language
  1. TOP
  2. 事例・コラム
  3. 【特別対談】シェアド・リーダーシップの現場への展開を探る

事例・コラム

プロフィール

  • 最上 雄太 氏

    最上 雄太 氏

    株式会社IDEASS(イデアス)取締役  経営情報学博士
    多摩大学大学院 経営情報学研究科博士課程修了。博士(経営情報学)。
    明治大学政治経済学部を修了後、大手IT企業で優秀営業に与えられる社長賞を5年連続で受賞、社長室経営戦略室長職を経て独立し株式会社IDEASS(現職)を創設。
    主な研究テーマは組織行動論やリーダーシップ論。
    著書に『シェアド・リーダーシップ入門』(国際文献社、単著)、『人を幸せにする経営』(国際文献社、単著)がある。
  • 米井 隆

    米井 隆

    学校法人産業能率大学 経営管理研究所
    マネジメント研究センター 主席研究員/総合研究所教授
    明治学院大学経済学部卒業後、立教大学大学院 ビジネスデザイン研究科博士前期課程修了(経営管理学)。
    株式会社セブン-イレブン・ジャパン、サントリーフーズ株式会社勤務を経て、学校法人産業能率大学経営管理研究所マネジメント研究センター主席研究員、総合研究所教授。
    専門はワークショップデザイン。
    著書に『テクニックに走らないファシリテーション 話し合いがうまく進む2つのセンスと3つのスタンス』(産業能率大学出版部、共著)などがある。

社会や組織の仕組み、人と人との関係性が複雑さを増す中で、1人のリーダーが引っ張る従来型のリーダーシップだけでは限界が見え、チーム全体の力をどう引き出すかが問われています。
本特集では、状況に応じて複数人がリーダーシップを発揮し合う「シェアド・リーダーシップ」について、専門家である最上雄太氏(株式会社IDEASS取締役)に、産業能率大学の米井隆主席研究員がその本質と実践のヒントを伺いました。

シェアド・リーダーシップとは

個性豊かなメンバーが互いに変化を与え合う

米井氏イメージ

最近、「シェアド・リーダーシップ」という言葉を耳にする機会が増えてきました。「みんながリーダーシップを発揮している状態」と考えている人が多いと思いますが、しっかりと理解している人は少ないかもしれません。
最上さんは、シェアド・リーダーシップをどのように定義づけされていますか?

最上氏イメージ

一言で言えば、「リーダーシップをシェア=共有する」という定義です。
「シェア」というと、みんなが同じように動くと誤解される場合もありますが、そうではありません。一人ひとりが「私は」という主語を持ち、それぞれの意思で動き、影響し合う関係性で、チームの中の個性豊かなメンバーが互いに変化を与え合っている状態です。

米井氏イメージ

個性豊かなメンバーが互いに変化を与え合うというのは、具体的にはどのようなイメージなのでしょうか?

最上氏イメージ

まずは、専門性や自分の意思を持ちながら、自律的に「こうしたい」「こうなりたい」と考え行動することが前提です。一人ひとりがしっかり自立していて、それぞれ個性的なポーズを取り、お互いを尊重し、「この人がやるなら私もやろう」というような連鎖が起きているイメージです。
同じ行動を取るのではなく、自分自身の個性に合わせて、自分ができることを自ら発見して実践していく。そしてそういう関係性がお互いに認められている状態です。

シェアド・リーダーシップとは

個性豊かなメンバーが互いに変化を与え合い、 一人ひとりが自律的にリーダーの役割を担うことで、 チームが機能する状態であり、関係を指す

シェアド・リーダーシップとは

出典:最上雄太(2022)『シェアド・リーダーシップ入門』

シェアド・リーダーシップはどの組織にも起こり得る

米井氏イメージ

理想論としてはとてもきれいなお話ですが、現実的に職場で起こり得るものでしょうか?

最上氏イメージ

リーダーシップというと、個人に結びついた言葉のように思えますが、シェアド・リーダーシップの場合には、「関係性、チームの状態」と考えると、多くの組織やチームで起こり得ます。また、瞬間的に発生することも十分にあり得ます。

シェアド・リーダーシップが生まれるきっかけ

発生の鍵はダイアローグ(対話)と心理的安全性

米井氏イメージ

現実的には経験や専門性、仕事への向き合い方が異なるメンバーが職場にいると思います。その中でも、シェアド・リーダーシップの状態を育むために必要なことは何でしょうか?最上さんの研究からヒントがあれば教えてください。

最上氏イメージ

シェアド・リーダーシップを生み出すには、ダイアローグ(対話)が継続的に行われる状態が不可欠であることが、調査で見いだされました。ただ話すだけではなく、個性豊かなメンバー同士が互いに変化を与え合い、意見をぶつけ合えるような対話を維持しながらも、職場やチームとしてバラバラにならない関係性を生み出すことが必要です。

