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「仕事センス」の有識者解説

今の新入社員には「仕事センス」がない?

齊藤 弘通  産業能率大学 経営学部 准教授
齊藤 弘通SAITO HIROMICHI
産業能率大学 経営学部 准教授
慶應義塾大学文学部人間関係学科教育学専攻卒業。
法政大学大学院政策科学研究科修士課程、法政大学大学院政策創造研究科博士後期課程修了。博士(政策学)。雇用・キャリア政策を専攻。
1998年から、学校法人産業能率大学 総合研究所にて、研修プログラムの開発や人材開発に関する実態調査、サービス組織に対するコンサルティングなどに従事した後、現職。
専門分野は、職業能力開発、継続教育論、質的調査法。
主に、わが国の高等教育機関における社会人教育の実態やそこでの学修効果、企業内教育との接続のあり方などについて研究。

仕事センスの醸成が新人育成の課題となっている背景

新入社員や若手社員をめぐって、「指示待ち社員が多い」といった言説を様々なところでよく耳にします。
「自分の考えに固執し、上司や周りの意見を聞かない」「言い訳が多く、自己防衛的になる」「上司や同僚とのコミュニケーションがうまく取れない」などの「自己中心的な行動」や「言われたことはこなすが、それ以上のことはしない」「失敗を恐れ、挑戦しない」「自分の頭で考えようとせず、答えを求めたがる」などの「主体性不足」の側面を、若手社員の指導・育成上の問題点として指摘する研究[1]もあります。

こうした点を踏まえると、人の指示・要望の意図や状況変化の機微を感じ取り、自主的に判断・調整しながら、自分なりに工夫して仕事をやり遂げる人材= “仕事センスのある人”への需要が高まっているように感じます。

こうしたことが新入社員や若手社員をめぐる育成上の課題として挙げられる背景にはいくつかの要因があると考えられます。

まず、大学進学率の上昇です。平成28年度学校基本調査(確定値)[2]によれば、大学・短大(現役)の進学率は54.8%で過去最高となっています。
アメリカの社会学者マーチン・トロウは、高等教育進学率が50%を超える状態を「ユニバーサル段階」と呼び、この段階では様々な階層に対して教育機会を提供する必要があることから、多様な選抜方法が求められるようになることを指摘しています[3]。

進学率が向上し、選抜方法が多様化すれば、学習意欲や能力、学習ニーズなど、入学者の質や要望も当然多様化します。
そのため、今多くの大学では、専門教育以外にも、実践的なスキルを身につけるための授業や、基礎学力を底上げするための補填授業、キャリア形成のための能力や態度を醸成するキャリア教育など、多様なカリキュラムが用意され、「大学教育の質保証」に向けた取り組みが行われています。
時代背景に鑑みて、こうした取り組みの必要性は感じるものの、他方、学生は専門科目以外にも様々な科目の課題に取り組まなければならず、傍目には今の学生たちが昔の学生に比べ、とても“忙しく”なっているように映ります。

日々課題に追われ、与えられたことを漫然とこなすだけになってしまうと、ほかのことに関心を向ける余力もなくなり、いつの間にか学生の学習姿勢が受け身になってしまうようにも思えます。
昔の大学生よりも勉強の時間は多く、実践的な授業も受けているのに、受講の仕方によっては能動的に学ぶ力がかえって衰えてしまい、「与えられた課題を効率的にこなそう」としてしまう可能性があるというのは実に皮肉な展開です。

また、ICTの進展に伴う情報検索機能の充実化も背景の1つに挙げられるかもしれません。
知りたいことがあれば人とコミュニケーションを取らなくてもインターネットで検索して情報を安易に得られるのも、デジタルネイティブ世代の当たり前。
便利な検索ツールやデータベースが目の前にあるので、ときには“無駄”や“失敗”をともないながら“試行錯誤”して自分なりの答えを導くという貴重な経験も失われがちです。
デジタルネイティブ世代にとっては、“わからないことは考えるより聞く、検索する”“答えは自分の外にある”“物事をできるだけ効率よく進めたい”と考えるのは当然なのかもしれません。
一方、企業が求めているのは、コミュニケーション能力や主体的に課題を発見できる力を持った人材。 社会に出た新人がこれまでとは真逆のことを求められ、そのギャップや試練につまずいてしまうのも頷けます。

