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【イベントリポート】第1部:基調講演 今なぜ働き方改革なのか?

 さまざまな局面で語られる『働き方改革』ですが、その内実は単に残業時間の削減というように矮小化されがちでもあります。しかし、決してそうであってはならないと指摘するのが中央大学大学院戦略経営研究科 教授・佐藤博樹氏です。

安易な残業依存体質の解消は必要ではあるが、残業自体が絶対悪なのでない。また残業のない職場でも「働き方改革」は必要なのだ。つまり「働き方改革」のめざすべきものとは、ダイバーシティ経営を実現するための基盤整備なのだと佐藤氏は続けます。

    佐藤 博樹氏

    中央大学大学院戦略経営研究科 ワーク・ライフ・バランス&多様性推進・研究プロジェクト プロジェクト代表 佐藤 博樹氏

    この2017年7月28日のフォーラムの要旨を以下にお届けします。

    今回のSANNOフォーラムは、【第1部】として佐藤教授をお招きし基調講演をいただいた後、【第2部】ワークショップ、【第3部】職場変革のマネジメントについての検討という流れで構成しました。
    「働き方改革」そのものに対しての問題提起が縦横になされただけでなく、現場のマネジメントの実情や今後の取組への期待や課題、アプローチ方法などについて大変活発な情報交換が行われ、参加者からは非常に有意義な時間となったと多くのご感想をいただきました。

    『働き方改革』は長時間労働とセットではない

    ~残業がない企業にも必要な改革

     『働き方改革』の目的はなんでしょうか。狭義の目的としては、健康を害するような過度な長時間労働をなくすことです。
    そのために残業規制やインターバル規制など、長時間労働に対する規制や罰則が議論されています。
    しかし、単に「残業を減らしなさい」と言うだけでは、残業削減自体が目的となってしまい、かえって不払い残業の潜在化などのリスクを高めてしまう危険性があります。

    佐藤 博樹氏

     そこで広義の『働き方改革』の目的を理解しておく必要性が出てきます。
    実は、「必要な残業」というものも存在します。例えば、製造業で明日納期のものに不良品が見つかったとしましょう。取引先に交渉したけれども、やはり納期をずらすことはできませんでした。しかし幸い難しい作業ではなく、手作業で良品化できそうなので、残業できる人に不良品を直す作業をお願いして納期に間に合わせた。これは必要な残業と言えます。

      しかし、問題はこの後です。
      今回不良品ができてしまった原因がどこにあったのか。それを明らかにしなければ、同じ理由の残業が何度も繰り返されてしまいます。ここが大変重要なところです。

      なぜ残業が必要になったのか。
      残業を余儀なくされた原因がどこにあるかを突き止めるなどを通じて、“仕事が終わらなければ残業すればいい”という安易な「残業依存体質」からの脱却を図ること。それが広義の『働き方改革』の目的のひとつです。当然ながら、この「残業依存体質」がなくなれば、結果として長時間労働の解消も実現します。

      もう一つの目的は、いわゆるダイバーシティ経営の基盤としての働き方改革です。
      ダイバーシティ、つまり、多様な人材が活躍できる職場づくりのためには、仕事の仕方や人材像の見直しが必要不可欠となります。

       以上のことからも、残業のない職場では『働き方改革』は必要ないというのは大きな誤りであることがご理解いただけると思います。
      たまたま仕事が少ないだけで仕事が増えれば残業の可能性があるような企業、これから社員がさまざまな課題を抱えて、仕事をせざるを得なくなったときに受け入れ態勢の準備ができていない企業など、現状の残業の有無にかかわらず、今後の働き方を考えたときに課題があるすべての企業に『働き方改革』の必要性があるということです。

      ダイバーシティ経営を実現させるために

      ~基盤整備としての働き方改革

       経済産業省の(新)ダイバーシティ経営企業100選によると、ダイバーシティ経営とは「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」とされています。つまりダイバーシティ経営の実現には、多様な人材を受け入れることだけでなく、それぞれが能力を発揮し、経営に貢献できるようにする仕組みづくりが必要ということです。

