前回のコラムでは、本学の調査結果を紐解きながら「職場でなぜOJTがうまくいかないのか?」について考えてみました。
今回はいよいよ、「どうすればOJTをうまく進め、新入社員を育てることができるのか?」について考えていきたいと思います。
まずはじめに結論めいたことを申し上げますが、“『OJTの基本』を無視してOJTをうまく進めることはできない”ということをお伝えしておきたいと思います。
なぜなら、「忙しい」「教え方が分からない」「(ウチには人を育てる)風土がない」「だからOJTがうまくいかない」という話がよく聞かれますが、多くの企業・組織ではこれまでにも既に、「人事部からの説明会」や「OJTに関連する研修」など、何らかの形で学習機会が提供されてきているはずだからです。
“効果の出ない教育をする方が悪い!”と言われてしまえばそれまでですが、少なくともOJTの概要くらいは知っているはずなのに、きちんと実践に移しきれていない、だからその結果としてOJTがうまく回っていない、という方がむしろ実態に近いのではないでしょうか?
第一回のコラムでもご紹介したとおり、本学ではOJTを『上司や上級者など(OJTリーダー)が部下や後輩(メンバー)に対し、日常の業務を通して、その業務に必要な能力を意図的・重点的・計画的に習得させる教育手段』と定義しています。
しかし、一人ひとりの新入社員に対して必要な能力を「見定め」、「意図的」、「重点的」、「計画的」に習得させるというのは容易なことではありません。
本学でも、OJTリーダーや管理者向けに“職場での人材育成”に関わる各種ソリューションをご提供していますので、参考にしてみてください。
【OJTリーダー向けのコース】
新入社員育成リーダー養成研修
【管理者向けのコース】
OJDマネジメント研修
それでは、OJTの大枠(何を、いつまでに、どうやって習得させるか)が固まったところで、どのように新入社員と接しながら、指導していけば良いのでしょうか?
特に近年の“ゆとり世代”と呼ばれる新入社員に対して、ここでは次の4つのポイントを挙げたいと思います。
新入社員への関わり方
1. | “仲間”として迎え入れ、期待を伝える |
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2. | やってみせる、実力をみせる |
3. | 指示する際には背景や意図を伝え、できたことを具体的に褒める |
4. | 叱るときは、相手のためを思って本気で、叱る |
前回のコラムでもOJTがうまくいかない理由をご紹介しましたが、OJTがうまくいかないケースの多くには、実は受け入れ側のOJTに対する意識的側面が影響していることが少なくありません。
もしOJT担当者が、「ただでさえ忙しいのに、何で私がOJTなんかしないといけないんだ」と思いながら新入社員と接していれば、そうした気持ちは日頃の何気ない言動を通じて相手にも伝わってしまうものです。
皆さんも、自分自身の新人時代を思い起こしてみてください。企業・組織に入ってまだ間もなく、右も左も分からない状態にも関わらず、もし“自分はこの組織から必要とされていない”“自分は職場の皆から歓迎されていない”と感じたとしたら、一体どんな気持ちになるでしょうか。とりわけ、「仲間から認めてもらうこと(承認)」「仲間と一緒に助け合いながら活動すること(一体感)」を大事にしている若手層にとって、夢を抱いて入ってきた組織に自分の居場所が無いことほど、悲しいことはありません。
新入社員を受け入れる際には、「ゆとり世代だから」という先入観に囚われず、ぜひ「仲間として歓迎している」「今後の活躍に期待している」というメッセージを伝えていただきたいと思います。
先生や指導者が尊敬の念を持って迎えられたのも今や昔、世の中の変化が激しく年長者であることが必ずしもアドバンテージとならない今日においては、新入社員の信頼を勝ち取るのも楽ではありません。
特に近年の若手層には、“自分にとってリスペクト(尊敬)できる要素がない”と判断された瞬間に、心のシャッターが閉じてしまう傾向があります。
デジタル世代の特徴なのかも知れませんが、何事も0か100、白か黒かのいずれかしかなく、中間のグレーゾーンが非常に少ない(≒曖昧な状況に耐えきれない)ため、早い段階で新入社員に仕事ぶりを見せ、“あの人についていけば大丈夫”と思ってもらえる存在になることが重要です。
ただし、あまりに優秀な上司・先輩の存在は、かえって新入社員に強烈な無力感を植えつけてしまうケースもあるため、注意が必要です。無理にへりくだる必要はありませんが、時には新人時代の失敗談を披露するなどして、“仕事はできるが身近な上司・先輩”となれるよう工夫する必要があるでしょう。