米井氏イメージ

シェアド・リーダーシップが生まれるには、職場やチームでダイアローグの機会をつくっていくことが必要なんですね。

最上氏イメージ

その通りです。そしてそのダイアローグの状態を継続・活発化させるには、心理的安全性が必要になってきます。

米井氏イメージ

心理的安全性とは、どういうことでしょうか。

最上氏イメージ

対話することをリーダーが許し、チームメンバーは自分の意思を表明する。心理的安全性が確保されている組織はダイアローグが活発に機能しやすいため、シェアド・リーダーシップが発揮されやすい状態になります。

米井氏イメージ

なるほど。ダイアローグは公式なリーダーが起点となって進んでいくのですね。

最上氏イメージ

そうですね。やはり、チームの一番上にいる人たちがコミットしないと、対話の状態は起きにくいと思います。「私は参加しないけど、あなたたちで話しておいて」では始まりません。チームでよい話ができたとしても、リーダーが許してくれるのか、どう考えるのかを気にしている状態では、心理的安全性が確保できているとは言えません。

米井氏イメージ

ダイアローグをリーダーが起点となってやっていくときに、初めにどんなテーマで話していくのがよいでしょうか。

最上氏イメージ

私が調査した職場では、「今の職場における課題は何か」というテーマで議論の場を設けていました。最初はみんな疑心暗鬼な状態でしたが、やり続けていくうちに、本気なんだということが伝わり、メンバーも少しずつ話をしていく状態や関係性がつくられていきました。まさに、シェアド・リーダーシップの状態の兆しが見えた瞬間でした。

米井氏イメージ

メンバーからすると、最初は「試されているのでは」「余計なことを言ったら大変なことになるのでは」など、警戒感から始まりそうですよね。
先ほど「心理的安全性」のお話がありましたけれども、こうした「この場では何を言っても大丈夫」という心理的安全性が醸成されるまで、どれくらいの時間がかかりますか?

最上氏イメージ

私が観察した職場では、週に1回程度の対話の機会を設けました。ダイアローグを通じた関係を蓄積していく中で、3か月後ぐらいに、これまで傍観姿勢であったある若手のリーダーから「このままで本当にいいのか」という声も出て、誰もが安心して意見を出し合う雰囲気が徐々に生まれてきました。このように、対話を根気強く続けることが必要です。

ダイアローグの継続により、課題を自分ごと化できるように

米井氏イメージ

ダイアローグを進めて、その後どのような感じになっていくと、このシェアド・リーダーシップ状態に近づいていくでしょうか?

最上氏イメージ

実はダイアローグができる状態であること自体が、すでにシェアド・リーダーシップができている状態です。ダイアローグができていると認められるようになるまでが、非常に時間がかかるものだと思います。

米井氏イメージ

ダイアローグのテーマが、職場の課題から自分ごとに変わっていくイメージですかね。自分の意見を言えるようになり、やがて自分の強みやらしさで何かに貢献できるのではないかというように、段階がステップアップしていくのではないかと感じます。

最上氏イメージ

その通りですね。やれと言われていたこととか、その人の責任範囲ではないことをそれぞれがやり始めて、自分はこんなことやりましたよ。こんなこともやってみようというように、それぞれの部署の中で展開していくようなイメージです。つまり、チームで何か一つの成果をつくったというよりは、一人ひとりが独立して、それが連動しているかのように、ある一つの状態のようなものが出来上がってくるということです。

米井氏イメージ

研究では、具体的にどのようなテーマに発展し、共通認識になっていったのですか?

最上氏イメージ

「我々は生まれ変わる」というようなテーマになっていました。

米井氏イメージ

「生まれ変わる」といったときに、自分がその「生まれ変わる」に対してどんな貢献ができるんだろうかということを考えて、行動できる集団に変わっていったということなんですね。

最上氏イメージ

つまりそれが本来のダイアローグだと思うんですよね、予定調和的に何か一つの合意を示していくものではなく、対話はファシリテーションとは違うのではないかと思っています。
シェアド・リーダーシップが発生する状態というのは、必ず葛藤があって、矛盾があって、それに対してみんなが「どうしてこうなっているんだ」というようにぶつけ合ったり、反省したり、そういった状態は不可欠だと思います。一つのことを無理やりまとめていくようなこととはまったく違うプロセスを踏むというふうに思います。

米井氏イメージ

その葛藤に向き合い、真剣に臨むことが必要なのですね。

最上氏イメージ

はい。さらに、変化のタイミングや質は人それぞれです。個性を尊重するには、変化の仕方も人それぞれなんだと認識することが前提です。

ダイアローグの起点は、リーダーの自己開示と覚悟

感情の共鳴からメンバーの姿勢が変わる

米井氏イメージ

ダイアローグにおいて、他にポイントとなることはありますか?

