を怒ったらいきなり泣き出されて、どうすればよいか頭の中が真っ⽩になった」と話されていました。
さまざまな状況下で、いかに振る舞い、いかに声をかけるか。そこに必ずしも正解がないことからも、マネジャー同⼠でケースや対応を話し合える機会を設けることが必要になるのかもしれません。

また、インタビューで「これから⼤事になるのは、⼥性にどう接するかではなく、そもそもマネジャーが⼥性も含めた部下の多様性に対して、⼀⼈ひとりからどのようにその⼈の貢献を引き出していくかだと思う」とおっしゃったマネジャーがいて、なるほどと思いました。
⼥性のキャリア推進はもちろんですが、これからは介護などによって、男⼥問わずさまざまな事情を抱えた社員が部下になる可能性があります。

プライベートに踏み込みすぎない程度にうまく事情を聞き、その⼈ができる範囲での貢献を引き出していくことはこれからの命題です。
そう考えると、「個々⼈の事情にあわせてマネジメントできる」ということは、これからのマネジャーに必要なスキル、もしくは資質の⼀つなのだろうと思います。

職場の目標や各メンバーの貢献を職場全体で共有する

マネジャーはメンバーへのマネジメントだけではなく、成果をどう上げていくかを職場やチーム単位で共有することも重要だと思います。
上司が部下に何を期待し、同僚が⾃分に何を求めているのかを理解できることは、個々⼈の働きやすさを助⻑させるからです。

⼥性活躍推進の研究会などでは、独⾝の男性・⼥性と、⼦どものいない⼥性・⼦育て中の⼥性との間の“不公平感”についての話題がよく出ます。
インタビューでは、『時短で帰る⼈について「なぜあの⼈の仕事を私が引き受けなければいけないのか」といった声が上がるんです』という話もありました。
こうした場合、おそらく、メンバーが単に与えられた仕事をこなしていて「私の仕事が余計に増える」と考えるため“不公平”という発想になるのだと思いますが、職場全体としての目標が共有されると、各メンバーは「今、⾃分に何ができるのか」を考えるようになります。
その中で⾃然と「今、私は/あの⼈は、これはできないけれど/⻑い時間は働けないけれど、別のことで貢献できる/してもらう」と考えられようになり、時間ではなく貢献によって“公平感”が⽣まれます。
この“公平感”をうまく引き出すように、マネジャーが⼯夫して働きかけることが最も有効なのではないでしょうか。

しかしながら“公平感”を⽣む⼯夫、と⼀⼝に⾔っても簡単ではないと思います。⾝近な例で⾔えば、店舗での勤務シフトを組むときに、⼟⽇を休みたい⼦育て中の⼈に平⽇に遅番もこなしてもらったり、独⾝の⼈も⼟⽇に交代で休めるようにして、「平⽇は、○○さん(⼟⽇休みの⼈)がX時まで勤務してくれるからね」とメンバーへアナウンスしたり、「今週はあなた⼟曜⽇出勤だけど、来週は□□さんにお願いするから」などと伝えてバランスを取り、公平になるよう⼼がけていることを伝えていくイメージです。

組織と個⼈がそれぞれ何をなすべきか

― メンバー⼀⼈ひとりは何か⼯夫できるでしょうか。組織は何ができるでしょうか。

マネジャーだけでなくメンバーも、「これをやってほしい」という要請をただ待つのではなく、⾃分にできることを積極的に発信して同僚に共有してもらいながら、目標達成に貢献するための仕事をしていくことが⼤切です。
非常に⾼度な専門性が必要というわけではありません。⽇々の仕事の中での経験プラス専門性、でよいと思います。
インタビューでも、「この⼈はあることがうまくて、その強みがあるから短時間でも⼗分チームに貢献してくれている」とか、「この⼈はマネジャーとして⻑く頑張ってきた。今は⻑い時間は働けないけれど、マネジメントで分からないことがあれば的確にアドバイスをくれる。だから時間が短くても職場へ貢献している」と納得して受け⽌められているケースも多々ありました。

また、以前おこなった調査では、「多様な⼈が集まるコミュニティに参加していた⼈ほどキャリア意識が⾼まる」という結果も出ています。
いろいろな背景や考え⽅を持つ⼈たちの中に⾝を置くと、⾃分の仕事やキャリアを⾃ら説明する機会が増えるため、それが改めて内省するきっかけになることが、その要因として考えられます。
ダイバーシティが進む職場は同様の状況にあると⾔えるでしょう。そこでは、「⾃分はこのような形で貢献できる」「こういう仕事がしたい」と職場に対して表明するためには、裏付けとなるものが必要です。
そのため、⾃ら考えて学んでいこうとする姿勢が重要ではないかと思います。

そして、個⼈の学びを後押しするために組織がすべきことは、(1)個々⼈へ向けて事業の⼤きな⽅向性を提⽰すること、(2)職場として上げたい成果とは何かを明確にすること、(3)組織が各⼈の学びを⽀援する意思を⽰すこと、だと考えています。
⼀⽅、個⼈は、⾃らの学びを組織と分断して考えるのではなく、チームや職場の中での貢献を念頭に置いて学んでいくことが必要です。それが、「組織と個⼈」双⽅がよりよい関係を築くスタートになるのではないでしょうか。

その際、ただ多様なだけではチームがバラバラになってしまいますから、何かしらメンバーが共有できる共通点を⽰す必要があるでしょう。それはチーム全体の目標であったり、メンバーの興味関⼼だったりするかもしれません。この共通点をしっかり持たせるのがマネジャーや組織の役割だと思うのです。
共通性を持つと多様性が⽣きるという研究があります。メンバーが互いの多様性を包括して受け⽌め、マネジャーが職場の共通意識をうまく導き出し、多様なメンバーが⾃⾝を磨きながら⼀つの目的や全体の目標へと向かって進んでいく。職場がそうした共同体になっていくことが、ダイバーシティの広がりという現実の前で今、求められているのではないかと思います。