近年の若手層の特徴として、与えられた仕事の意味を自分なりに納得しないとなかなか動かないという点が挙げられます。
指示された仕事が、「自分の成長に役立つ」「社会貢献に結びつく」と判断されればとても熱心に仕事に取り組んでくれますが、自分のモノサシで理解できない指示や作業に対しては、「それは私の役割ではない」「私にはそんなことをしている時間はない」などと平気で断ったりもします。
「石の上にも三年」という言葉がありますが、今の若手にとって三年の下積みは、途方もなく長い時間に思えるようです。
指導する側からすれば手間はかかりますが、指示した仕事が、「職場メンバーにとってどのような意味を持つか」「お客様や市場、社会に対してどのような意味を持つか」「あなた自身の成長にとってどのような意味があるか」といったことについて、ぜひ丁寧に説明してあげて欲しいと思います。
それと合わせて、依頼した仕事の成果に対しては、具体的に良かった点(必要があれば改善点)を伝え、感謝の気持ちを伝えてあげてください。
小さな成功体験を積み重ねていくことが、自身の役割に対する認識や自己効力感の醸成につながり、さらに前向きに仕事に取り組む意欲を高めてくれるでしょう。
「ゆとり世代」と呼ばれる近年の若手層と話をしていると、学生時代までほとんど叱られた経験がないという話がよく出てきます。
親も、先輩も、先生も“友達感覚”で付き合ってきた彼ら・彼女らにとって、“野球ボールが近所の家の窓ガラスを割ってしまい、カミナリ親父にこっぴどく叱られた”というようなエピソードは、もはやマンガの中でしかお目にかからない、リアリティのない話なのかも知れません。
このように、叱られることへの免疫が少ない若手層に対しては、叱り方一つとっても注意が必要です。
感情的になって怒鳴り散らすのは論外ですが、「何がまずかったのか?」「何故まずかったのか?」を筋道立てて説明し、諭す方が相手にも受け入れられやすいでしょう。“相手を認めつつ叱る(例:今回のことは○○さんらしくないなぁ)”という高度テクニックもありますが、慣れない人がこれをすると、心からそうは思っていないことが見え見えになってしまいます。
いずれにしても、“私(I)が気に食わないから叱っている”のではなく、“あなた(YOU)の成長と、将来の活躍のために叱っている”“我々(WE)が成果を出すために、しっかりしてほしいから叱っている”というように、『相手のためを思って本気で向き合っている、だからあえて厳しいことを言っている』という伝え方を心がけることが大切です。
【参考:部下・後輩指導スキルを習得するためのコース】
ビジネスコーチング研修
ここまで、OJTをうまく進めるためのポイントについて解説してきましたが、最後に一点、OJTに取り組む際の心構えについて補足しておきたいと思います。
私自身、子育てをしながら社会人教育という生業に携わっている身として痛切に感じることですが、やはり新入社員のそれまで二十数年間に渡る生育歴が、本人の思考・言動に及ぼす影響は少なくありません。
OJTリーダーの役割、責任は非常に大きなものがありますが、100点満点や完璧さを求めすぎると、上手くいかないことばかりが目につき双方が自信ややる気を失ってしまいかねません。OJTリーダーはあくまで脇役であり、主役は指導を受ける本人なのですから、やるべきことをやったならば、最後は“人事を尽くして天命を待つ”という心持ちでどっしり構えているくらいが丁度良いのかも知れません。
相田みつを氏の書に「自己顕示」という詩がありますが、そこに書かれている“『この花はおれが咲かせたんだ』 土の中の肥料は そんな自己顕示をしない”という一節が、OJTリーダーのあるべき姿をも物語っているように、私には思えてなりません。
今回は、OJTをうまく進めるためのポイントについて皆さんと一緒に考えてみました。次回は、企業のOJTに関わる取組み事例をご紹介しながら、コラムをまとめたいと思います。
~第4回へ続く~
新入社員育成では、プロ人材への成長に向けた組織人としての基盤づくりをステップを踏んで取り組むことが重要です。産業能率大学では、「内定者」「新入社員(新人)」「若手社員」と段階を区切り、各段階での育成課題に基づき、最適なソリューションをご提案します。
連載 | テーマ |
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第1回 | 最近の新入社員の傾向・特徴とは? |
第2回 | なぜ、OJTがうまくいかないのか? |
第3回 | どうすれば、OJTがうまくいくのか? |
第4回 | OJTを機能させるための教育とは? |