総合研究所の概要

お問い合わせ

資料請求リスト

ワーク・ライフ・バランス支援から見た働き方の変革

個人の「働くこと」に対するニーズの多様化を反映して、社会や企業においてもこれまでの「働き方」「働かせ方」を見直そうという動きが高まっている現在、さまざまな切り口で「ワーク・ライフ・バランス」というキーワードが使われています。

また「働き方を見直す」ための人事制度改革や風土改革は、人材の確保・育成・生産性の向上などの観点と連動した効果も期待されています。

そうした時流を受けた本フォーラムでは、東京大学社会科学研究所教授・佐藤博樹氏をお招きし、ワーク・ライフ・バランス支援の視点から、いかに「働き方の変革」を進めていくかについてのお話を伺いました。

    東京大学 社会科学研究所  佐藤博樹教授

    東京大学 社会科学研究所 教授 佐藤 博樹氏

    2009年3月13日開催のSANNOフォーラム2009「働き方の変革」で講演いただいた内容を編集したものです。

    【佐藤博樹氏 プロフィール】
    東京大学 社会科学研究所 教授
    ◆兼職
    内閣府・男女共同参画会議議員、ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議委員
    厚生労働省 労働政策審議会分科会委員、仕事と生活の調和推進委員会委員長
    経済産業省 ジョブカフェ評価委員 他

    ◆主な著書(編著・共著を含む)
    『人事管理入門』(共著、日本経済新聞社)
    『男性の育児休業:社員のニーズ、会社のメリット』(共著、中公新書)
    『ワーク・ライフ・バランス:仕事と子育ての両立支援』(編著、ぎょうせい)
    『人を活かす企業が伸びる:人事戦略としてのワーク・ライフ・バランス』(編著,勁草書房) 他
    (2009年3月現在)

    ワーク・ライフ・バランス支援は、
    仕事意欲の維持・向上のために不可欠な取り組み

    ワーク・ライフ・バランスがとれていないことで、社員には、多くのストレスがかかります。当然、仕事にもプライベートにも意欲的に取り組むことができません。そのような社員ばかりの会社と社員がストレスなく仕事に取り組めている会社とでは、人材活用の面で大きな差が生まれます。

    今日、ワーク・ライフ・バランスが重要な経営戦略となっていますが、では何故ワーク・ライフ・バランスの実現が人材活用上必要なのか。本日は、そのお話をしていきたいと思います。

    企業経営には、経営資源に応じた幾つもの管理機能があります。
    お金については経理・財務、生産については生産管理や購買管理、また近年では情報の管理も企業活動に欠かせないものになっています。

    それでは人事管理とは、いったいどのような経営機能を担うべきものなのだろうか。

    ひとことでいうと企業が必要とする労働サービス需要の充足です。
    つまり、支払い可能な人件費の中で、事業活動に必要とされる職業能力の保有した人材を確保、育成、配置、処遇すること。

    そのために必要となるのが、社員一人ひとりの
     ・ 「能力向上」意欲
       職業能力の開発機会の提供と能力開発意欲の維持・向上
     ・ 「能力発揮」意欲
       職業能力発揮にかかわる意欲の維持・向上
    なのです。

    仕事をする上で社員の能力が足りなければ、能力開発をしていかなければなりません。しかし一方で、能力があっても社員が期待通りの仕事をしてくれないという事態が起こる場合があります。

    その理由はいたって簡単です。仕事に取り組む意欲が低いからです。
    つまり「能力向上」「能力発揮」・・・社員一人ひとりが、この2つに意欲的に取り組んでいける環境を整えることが、人事管理の重要な仕事といえるのです。

    そして、本日のテーマであるワーク・ライフ・バランスは、社員の「能力向上」と「能力発揮」に大きく関わっているのです。

    社員の価値観の変化にともなって仕事以外で、
    大切にしたいこと、取り組む必要があることが増加している

    ワーク・ライフ・バランスがとれているとはどういう状態か。

    実はこれは、人によって違うのです。

    ときおり会社案内やパンフレットなどで、天秤のイラストを用いて“仕事とプライベートに割く時間を同等にすることがワーク・ライフ・バランスだ”といったメッセージを目にしますが、あれは誤解のもとです。実は仕事の時間が多くてもいいのです。いけないのは、ワーク・ワークの社員しか受け入れないことです。
    あるいは、そういう社員しか評価しないという会社の職場風土や体質なのです。

