総合研究所の概要

お問い合わせ

資料請求リスト

コンプライアンス推進活動を一歩進める“共通認識”の醸成 【第1回コンプライアンス推進を阻む問題や背景とはなにか】

変わってきたコンプライアンスの概念

 第1回は、コンプライアンス推進を阻む問題とその背景についてお話しします。
 2001年から2002年にかけてアメリカでエンロン事件という巨額の不正経理、不正取引事件が起こり、世界中で「コンプライアンス」という言葉が注目されるようになりました。その事件の余波が日本に及び、2006年から2007年にかけて、「会社法」(内部統制の体制構築方針の義務化)、「金融商品取引法」(J-SOX・財務に関する内部統制報告書提出の義務化など)といった様々な法令が制定されました。その目的は、内部統制を強化し、株主の利益を経営者の専断から守るというものです。
 日本において、「コンプライアンス」という言葉が根付いたのはこの頃です。さらに、2014年には会社法が改正され、コーポレートガバナンス(企業統治)を強化し、社外取締役の機能や監査役の権限が強化されました【図1参照】。

【図1】企業を取り巻く法律の制定

【図1】企業を取り巻く法律の制定

 「コンプライアンス」という言葉は、comply with the lawの名詞形です。comply with は「~に従う」、the law とは、「文字に書かれたルール・規則・法律(有文律)」という意味ですから、comply with the lawで「法律に従う、法令遵守」となります。
 ただ、文字や言葉で表現できる内容は限定的です。当然、その解釈の過程で主観が入り、個人の価値観や判断基準に、その解釈が大きく依存します。その結果、「正しい」の判断基準は個人によって異なることが多くなります。

 そのため時が経つにつれてthe lawの意味が広がりました。文字で書かれた有文律に判断や解釈(すなわちそれは、常識であったり社会の良識であったりもします)が加わりました。これは「暗黙知」と言っても良いでしょう。
 「暗黙知」とは、言葉で明確には表せない知識のことであり、たとえば現場に脈々と受け継がれている風土や文化とも言い換えられます。社会や組織には「普通はこうする」というルールがありますが、文章になっていないので、「不文律」と言ったりもします。
 すなわち、「コンプライアンス」は、憲法、民法、刑法や就業規則といった法律・法令だけではなく、暗黙知や不文律も含む概念に変わってきました。
 そのため、「法律に従っているから大丈夫」というわけにはいかなくなりました。世間や世の中の常識から外れたことをすると、コンプライアンス違反として叩かれてしまうのです。ここで言う「世間」とは、自分がそこからはじかれたくない空間の広がりです。会社で言えばステークホルダー(利害関係者)に近く、株主や取引先、監督官庁(役所)、お客様、地域住民、従業員やその家族などを指すでしょう。一方個人では冠婚葬祭をイメージすれば分かりやすく、自分が所属していたいと感じている集団(例えばご近所づきあい、同窓会など)のことを指します。
 近年、世間を敵に回してしまった例としては、都道府県知事・議員の政治資金問題という出来事が思い起こされます。中には、政治資金規正法に違反していないものの、暗黙知、不文律、常識、世間といった面からのコンプライアンスで失敗してしまったと考えられます。ひと昔前より、世の中の常識・良識から外れないように振る舞うことを社会から非常に強く求められるようになっており、これが今のコンプライアンスの概念であると言えます。

リスク感度を上げる

 企業の会計不正を新入社員が見つけることがあります。経験の浅い社員がなぜ不正に気づくのでしょうか。それは組織の考えに染まっておらず、「おかしいものはおかしい」と思えるからです。起こる事象にいちいち反応していたら人間は疲れてしまうため、「慣れ」が出てきます。これは脳の正常な働きで防衛本能です。しかし、慣れていった時に、世間や常識からずれていってしまい、「うちはこういう風土なのだ」と思い込み、不祥事に気づかなくなってしまいます。
 したがってコンプライアンス推進においては、リスクの感度をあげることがとても大切です。
 ここで「リスク」とは悪い意味だけではなく、良いこと悪いことの両方を含んだ「不確実性」を意味します。これは、最近の内部統制を考える上でのリスクの一つの定義でもあります。判断を鈍らせないようにするためには、リスクへの感度を上げていくことが重要なのです。
 経団連は、2002年から企業不祥事防止に向けて様々な取り組みをしてきており、2004年には「企業行動憲章」を改訂し、企業が取るべき行動を明示しました。【図2】にあるように、多くの企業では、行動憲章の制定やヘルプラインの設置、教育研修などに取り組んでいます。しかし、不祥事は業種を問わず起こり続けています。

