「プロティアン・キャリア」から若手育成を考える

プロフィール

学校法人産業能率大学 総合研究所
経営管理研究所 研究員
遠藤 勉仁

※筆者は、階層別研修、キャリア研修、コミュニケーション研修、
 組織活性化支援等を担当
※所属・肩書は掲載当時のものです

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遠藤 勉仁

「やりたいことが出来ないんだったら、転職するのは当たり前ですよ。」

平成が終わるころ、20代後半の若手社員から実際に聞いた言葉です。

筆者は20年前に外資系企業でキャリアをスタートしました。転職が身近な環境にいましたが、ここまで堂々と転職を語る時代になったのかと、新鮮な驚きがありました。

採用や育成を担当されている方には、胸がキュッと痛くなる発言ではないでしょうか。

若手社員の育成課題として「主体性を育みたい」というご相談をいただきます。
若手社員育成の最重要課題が、彼らの主体的な姿勢や発言、行動を引き出すこと、といっても過言ではないでしょう。

そうしたなか、自分がやりたいことをやるために転職するという意欲と行動力には、主体性が十分に感じられるとも言えます。

若手育成

注目される「プロティアン・キャリア」

ダグラス・T・ホールという米国の経営学者のキャリア理論に「プロティアン・キャリア」という考え方があります。
プロティアンとはギリシャ神話のプロテウスから名づけられており、変身の能力を持っていたことから、変幻自在という意味を持っています。

この考え方によれば、キャリアは、変化する個人が自分自身のために形成するもの、そしてキャリアの成否の基準は個人の「心理的成功」としています。
キャリアの主体はあくまで個人であり、組織ではないところがポイントです。

プロティアン・キャリアにおいては、自分は職業人生を通じて何をしたいのか(=アイデンティの成長)と職業人としての柔軟性(=アダプタビリティ:適応能力の強化)が重要になります。

冒頭の若手社員の「組織を飛び出してでも、やりたいことがやれる場を見つける、そこで仕事を通じた満足を得たい」という趣旨の発言は、まさにこの理論に沿ったものとも言えそうです。

転職が唯一の答えなのか

一方で若手社員が、短期間で簡単に転職してしまうことには、「もったいない」とも感じます。

“ 最初は興味がなかったが、一生懸命取り組んでいるうちに面白さを感じるようになった。その過程で思いがけず身につけた能力や知識が後々の仕事で大きく役立った。人との違いを生み出す源泉となった ”

こうした経験はキャリアを重ねた方なら、少なからず実感としてあるのではないでしょうか。

また、転職先に「やりたい仕事」があったとしても、すぐにはやらせてもらえない、やらせてもらえたとしてもイメージした通りの仕事なのか、といった不確定要素はつきまといます。
キャリアは変幻自在でも、「心理的な成功」は遠のいてしまうかもしれません。

若手社員がいきいきと活躍するために

若手社員が「やりたいことがやれない」と感じるとき、その要因は今の仕事に飽きを感じている、または成長実感が得られていないのだろうと想像します。

人口減少が進むなか、若手社員は、今後の組織や事業を支える貴重な人材です。
意欲ある若手社員が強みや能力を組織内で活かしきることは、個人にとっても、組織にとってもより重要になります。
そこで、若手育成のための具体的な取り組みをご案内します。

「面白い仕事」を自らつくり、自ら取り組む

職場では「こうしたらもっとよくなる」と思っていても、現実的には目の前の仕事に追われてだれも手がつけられない、着手したときの負荷を思うと踏み切れないといった仕事があります。
そこに「面白い仕事」の糸口があります。「面白い仕事」を選ぶポイントは以下のとおりです。

  1. 本人の興味や関心の方向性と合致する仕事
  2. 業務を取り巻く環境の変化に対応するための仕事
  3. 現状の能力から少しストレッチすれば、成果が出そうな仕事

こうした仕事への取り組みを促し、経験することで、面白い仕事は「自分で見つけられる、現場で起きている変化は成長のチャンス」であることに気づきます。
そして、主体的に取り組むことで、心理的な満足度も高まることが期待できます。

おわりに

この方法の前提には、チャレンジを支援する組織風土があること、一人ひとりの若手社員の状況を、上司をはじめ周囲が把握しておくことがあります。

簡単ではありませんが、現場と育成担当者が協力して取り組む価値があることだと思います。

ギリシャ神話では、プロテウスの予言を聞くために、プロテウスが変身できないように押さえつける必要があったそうです。

令和の時代において、若手社員を無理して組織に留めることは現実的とは言えません。
より多くの若手社員がそれぞれの場で、多彩な強みを活かして輝けるようにサポートする必要があります。

私自身もこうした取り組みの支援ができればと、思いを新たにする次第です。

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