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中小企業だからできる“CSV”の可能性【第5回 企業と社会、そして人~『これからの経営』を考える~】(2/2)

中小企業だからできる“CSV”の可能性 
~学校法人産業能率大学総合研究所兼任講師 今瀬勇二先生に聞く~

本橋

「企業の社会性」という観点から考えると、企業理念、特に近年の企業理念には、その企業の「社会的な使命」が何らか織り込まれているように思います。
先ほどの「何のためにこの事業をしているのか」の「何のために」の部分に、社会貢献的な意味合いが何らか含まれてくる、ということでしょうか。

    今瀬

    そこについての考え方は、私は少し違います。たとえば、M.ポーターが少し前から「CSV(Crating Shared Value)」ということを言っています。
    私はポーターは大好きで、本にも書いたくらいですが、私の解釈では、この「CSV」というのは社会の中での共有する価値、「共通価値」のことだけれども、一方、かつて日本が成長してきた時期には、こういう「皆が共有している価値」があったとも思う。
    たとえば、「天然色のテレビが見たい」の「天然色」とか。「白黒ではなくカラーで見たい」と、皆がそう思っていた。そしてカラーテレビができた。
    もっと前になると、「この自転車、踏まないで前に進むといいなあ」という皆の思いがあって、それでメーカーが小さなエンジンをつけて、バイクを造った。
    あとは電卓。昔はものすごく大きな計算機で、それを「持ち歩きたい」という思い、あるいは「小さいものがいい」という「価値」があって、ポケットに入れられるようなものになっていった。
    昔はそういう、皆が欲しがる共通の「価値」があった。これが、今はなくなっている。あるいは、見えなくなっている。こうなると「CSV」が活きてくることになる。

    私は、「CSV=“不”の解決」だと思う。この「不」というのは「お客さまが、本当に欲しがっているもの」のことで、今で言う「社会が求めている価値」だと思っている。これが何なのかということを掘り下げていって、それに対して商品やサービスを提供すると、お客さまも満足してくださる。
    今はそこまで掘り下げないと、この「価値」が出てこない。私は「CSV」というのはこういうことだと、ある意味勝手に、解釈しています。
    そして、この「不」をどう見つけるかが勝負だと思っていて、私は経営指導をしている顧問先には全部、“「不」探し”に取り組んでもらっています。「お客さまの“不”は何なんだ?」と。この「不」を押さえると、それが差別化のポイントになる。ポーターが言う、「二次機能」です。
    たとえば、飲み物で言えば、味機能プラス「アルファ」の部分です。「味」に加えて、温度管理がきちんとできていること、そういうところを押さえることで、競合は崩しにくくなる。その源になるのが「お客さまの“不”」で、「冷たいものを、さっと飲みたい、この味で」に応えるのが「不の解決」になる。
    私はこれが「価値=バリュー」だと、「CSV=Crating Shared Value」というのはこういうことだと思っています。

    かつては、「社会的な価値」があって、見えていたのが、今は見えなくなっている。ただし、なくなったのではなくて、小さくなって「個々の価値」になっているということです。
    社会全体で同じものが不足していて同じ物に価値を置いていたのが、今は一人ひとりが満足していないもの、その“不”が何かを探さなければいけない。これを「ニーズの多様化」というような言葉で片づけないで、きちんと見つけて掘り下げていくことが大事だと考えています。

      本橋

      そのように「不」が個々人のレベルのものに、小さくなっていくと、それに応えるのは採算が合わない、という問題も出てくるのではないでしょうか?

