自動車技術のグローバル展開(2) ~若者のクルマ離れと業界動向~

若者のクルマ離れ

筆者は大学で2年生ゼミ(30名)、3年生ゼミ(20名)、4年生ゼミ(20名)を受け持っていますが、70名中「クルマ談義」で盛り上がる学生は残念ながら1名しかいません。自動車業界では日本の「若者のクルマ離れ」が深刻な問題となっており、それを裏付けるように、学生はクルマには興味がなく、所有欲も当然ありません。
クルマに興味がないということは必然的に自動車産業関連企業への就職活動もしていないという事実があり、昨年度のゼミ卒業生20名の就職先に自動車関連企業はありませんでした。
ただし、今年度の卒業見込み者には1名だけトヨタ関連企業から内定をいただましたが、他に内定したIT企業とどちらにするか悩んでいる状況でもあります。筆者としては、「ガラケー」から「スマホ」に急速に技術革新が起きたように、もっと言えば「アナログ時代」から「デジタル時代」に世の中が変化したときのように、変革期にある自動車業界の一翼を卒業生に担ってほしいと強く思っています。

昨今の「若者のクルマ離れ」の理由に関しては、代表的な事柄を以下にあげておきます。

①免許を取らなくても困らない
余剰資金の使い道として優先順位が高いのが、クルマ以外の趣味への投資や就職に有利な資格取得である。就職条件にも「要普通免許」と挙げる会社は少なくなった。

②免許証はあくまでも身分証代わり
運転する際はレンタカーやカーシェアリングで十分であり、特に首都圏では景気が良くなってきたとはいえ生活費や物価に出費がかさむため、クルマに回せない。

③クルマに乗る必要がほとんどない
都心では、ガソリン代や駐車場代、車検などの維持費を考えたら、必要なときだけ借りればよいという人が増えた。公共機関のインフラが充実して移動が楽になった。

④若者の価値観が変わった
昔はクルマを所有していることがステータスであり憧れの対象であったが、今は移動手段の一つという考えになった。

今の若者はバブル景気を味わった我々世代と比較して、何事にも「堅実」なのかもしれません。要するに昔はクルマを所有することは大人として普通であり、持っていないとダサいという考えがありました。生活上必要がなくても多額のローンを組んででも購入する必要性があったと錯覚した時代だったとも言えます。現実的に筆者が大学に通っていた時代に比べて、学費は数倍に跳ね上がったにもかかわらず、バブル景気崩壊により一般サラリーマンの平均年収は急激に落ち込み、いまだに回復していない訳ですから生活習慣も変えざるを得ないのでしょう。
また、図表1に見られるように、日本は先進国の中で比較しても「クルマを所有するのにかかる税金が非常に高い」という事実も、若者のクルマ離れを助長していると考えられます。

図表1:自動車ユーザーの税負担の国際比較(出典:オークネット総合研究所 2013年1月)

クルマの価値観は十人十色

「第1回のコラム」に記述したように、筆者は1981年4月に長野県のIT機器製造企業にエンジニアとして就職しました。地方でクルマは、通勤から買い物、遊びにおいて生活必需品でした。一家に1台というよりも現在でも1人に1台が必要である環境です。ましてや入社当時の流行として、彼女とのデートにはクルマ頼りであったので、入社と同時にクルマを購入したことは言うまでもありません。
図表2:マツダ 2代目コスモAP 迫力のフロントグリル

余談ながら筆者の車歴を以下に記載すると(新車、中古車の割合は50:50)・・・

  1. マツダ:2代目「コスモAP」、直列4気筒OHCエンジン、4速AT
  2. トヨタ:初代「セリカXX」、直列6気筒OHCエンジン、5速AT
  3. トヨタ:初代「ソアラ」、直列6気筒DOHCエンジン(24バルブ)、5速AT
  4. 日産:7代目「セドリック」、V型6気筒DOHCエンジン+ターボチャージャー、6速AT
  5. 日産:2代目「シーマ」、V型8気筒DOHCエンジン、5速AT
  6. トヨタ:2代目「セルシオ」、V型8気筒DOHCエンジン、5速AT
  7. トヨタ:13代目「クラウンHV」、V型6気筒DOHCエンジン+電気モーター、無段変速
  8. ポルシェ:初代「パナメーラ」、V型6気筒DOHCエンジン、7速PDK
約40年間で8台を乗り継ぎ現在に至っています。 クルマ好きな方は既にお分かりかと思いますが、この8台は全て「ガソリンエンジン車」で、エンジンとトランスミッション(変速機)特性に特徴があり、筆者のクルマ選びのポイントはこの2つの要素中心に展開されてきたかもしれません。このコラムで、前記1番から8番までのエンジン特性とフィーリングをお話ししたいところではありますが、コラム内容の本筋と異なるので、残念ながら割愛します。
現在でもその車名が継続して販売されているのは7番と8番しか残っていません。自動車メーカーも時代のニーズに対応した開発&販売戦略を執って来た証でもあります。クルマの基本性能は「走る、曲がる、止まる」と単純に三語で形容されることが多いのですが、シャーシ性能、エンジン性能、サスペンション性能、ブレーキ性能、制御技術、部品技術、生産技術など全てが総合的に関与してクルマの性能は決まってきます。
図表3:日産 7代目セドリック グランツーリスモ 端正な4ドアフォルム

だからクルマを単なる移動手段と考えても、無機質な機械とそれに介在する有機質な人間との感性の一致を見ないと、両者の合意形成は得られないのではないでしょうか。それもヒトの嗜好や感性は十人十色であるわけですから、クルマに対する価値観も十人十色であるに違いありません。 よって現在でも自動車メーカーは車種のラインアップの拡充のみならず、同一車種でもエンジン性能(主には排気量)が異なる仕様を用意しているのが現実です。

日本の自動車メーカーは昔から多すぎる

日本の高度成長の鍵を握ってきたのは、その裾野が広い自動車産業であることは事実ですが、それにしても狭い日本で乗用車メーカーが8社「トヨタ」「ホンダ」「スズキ」「ダイハツ」「日産」「マツダ」「スバル」「三菱」(過去には「イスズ」も乗用車を製造、名車「117クーペ」は思い出が深い)も存続していることは凄いことだと感じています。ユーザーにとっては選択肢が多くて楽しいと思いますが、環境対策(具体的には電気自動車開発、水素自動車開発、自動運転技術開発)を含めて、今後海外との既存自動車メーカーとの競争激化や電気自動車の新興勢力(テスラモーターズや中国メーカーなど)に打ち勝っていくには、自前主義から脱却して国内企業連合のみならず海外メーカーとも技術提携を行うことが必要不可欠だと思います。特に提携先は、自動運転時代に備え「IT関連企業」との協業が重要でしょう。
日本は自国自動車メーカーが多いので昔から先進国の中では輸入車シェアが極端に低い国ですが、図表4に示すように昨今では右肩上がりが継続しています(2016年の輸入車シェアは9.1%(日本自動車輸入組合による))。理由は
(1)販売価格の低モデルの投入
(2)販売代理店の拡大(チャネル増加)
(3)品質の向上
(4)右ハンドル車ラインアップの増加
(5)マスより個を優先する時代
などが挙げられるのではないでしょうか?
図表4:輸入車のシェア推移

次回「第3回コラム」では、「内燃機関からモーター駆動への動向」に関して、お話しさせていただきたいと思っています。