    ワーク・ライフ・バランスがとれている状態とは、会社や上司から期待される仕事、あるいは自分自身が納得できる仕事に取り組め、なおかつ、仕事以外のやりたいことにも必要な時間を割けている状態のことをいいます。

    逆に、会社や上司に求められている仕事、あるいは自分自身が納得できる仕事をやろうとすると、仕事以外のやりたいことに取り組むことができなくなってしまう状態をワーク・ライフ・コンフリクトと呼びます。

    ワーク・ライフ・バランス支援とは、社員がワーク・ライフ・コンフリクトに陥らないように予防したり、万が一陥ってしまった場合、できるだけ早く脱出できるよう支援することです。
    もっと簡単に言えば“社員に意欲的に働いてもらうための環境整備をしっかりと進める”ということなのです。

    ワーク・ライフ・バランス支援の実現に不可欠な3つの取り組み

    私は、ワーク・ライフ・バランス支援を社員に意欲的に働いてもらうための「新しい報酬」と捉えています。
    つまり、ワーク・ライフ・バランス支援は福利厚生ではなく基本的な労働条件であるということです。

    しかしここで、重大な誤解が生じることがあります。
    それはワーク・ライフ・バランス支援を“制度”に限定してしまうことです。

    会社によってはワーク・ライフ・バランス支援=(イコール)子育て支援や女性支援とし、育児休業制度や短時間勤務制度、社内保育園制度といったいわゆる両立支援制度の充実に終始してしまうケースが見受けられます。

    もちろんこうした制度の導入も大切ですが、それだけでは本当の意味でのワーク・ライフ・バランス支援は実現できません。
    ワーク・ライフ・バランス支援というのは3つの取り組みから成っており、その3つを段階的に同時並行で進めることで、はじめて社員意欲の向上が実現するのです。

    この3つの段階を家に例えるなら、さしずめSTEP1は「土台」、STEP2は「1階」、STEP3は「2階」といったところでしょうか。

    図1 3つの取り組みからなるワークワイフバランス

    【STEP1 (土台)】 多様な価値観、生き方、ライフスタイルを受容できる職場作り

    1980年代に入り、日本人の仕事に対する考え方や家族のあり方は大きく変わりました。仕事志向の人が減り、逆に仕事と仕事以外の両者にいきがいを求める人が増えてきたのです。

    また“結婚・出産後も妻が働く”という夫婦も増加。
    当然ながら、育児を夫婦2人でするものという考え方が主流となってきました。

    図2 仕事と生活のいずれに生きがいを求めるのか(%)

    夫婦でフルタイム勤務のカップルを考えれば、保育園の送り迎えをお互いで分担するのが通常でしょう。社員はそうした状況を上司に報告するとします。そのとき上司が「お前が送り迎えするの?それは奥さんの役割じゃないの?」「そんなことしてたら責任ある仕事を任せられないよ」と言ったとしたら、社員は上司の顔色を伺いながら自分だけで仕事の調整をしつつ、仕事と子育てを両立させていかなければなりません。

    これこそがまさにワーク・ライフ・コンフリクトなのです。
    1980年代に入社し、長くワーク・ワーク社員としてやってきた今の管理職世代が、自分がやってきた生き方と違う行動をとる部下を受入れるのは難しいことかもしれません。

    しかし意識の変革なくしてワーク・ライフ・バランスの実現はありません。

    ワーク・ライフ・バランス支援の第一歩は、ある意味で「職場風土の改革」と言えるでしょう。
    多様な生き方を受け入れられる職場という土台があってこそ、さまざまな取り組みを成功に導くことができるのです。

    【STEP2 (1階)】 社員の「時間制約」を前提とした仕事管理・働き方の実現

    ワーク・ライフ・バランス支援で最も大切なのが“働き方”です。
    私はこれを社員の「時間制約」を前提としたマネジメントと考えています。

    ワーク・ワーク社員とワーク・ライフ社員の「時間制約」がどう違うかというと、ワーク・ワーク社員は1日24時間、1週間7日間仕事ができると考えているということです。

    定時で仕事が終わらずに残業しても抵抗がない。なぜなら仕事以外にやることがないからです。
    または仕事が楽しくて仕方がないからです。

    つまり、ワーク・ワーク社員は「時間制約」のない社員だといえるでしょう。

    一方、ワーク・ライフ社員は「時間制約」のある社員で、育児や介護はもちろん、勉強や自己啓発に使う時間だってとりたいし、ゆっくりデートを楽しむ時間だってほしい社員なのです。

