海外に生きる(1)~留学・海外駐在における異文化体験への適応~

海外に生きる(1) ~留学・海外駐在における異文化体験への適応~

現在、留学プログラムを担当して27年目になります。海外へ送り出した学生は延べ数1000人を超えました。この26年間の中で、留学を取り巻く環境も大きく変化しましたが、学生に見る異文化不適応症候群いわゆる「カルチャーショック」は、どんなに事前授業やガイダンスで啓蒙しても、誰もが一度は経験するものです。そして、誰もが自力で、異文化適応の4つの段階を経て克服してきました。

留学生活が始まって最初にぶつかるカルチャーショックは、生活面での習慣や不便さからくるものが主な要因であり、衣食住が基本です。学生の反応もさまざまで、例えば、食に対する想いが強い学生は、「お母さんの作った肉じゃが」の味が忘れられなかったり、日本食が恋しくなったり、住に対する想いが強い学生は、「部屋が広すぎて落ち着かない」と不安になったりするのです。他にも、現地に友人がまだいないので、日本の友人と会いくなり、その思いが満たされずにいると空を見上げ、満月を見ながら、「日本と同じだ」と無意識に涙が流れてしまう状態になったりします。しかし、ほとんどの学生は、留学生同士で愚痴や文句を言い合っているうちに生活も落ち着き、違和感や抵抗感もなくなり、異国での生活を楽しめるようになります。

    近年はどうでしょう。技術の進捗で留学生の生活はかなり便利になっています。私が最初に担当したころは、国際電話料金がとても高く、もちろんテレビ電話もありませんでした。Faxでのやり取りが一番コストが安く時差がない唯一の通信手段だったので、ホームシックになる学生も多かったです。現実に、家族の写真をトランクに忍ばせ、部屋に飾っていた学生が多かった印象でした。今に至っては、留学先から毎日のように日本の友人や家族へ連絡をし、現地で撮った写真を日本へ送り、会いたくなったら、テレビ電話で話す。日本での生活と変わらないやり取りが、異国の地でも送られるわけです。先日、留学先で道に迷った学生が、「いまここにいるのですが、どう行けばいいですか」と日本に写真を送って尋ねてくることがありました。今は、いい意味でも悪い意味でも世界中どこにいても、いつでもつながれる時代になりました。

    現在の日本は、渡航手続きが簡易化され、交通・情報網の発達により、多くの日本人が旅行や留学、ビジネスなどさまざまな理由で外国に行く機会も増え、海外で生活することは珍しいことではなくなっています。
    留学・海外駐在において、異文化に適応することは、海外生活を楽しむための最初に乗り越えなければならないプロセスです。

    そもそも論になりますが、異文化体験とは、異文化との接触の中で、自分の文化とは違う「違和感」を覚えることです。その違和感は慣れてくれば、そのまま、受け入れられますが、違和感が取れない状況では、いつまでも異文化不適応ということになります。
    カルチャーショックへの対策として、まずは「異文化適応の4つの段階」の理解が重要です。

    異文化適応の4つの段階

    (1)異文化排斥主義(Discrimination)

    1段階目は、違和感を強く感じている段階で、文化の違いには気づいているが、まだ異文化を受け入れられずにいる状態です。留学や赴任直後に直面することで、衣食住を中心とした身近なものから感じられることが多いです。

    (2)極小化(Minimization)

    2段階目は、時間と共に少しずつ違和感が薄れていく段階です。不便さが少しずつ改善され、自国文化を第1文化と見て、異国文化を第2文化と感じ、ある程度諦めのような感覚も持ち、第2文化を受け入れられ始める段階です。

    (3)適応(Adaptation)

    ある程度慣れてくると、次の3段階に入ります。ここでは、第1文化も、第2文化も客観的に見られるようになり、異文化に適応できる状態となります。異文化コミュニケーションの能力が身につき、異文化に身を置いた状態を楽しめるようになってきます。

    (4)統合(Integration)

    第三段階を経ると、現地での生活も長くなってくる頃です。第一文化でも、第二文化でもない、新たな第三文化(サードカルチャー)を作り出す状態です。
    この「統合」段階まで到達できる人は、かなり限られてきますが、今後はグローバル人材の要件になってくるかもしれません。

    2段階と3段階の間に異文化分水嶺といわれる境があり、ここを乗り越えられないと、長いカルチャーショックに陥いり、精神的にも身体的にもつらい症状や異常行動が見られるまでに至ることもあります。

    たしかに、家族を伴う海外駐在では大がかりな引っ越しのため、現地についてからもあわただしい時期が続き、現地の生活になれるまでに時間を要することが多いでしょう。現地の情報や引っ越しは余裕をもって入念に準備することをおすすめします。

    異文化を受け入れるコツは3つあります。
    ●異文化を知り、日本の文化を知り、日本と異文化の違いを知り、それを異文化の人に伝えること。
    ●異文化に対する違和感を楽しみ、ポジティブシンキングに徹すること。
    ●現地の人と仲良くなり、知り合いを増やす。ご近所づきあいを楽しむこと。
    海外駐在でも活用できると思いますので、異文化不適応症候群にならないように、異文化を楽しんでいただければ幸いです。


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    各回 公開日
    海外に生きる【連載】 2017年3月15日(水)
    海外に生きる【第1回