最上氏イメージ

ダイアローグが機能するか否かは、やはり公式のリーダーの責任だと考えています。私のフィールドワークでも、自分の責任を自覚したリーダーは、自分の非を正直に話しました。それにより、メンバーとの感情の共鳴が起こり、以降のダイアローグが円滑に進むようになりました。

米井氏イメージ

感情の共鳴が起こるとはどのような状態でしょうか?

最上氏イメージ

リーダーが反省したり、本気で話す姿を見ることで、メンバーが「自分もやらなきゃ」と思い、続いていく状態を指します。その共鳴によって自律的な行動が生まれます。
私の研究でも、シェアド・リーダーシップの中心にはリーダーがいました。シェアド・リーダーシップの発生には、そのリーダーとの感情の共鳴が起点となることが、研究の結論の重要点となりました。

米井氏イメージ

なるほど。公式のリーダーに、「今のままではいけない」「自分が変わる必要があるんだ」という問題意識やチャレンジ精神がないといけない、ということですね。
しかし、それにリーダー自身が気づく、あるいは気づかせるのは難しそうですが、どうすれば気づいてもらえるでしょうか?

最上氏イメージ

幸いにも、メンバーに話をしてほしいと思っているリーダーは多いと思います。それでも、自分がシェアド・リーダーシップを妨げている原因であることに、自分で気づくのは難しいかもしれません。その原因が自分自身なんだということを認める謙虚さがスタートとなるので、正直に自分も話せる関係づくりに身を置くことが重要です。
そして私は覚悟という言葉を用いますが、リーダーから率直に話していく。本当に自分は心からこうなんだと話している状態の中で感情の共鳴が発生します。

シェアド・リーダーシップの変容プロセス

シェアド・リーダーシップの変容プロセス

出展:最上雄太(2022)『シェアド・リーダーシップ入門』

米井氏イメージ

リーダーが変化を開示したことで、メンバーは何を言っても大丈夫だと理解し、話を表現できるようになった。周囲もそれに興味を持ち、深めていくことができた。それがダイアローグの成功とシェアド・リーダーシップ発現のポイントということですね。

シェアド・リーダーシップを途切れさせないために

「メタ視点」での支援と客観的視野の重要性

米井氏イメージ

最上さんは研究過程で、シェアド・リーダーシップの現場での展開に直接関わってこられましたが、やはり客観的に第三者の視点でフィードバックできるという環境が結構重要な気がします。

最上氏イメージ

その通りですね。チームの中にいる人とは異なる外部の人が、チームの状態を客観視して維持するような支えは必要になってくると思います。他部署の人がメンターのような形で関わることでも機能すると思います。

米井氏イメージ

集団の中にいる人間からすると、その状況をメタに見る、客観的に見るというのは少し難しいですよね。シェアド・リーダーシップが発揮できている状態は、定量的に把握することができますか? 業績指標やエンゲージメント調査などではどうでしょうか?

最上氏イメージ

私が見いだした研究のサイトの中では、定量的な成果の状態が何パーセントアップしたという状態はありました。結果的に本来求めるべき成果が上がっている状態が非常に重要なのではないかと思います。

米井氏イメージ

定量的な把握は、評価されているというより、新たなダイアローグのネタになるとも言えますね。
お互いが個性を発揮し、お互いに影響し合いながらチームが機能していく状態が生まれたとして、例えばこれが継続していく、逆に収束してしまうというようなことは、研究の中で見えていますか?

最上氏イメージ

それは私の今後の研究テーマでもあります。発生していく過程を捉えようとする研究自体も少ないので、プロセスについてもまだ外観しか掴めていない部分があります。どうしたら維持できるか、壊れてしまうのかといった領域は、今後ますます必要な領域であると思います。

米井氏イメージ

そのプロセスが明らかになることで、環境が変わっても状態を維持できる方法が見いだせるかもしれませんね。
最後に、シェアド・リーダーシップはどの組織においても必要なのでしょうか?

最上氏イメージ

それは企業や組織の状態によると思います。企業として経営継続性を考えたときに、今の状態や関係性で継続していけるのであれば必要ないですし、現状の組織を否定する必要はありません。ただ、職場の環境や従業員の関係性に課題を感じ、「この状況を変えたい」と思うのであれば、導入していく必要があるのではないかと感じています。

(2025年5月27日 取材・撮影 )

2026年度 通信研修総合ガイドのご案内

PAGE TOP