【図2】企業各社の取り組み

【図2】企業各社の取り組み

コンプライアンス推進を阻むものとは

 様々な仕組みを設けても、なぜ不祥事がなくならないのでしょうか。
 それは、形ばかりの仕組みが作られてしまい、現場に受け入れられていないためでしょう。どんなに立派な仕組みを作ったとしても、その本当の意味が社員に伝わっておらず、うまく運用されていないのです。
 コンプライアンスの考え方が現場にうまく浸透していない状態として、経営層と施策推進担当部署・現場間に固いバリアができてしまっていることがあります【図3参照】。
 経営層は、例えば会社法や男女雇用機会均等法、個人情報保護法など様々な法律の改正を社会からの要請として体全体で受け止めています。また昨今従業員のハラスメントへの意識が高まるなど、時代の変化もとらえています。
 しかし施策を検討し展開している部署(コンプライアンス推進室やダイバーシティ推進室等)や現場は、経営層と同じリスク感度を持っているとは限りません。トップからのやらされ感でルールづくりをしたり、厳しく取り締まられるから仕方なくルールを守ったりといったように、社会の要請や時代の変化に対して閉じてしまっていることがよく見受けられます。このような状態では経営層からの方針は浸透せず、発信したメッセージも現場まで響きません。

【図3】時代や社会からの要請に対して閉じた施策展開になっていませんか?

【図3】時代や社会からの要請に対して閉じた施策展開になっていませんか?

 また、自社の文化や組織風土について深く考えが及ばず、それらを加味した施策になっていないこともあります。

 昨今の時代の要請のひとつに、「集団的内部統制」という考え方があります。内部統制という仕組みをグループ全体で考え、グループトップの方針を各社と共有していく施策です。その際一番大事なのが、自社の文化や風土とは一体どういうものかをとらえ、全体の方針に加味していくことです。

 企業の文化や組織風土とは、例えば慣例的な仕事の進め方であり、暗黙の価値観であり、無意識下の判断基準のことです。
 それらは、不文律のため見えにくく、意識されないために、なかなか変わらない、変えようと思っても変えにくいものです。
 とは言うものの、2020年のオリンピックを契機ととらえ、自社の文化や組織風土の見直しに着手している会社もあります。時代に非連続のインパクトを与えるオリンピックはビッグチャンスであり、良いものはそのまま残し、良くないものは変えていこうとしているのです。激変する世の中であるからこそ、わが社の文化や組織風土のあるべき姿について、トップから現場に至るまで、真正面から考えていくことが必要です。

 会社の理念や職場の風土を言葉で表す演習を各階層(例えば経営層、管理職層、現場)で行うと、各階層で全く異なる言葉が出てくることがあります。言葉で表すことによって、初めて会社の理念や職場の風土がどのようなものであるかを明示的に考えることができ、お互いの認識の差を理解することが可能になります。このように、会社の理念や職場の風土について議論すること自体が大事なプロセスであると感じています。

 ここまで、コンプライアンス推進を阻む背景や問題として、時代や社会からの要請が強まりトップへのプレッシャーが増してきたこと、多くの企業が一通り施策は打っているものの不祥事はなくならないこと、現場の意識・やり方は企業文化、風土に根付いており、なかなか変わらない、ということを取り上げてきました。抱えている問題は簡単ではありませんが、第2回目で、その解決の方向性を探っていきたいと思います。



(学校法人産業能率大学 経営管理研究所 主任研究員 赤松育子)

各テーマをクリックすると、内容ページへ遷移します。

連載 テーマ 公開日(予定)
コンプライアンス推進活動を一歩進める“共通認識”の醸成 2017年3月7日
第1回 コンプライアンス推進を阻む問題や背景とはなにか 2017年3月7日
第2回 コンプライアンス推進に向けた方向性
その1:統制型アプローチ
2017年3月15日
第3回
(最終回)
コンプライアンス推進に向けた方向性
その2:共有・共創型アプローチ
2017年3月28日
テーマは若干変更することがあります。予めご了承ください。

ページ先頭へ

  • 導入のご相談、提案のご依頼、各種ご質問はこちらからどうぞ
  • 資料をご希望の方はこちらからどうぞ(無料)
  • 総合研究所 経営管理研究所
  • 官公庁・自治体職員向け研修案内
  • グローバルマネジメント研究所
  • サンノーWebサポート
  • SuperGrace Web成績管理システム
  • マナビバサンノー
  • sannoメール登録