発展するベトナムから学ぶ(3)― ベトナム企業の発展の3つ目のシナリオ ―

ベトナム企業の発展の3つ目のシナリオ

ベトナム企業の発展

ベトナムは1986年のドイモイ(刷新)政策にって市場経済を導入し、外資誘致に踏み切りました。ドイモイをきっかけとして、ベトナムを生産拠点として位置付けた外資系企業が、ベトナム経済を牽引してきました。そして、ドイモイから30年経った現在、ベトナム企業も大きな成長を遂げています。
特に大企業は、国営、民営を問わず、コングロマリットを形成し、大きなプレゼンスを有しています。これはベトナムを含むASEAN全体に当てはまることです。みずほ銀行の2015年の調査によると、ASEANの主要コングロマリットの売上高を合計すると、域内GDPの26.5%に達します。ベトナムに関する詳細な数字はないものの、現地では、一つの市場で成功を収めた企業が事業を多角化させ、急速にコングロマリット化した企業が多く存在します。

大企業の弱み

2016年にベトナム企業の調査のため、現地の大学やコンサルティング会社、教育機関にインタビューを行いました。そこで明らかになった経営問題の一つは、意思決定が経営トップに集中していることが挙げられました。
事業の多角化や急速な規模拡大においては、経営トップの迅速な意思決定が重要な役割を果たしたことは間違いないでしょう。しかし、本来マネジャーが果たすべき業務レベルの意思決定においても、経営トップが介入しているという実態がみられました。マネジャーの能力不足も大きな理由です。

いずれにせよ、マネジャーが経営トップに何でもお伺いを立てることは珍しいことではないのです。マネジャーであっても意思決定の権限が与えられないミドルは、大企業で働くことの魅力を失います。独立して、同じ事業領域の競争相手になる人もいれば、自営業をはじめる人もいます。

ベトナム企業の発展のシナリオ

未熟練労働者が自営業を行うのではなく、大企業でのキャリアイメージが見えず、起業した若い経営者が増えています。今年お会いした30代半ばの経営者は、専門的なスキルを生かして外資系企業向けの広告代理店を起こし、大成功を収めています。彼は一般庶民には手の届かないような高級車を所有していました。
彼のような中小企業経営者はまだ特別な存在です。しかし、彼は、今までのように国営企業か外資系企業か、の二者択一だけではない、第3の選択肢があることを示してくれました。
ベトナムは今、国策として、中小企業の支援を打ち出しています。2011年に50万社だった中小企業を、2020年までに200万社までに増加させるという目標が打ち出されています。ベトナム経済のサービス化の進展に伴ない、中小企業の役割は大きくなるでしょう。

これからのベトナム企業の発展を考えると、かつての「外資系企業依存の生産拠点シナリオ」、「国営大企業中心のコングロマリットシナリオ」の2つに、もう一つの選択肢、「中小企業によるサービス業拡大シナリオ」が明らかになってきました。
これらのシナリオの可能性を評価するためには、いくつかの要因をウオッチしていくことが必要です。例えば、マクロレベルでは政府の中小企業支援策や規制緩和方針、ミクロレベルでは起業家のマネジメント能力や技術水準などです。
これからのベトナム企業の発展において、若い経営者が牽引する中小企業が重要な役割を果たすのならば、ベトナムには非常にダイナミックで刺激に溢れた新たなサービスが次々と生まれてくることでしょう。