        今瀬

        そこに応えるのが、中小企業です。大手では採算が合わなかったりしてできないところを、中小企業がやっていく。
        そうやって強くなって、培った技術力で、大手の支援をすればいいのです。中小企業が元気になれば、大手も元気になって、日本経済も元気になる。
        中小企業は大手にぶら下がっているものだという意識がもしあるとすれば、それは変えなければいけない
        と思います。現に、大手はすでに、どんどん海外に行っています。
        それをもう一度日本に戻ってきてもらうには、中小企業が新たな技術を開発して、大手にとって魅力的な存在にならなければいけなりません。だから私は個人的には、中小企業が海外に出て行くのは、あまり賛成ではないのです。
        国内の「不」を見つけて、それを解決できるだけ強くなって、そして海外に出て行った大手を呼び戻してもらいたい。そう考えています。

          本橋

          先生が経営指導をされている企業で、そういう“転換”が成功した事例はありますか。

            今瀬

            ある運送業者の事例ですが、そこでは、今までは大手から荷物をもらって仕事をしていたのが、どんどんその量が減ってきていた。
            「このままではダメだ」ということで、待っているだけではなくて、荷物を根本的に増やす方法を考えることにした

              そこで「お客様が“不”に感じていることは何か?」を考えていったときに、「加工する」ことを加えてみようという考えがでてきた。
              結果的にここでは、「運送業」から「運送加工業」へと業態がかわることになりましたが、「荷物を待っているだけの状態」から脱却して、「独り立ち」することができました。この結果、この会社の自己資本比率が数%から39.8%にまで成長しました。

                学校法人産業能率大学総合研究所兼任講師 今瀬勇二先生

                本橋

                お話をお伺いしていると、小回りのきく中小企業には、社会の中にある「困っていること」に細やかに対応して解決していく、そうした社会性を持った事業ができる可能性が多々あるように感じられます。

                  今瀬

                  「企業の社会性」というと、皆よく「ボランティア」や「福祉」というけれども、これらには生産性という点から限界があるので、企業の皆がこちらへ行ってはいけないと思っています。
                  「CSV」や「不の解決」では、事業として稼げるか、採算が取れるかが重要で、企業としてはまずここをきちっとやって、国に税金をちゃんと納めることが大事だと思います。
                  今の日本全体を見たときに、税金を払えない企業が非常にたくさんあるのを解決することがまず先だし、それが結果として、「福祉」などの課題の解決にも役立つことになるのです。

                    本橋

                    今までのお話は経営(者)の観点からですが、管理者や一般社員にはどのようなことを期待されますか。

                      今瀬

                      そこは社員の「質」ということもあるので難しい問題です。
                      経営者が初代のときには、その初代が引っ張っていけるのでまだいいのですが、二代目以降になると先ほどの話のように「組織力」が問われることになってきて、社員に「考えて」もらわなければならないわけです。
                      これが中小企業の場合は非常に難しくて、最初から育て上げていかなければならないことになるので大きな課題です。

                        本橋

                        先生は、学校法人産業能率大学総合研究所兼任講師としても、さまざまな研修で御活躍されていますが何か工夫されている点などあれば教えてください。

                          今瀬

                          私は中小企業診断士として独立してから、学校法人産業能率大学兼任講師としての仕事を2、中小企業診断士としての経営指導の仕事を1、ぐらいの割合でずっとやって来ています。
                          私が誇りに思っているのは、学校法人産業能率大学兼任講師の仕事でリピートを多くいただいているということです。
                          去年ある企業でやらせていただいた集合研修を、今年も同様にやらせていただける、「先生、また来てください」とお声をかけていただけるということですね。こういう状態を作るために私は、同じ研修内容であっても、お客様に応じてアイデアを盛り込んだり、「現場」に接するところを大切にしたりと、工夫をしています。
                          私は、「研修というのは、職場で使えなければだめだ」と、ここが絶対だと思っています。
                          私も企業に勤めていたときにはいろいろな研修を受けましたが、理屈はわかるけれども職場に戻ってから全然使えない、というものが案外多かったように思います。
                          これではダメだという問題意識はずっと頭に焼き付いていたので、学校法人産業能率大学兼任講師として仕事をさせていただくことになったときには、「現場で使える研修がしたい」という気持ちがまず一番にありました。
                          研修のプログラムやコンテンツを、どうお客様ごと、毎回の受講者ごとに、「現場」で使えるように落とし込んでいくか。これが私の一番こだわっているところだし、やるべき仕事だと考えています。