      ここで大事なことは、「経営に貢献できる人材像」を企業がどう捉えているかです。

      これまでは「日本人、男性、フルタイム勤務、時間制約なし、転勤制約なし」という人材が、企業にとっていわゆる「使い勝手の良い社員」であり、求める人材像の代表的なものでした。ところが、外国人や女性や短時間勤務の労働者が一人もいない会社というのは逆に大変珍しいという昨今です。
      この先、さらにいろいろな働き方の人、さまざまな条件がある人がどんどん増えていく中で、企業側がいまだ古い人材像を持ち続けるとどうなるでしょう。

      一つ例をあげて考えてみましょうか。
      社員100名のうち、親の介護や子育て、さらには自己啓発などの理由で、いつでも残業ができるような働き方ができない人が40人いる企業で、新規の大型プロジェクトを立ち上げることとなり、そのプロジェクトを任せる人材を5名選ぶとなりました。
      企業はどういう人を、どういう方法で選ぶと思いますか?

        会場風景

        いままでであれば、先ほど申し上げた「使い勝手の良い社員」を選ぶでしょう。
        しかし、その考え方では100人の人材のうち60人しか大切な仕事を任せられる人がいないということになります。残りの40人はどんなに能力があっても、経験があっても補助。最初から60人しかいないのと同じです。これは大変な人的資源の無駄遣いです。

        もう一つ、選ばれなかった40人はどう思いますか。
        大事な仕事はいまの自分では任せてもらえない、この働き方では会社からは評価されない、自分は会社にとって必要な人材ではないと思ってしなうのはムリもないでしょう。そういう社員が企業にコミットして、働いていけるわけがありません。これは双方にとって大きな損失です。

         ダイバーシティ経営の基本は「適材適所」と言っていい。これから企業がすべきことは「使い勝手の良い社員」を求めるのではなく、それぞれの社員の持つ能力や経験を生かせる働き方を模索し、それに合わせてビジネスモデルを変えていくことです。「使い勝手の良い社員」は従来の男性の働き方でした。つまり、男性の働き方の改革こそがダイバーシティ経営の実現の第一歩と私は考えます。

         ただ、このダイバーシティ経営の考え方に関する誤解もまだ 根強いです。

        先ほどの例で言うと、100人から新規プロジェクトメンバーに選ぶときに、ダイバーシティだから女性は必ず入れなくてはならない、外国人社員も入れなくてはならない、そう思っている人はいませんか。これは大きな間違いです。
        ダイバーシティとは結果としての多様性のことを指しているのではありません。100人の中から仕事に必要な経験や能力がある人材を選んで、その結果、5人全員が日本人の男性になってもいいのです。従来の「働き方の使い勝手のいい」社員をまず60人選んで、その中からプロジェクトメンバーを選ぶという方法に問題があるのです。

        会場風景

        それから「○○○ならでは」。これもよくあるダイバーシティの誤った認識で、「女性ならではのきめ細やかなフォローで」、「女性だけの開発チームらしい視点で」、「外国人だからこその意見で」、事業や新商品開発が成功したという話を耳にしたことはあると思います。
        しかし、女性だから、外国人だからではなく、そのプロジェクトリーダーやメンバーの経験や能力が成功をもたらしたということです。

          そのプロジェクトの成功要因が本当に女性だけの開発チームだったからだとすれば、また女性だけのチームを作れば成功が繰り返されることになりますが、そんなことはありえません。
          ダイバーシティとは、男性だから、女性だからと属性をひとくくりにして人材配置を考えることではなく、あくまでも一人一人の個性や能力を見て、それを最大限活用するための人材配置と職場環境づくりを進めていくことです。
          しかし、女性だから、外国人だからではなく、そのプロジェクトリーダーやメンバーの経験や能力が成功をもたらしたということです。そのプロジェクトの成功要因が本当に女性だけの開発チームだったからだとすれば、また女性だけのチームを作れば成功が繰り返されることになりますが、そんなことはありえません。
          ダイバーシティとは、男性だから、女性だからと属性をひとくくりにして人材配置を考えることではなく、あくまでも一人一人の個性や能力を見て、それを最大限活用するための人材配置と職場環境づくりを進めていくことです。