    「時間制限」のない時代の仕事の進め方がどうだったかというと、やるべき仕事の総量を所与として、仕事が終わらなければ時間を追加投入するというものでした。

    つまり「仕事が終わらなければ残業する」あるいは「土日に出勤する」ということです。
    ワーク・ワーク社員が多ければ、こうした仕事の進め方をしても大きな問題は生じません。

    しかし、現在は「時間制限」がある社員が増えています。
    管理者は社員一人ひとりが仕事に投入できる時間に上限があることを認識しなければならないのです。

    大切なのは発想の逆転、まずは“時間ありき”なのです。

    時間総量を所与として仕事の仕方、つまり“無駄な仕事をなくす”“仕事に優先順位をつける”など、<時間資源>を効率的に使うという意識を社員一人ひとりがしっかりと持つことが大切となります。

    仕事以外の時間をつくるためには、仕事の効率を上げなければならないという意識を浸透させつつ、業務効率アップのためのツールを用意する。それが管理職のマネジメントの基本といえるでしょう。

    【STEP3 (2階)】 ワーク・ライフ・バランス支援のための制度の導入と制度を利用できる職場作り

    次に両立支援制度についてですが、ここでは育児休業制度を例にとってお話しましょう。

    現状では女性が育児休業を取るケースが圧倒的ですが、晩婚化や晩産化の影響で第1子の出産は30歳前後になることが多いと思われます。大卒で入社したとすると勤続8年目頃で、ある程度責任ある仕事を任されている人がほとんどです。そうした社員が1年以上も休業とすることになるわけですから管理職としては仕事上は困ることになるのが当たり前です。

    長期の休業者が出ても、困らないように事前に取り組むことが必要なのです。最も一般的な対応策は同じ職場の社員が休業をとる社員の仕事をカバーするというものです。

    A さんが育児休業を取るということがわかると、Aさんが今どのような仕事をやっているか。そして育児休業中にどういう仕事が発生するかを管理職がインタビューする。その上で、Aさんの仕事をBさんとCさんに割り振るという方法です。
    この際、最も大切なのが、BさんCさんが気持ちよくAさんの仕事をカバーできる環境をつくるということです。
    「なんでAさんの仕事をカバーしなきゃいけないのか」という状況では、Aさんが育児休業を取りにくい。

    それでは気持ちよくカバーし合える環境とは何か?

    それは「お互いさま」と思えるかどうかです。
    しかしそれは難しいのです。なぜなら、独身の人もいるし、結婚していても子供を持ちたくないという人もいるからです。育児だけでは「相互サポート(お互いさま)」意識の浸透は難しいわけです。

    もちろん介護の必要性の可能性を説明することも大事です。
    同時に、ワーク・ライフ・バランス支援の対象範囲を広げることが大事です。

    育児や介護だけでなく、自己啓発や社会貢献活動も休業の対象
    もう1つは、能力開発機会や報酬など、仕事をカバーした同僚にとってプラスになる条件も大事です。

    ワーク・ライフ・バランス支援として、社員が仕事以外にやれなければいけないことをやれる環境はつくった。
    ところが中には「仕事以外に何をやるんだ?」と言い出す社員がでてくる。
    こうしたワーク・ワーク社員たちを含めた社員一人ひとりが、いかに自身の生活を充実させていくかが、今後ワーク・ライフ・バランス支援を進める上での、カギになってくるだろうと私は感じています。

      東京大学 社会科学研究所 佐藤 博樹教授


      ※本コラムに関しますご意見・ご感想はこちらまでお寄せください。

      ページ先頭へ

      • 導入のご相談、提案のご依頼、各種ご質問はこちらからどうぞ
      • 資料をご希望の方はこちらからどうぞ(無料)
      • デジタルカタログはこちらから
      • 官公庁・自治体職員向け研修案内
      • 総合研究所 経営管理研究所
      • グローバルマネジメント研究所
      • サンノーWebサポート
      • SuperGrace Web成績管理システム
      • マナビバサンノー
      • sannoメール登録