                            本橋

                            「現場を知る」のはとても重要なことだと思いますが、1日の研修の中では、実際にはなかなか難しいのではないですか。

                              今瀬

                              私は、できるだけ現場について受講者から聞きながら、研修を進めるようにしています。
                              受講者の生の話を聞きながら、自分で感じ取っていくわけです。もちろん、研修でお客様のところにお伺いする前にいろいろ調べたりもしますが、実際に受講者から聞いたことにはかないません。研修を進めながら「今回の受講者は、どこが弱いのか」ということをいつも意識していて、グループワークの話を聞きながら「どうすれば“現場”に落とし込めるか」を常に考えています。そうやって、研修を「現場合わせ」するのです。

                              私は研修ではいつも、「必ず1つは、何か持ち帰ってほしい」ということを言っており、研修の最後には必ず一人ひとり発表をしてもらうことにしています。「帰ってから、何をやるのか」につながるようなことをです。
                              そしてその場面では、僕は必ず褒めることにしています。大事なのは、その内容の評価ではなくて、現場に戻って本人がそれをやろうという気持ちになること、その“励み”を与えることです。

                              集合研修を、プログラムやテキストの通りにやるだけだったら、極端な話、誰でもできるかもしれません。でも、企業に合わせて、その日の受講者に合わせて、最終的には現場で使われるように落とし込んでいくのは非常に難しいことです。
                              私は研修講師としては、ここに一番、時間と労力をかけています。研修で使うパワーポイントも、前日の晩ぎりぎりまで手を加えてしまいます。だから、「パワーポイントだけ事前にください」と言われるのが一番困ります(笑)。

                              でも、おかげさまでリピートを多くいただいていますから、こういうこだわりもお客様に認めていただいているのかなと、本当にありがたいことだと思っています。
                              この数年来、マネジメント研修とコンプライアンス研修を多くの階層でやらせていただいているある企業では、最近、受講者の「言うことが変わったなあ」と感じることがあります。そういう変化は、本当に嬉しいですね。

                                本橋

                                今後はどのようなテーマでの研修をしていきたいとお考えですか。

                                  今瀬

                                  私はこれからも、「使える研修」にこだわっていきたい。
                                  領域として、「財務」から「競争戦略」そして「マーケティング」へと続いていくような一連の研修を組み立ててはどうかという構想を持っています。最初は「財務」。これはベースであり、ここに企業の方向性は見えてくる。
                                  財務で企業の状況を押さえたら、それを経営戦略につなげて、それを市場に落とし込むマーケティング戦略をやる。本当は「財務」の前に、「マインド」や「資質」を磨くのが理想ですが。こうした骨組みを作っておいて、そのうえで、企業や受講者に合わせて、実際に現場で使えるように形を変えていく。
                                  これが私の追求していきたい研修ですし、今後もこだわっていきたいと思っています。

                                    今瀬 勇二(いませ・ゆうじ)
                                    学校法人産業能率大学総合研究所兼任講師、中小企業診断士。茨城大学文理学部経済学科卒業、三共生興株式会社、DCE Japan株式会社(代表取締役)、Nippon Donaldson株式会社(特別プロジェクト・コンサルタント)等を経て現職。
                                    主な著作に『小さな会社こそが勝利する「ポーターの競争戦略」』(明日香出版社)など。
                                    講師として主に経営幹部層を対象とした研修をさまざまな企業で行うと共に、事業承継・後継者育成から競争戦略構築、技能伝承まで、さまざまな領域で中小企業の経営指導を行っている。

                                    (学校法人産業能率大学 総合研究所 本橋 潤子)

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