          企業の競争力基盤の変化に対応するために

          ~不可欠な『働き方改革』

           『働き方改革』の目的の一つは、安易な残業依存体質の解消と言いましたが、これは別の表現をすると時間を大切に使うということです。時間意識の高い働き方への転換は、時間生産性や付加価値生産性を向上させ、自ずと残業削減に繋がります

          では、社員の時間意識を高めるために企業はすべきことはなんでしょうか。
          簡単な方法は、従来の評価基準を変えることです。

          会場風景

          例えば営業の数字で言うと、月間売上げから1時間当たりの売上げで個人を評価する方法に変えるのです。もちろん企業ですから月間の売上げは大切ですが、さまざまな働き方をしている社員も合わせて全員を均等に評価できる基準や枠組みを設けていくということです。
          1時間当たりで考えると、6時間勤務の人も、8時間勤務の人も、8時間プラス残業の人も全員が同じ土俵で競争できるようになりますから、いままで8時間プラス残業で業績をあげて評価されていた人も、仕事にかける時間に頼る方法ではなく、効率を意識する方法へ働き方をシフトチェンジする必要があります。

            管理職に求められる新しい役割

            ~ワーク・ライフ・コンフリクトの解消

            企業の人材活用とは、社員一人ひとりの役割を理解し、その役割を担うための能力が足りなければ能力開発を支援することです。それと同時にそれぞれが持っている能力を100%発揮できるような高いモチベーションを維持させることも重要です。
            管理職は部下が意欲的に仕事に取り組めるようマネジメントするわけですが、いまよくあるのは、ずっとワーク・ワーク社員だった管理職とワーク・ライフ・バランスを大切にする部下のすれ違いです。昔は、みんなワーク・ワーク社員でしたから、部下が何をしたいか、どう考えているかは自分のことを考えていれば良かったのです。しかし、もはやその方法ではうまくいかなくなっています。社会人大学院に行って勉強したい、親の介護がある、子育てがあるなど、仕事以外に必要とする時間が各々にあるのです。これがワーク・ライフ・バランスです。

            ワークライフバランスが実現できる職場

              仕事上の責任を果たすことと仕事意外の生活で取り組みたいことの両立ができない状態になると部下はどうなりますか。当然、モチベーションも下がり、意欲的に仕事に取り組めなくなってしまいます。これをワーク・ライフ・コンフリクトと言います。

              これからの管理職にとって大事なことは「部下は自分と価値観が異なる」という認識をまず持つことです。
              ここが出発点です。

              自分とは違うという前提の中で、部下が何を求めているのか、何を大事に思っているかについてコミュニケーションを通して傾聴し、理解し、部下の多様な価値観、生き方、ライフスタイルを受け入れ、それぞれが意欲的に仕事に取り組むことができる環境をつくっていく。これが管理職に求められる大切な役割です。 

              ~有限の時間を最大限有効に使う 

              国際比較データをみると、日本はOECD諸国の中で長時間労働でかつ労働生産性が低い国です。
              良い仕事をしていても、その仕事にかけている時間に無駄があったり、やらなくていい仕事もやったりしてしまうのでトータルで見ると労働生産性が低くなってしまっています。
              これはつまり、時間を意識したマネジメントができていないということ。

                佐藤 博樹氏


                いまも昔も時間はもちろん有限ですが、以前は時間が限られているという意識をそれほどしていませんでした。
                『働き方改革』の出発点はここなのです。


                人間は制約がないと工夫しません。
                きちんと時間は限られていると認識すれば、無駄な仕事はやめるし、優先順位をつけるし、過剰品質もやめ、使える時間内で最大のアウトプットを出すための工夫をします。
                また、短時間勤務やテレワーク、在宅勤務などように、昔と比べて時間や場所を共有して互いを理解し合う、わかり合えるということが難しくなってきましたから、最短の時間でインプットの能力を高めることが必要になります。

                限られた時間を有効に使う。これがまさに『働き方改革』です。
                働き方や風土を変えることは重要ですが、1年やそこらでいきなり変わるものではありません。
                極端なことを言うと事業が変わった、経営者が変わったとしても、これだけは続けていくという強い継続意志を持ち、時間をかけて環境づくり、意識改革を進めていくことが大切です。

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