“知恵”を駆使して、仕事の付加価値を高める努力をする。

今日の社会は、新しい知識や技術、情報、知恵が様々な社会活動の基盤として重要な位置を占める「知識基盤社会」[4]です。
資本や労働が重要な要素であり、「モノをつくれば売れた」かつての工業社会とは違い、知識社会では、資本や労働に加え、知識や知恵が企業の競争力の源泉となり、それが既存の産業構造を革新していく可能性を秘めています。
UBERやAirbnbなど、新たに生み出されたサービスが、既存の業界や事業者に対して脅威となっていることなどはその典型でしょう。
齊藤 弘通  産業能率大学 経営学部 准教授

効率性ではなく、創造性が重視される今日の知識社会では、労働の知的側面がより重要性を増しており、働く者一人ひとりが知恵を駆使していかに自分の仕事に付加価値をつけていくかを考える必要があります。
与えられた仕事をただ漫然と、効率的にこなすだけでは、AIや高度なICT技術に仕事を奪われかねない時代状況の中で、自分の仕事に付加価値をつけ、他者が行う仕事との差異化を図っていくことは、ビジネスパーソンの「サバイバル」戦術として重要な課題と言えるでしょう。
自分の仕事に「これまでにはない新しさ」を加えていくためにはアイデアが必要です。
そうしたアイデアを生み出すためには、既存の知識やこれまでの経験だけを頼りにするのではなく、新たな知識や経験を得る努力が求められます。
これまであまり縁のなかった領域の活動やコミュニティにも積極的に参加(越境)し、社会のトレンドの変化や、人々の潜在的なニーズに触れる努力をすることも有用でしょう。
こうした努力を通して、時代の変化や、人々のニーズの移ろいを敏感に察知し、解決すべき組織や社会の課題をいち早く発見するセンスを磨くことも、これからの仕事においてはとても重要だと考えます。

職場の多様化が進む今、他者が置かれた状況への配慮が益々求められる。

本学が行っている「上場企業の課長に関する実態調査」[5](2016年3月実施)では、「職場」や「職場の部下」の状況について、「外国人社員」や「非正規社員」、「家庭の事情で労働時間・場所に制約がある社員」、「介護が必要な部下の存在」などが3年前に比べて増えたとする結果が出ています。 こうしたデータを見ても「職場環境の多様化」は如実ですし、これから益々その様相は深まっていくと考えられます。

多くの日本企業では、これまで勤務地や職務、労働時間が限定されず、「いつでも、どこでも、何でもやる」“無限定正社員”を暗黙の前提に据えたマネジメントを行っていましたが、今は、外国人社員や非正規社員に加え、介護や育児などの理由で労働時間や職務内容、勤務地に制約のある“限定正社員”も職場に一定数存在しており、こうした「職場の人員構成の多様化」に応じて、マネジメントのあり方にも個々の事情への配慮が求められています。

さらに、今は多様なメンバーで構成されたチームで仕事をするプロジェクトワークが増えており、限られた時間の中で個々のチームメンバーの力をいかに引き出し、成果を創出することができるかが問われる状況となっています。
そのため、プロジェクトリーダーには、プロジェクトを円滑に進めるための技術や知識に加え、個々のメンバーが置かれた状況や立場、ニーズに共感できることも大切になります。

さまざまな状況にある人の意識や行動をよく観察すること、チームメンバーに特別な配慮が必要な状況があれば調整して解決できること、まわりに気を配りながらコミュニケーションを取るセンスなどもこれからの職場・チームマネジメントには求められることだと思います。

新人が仕事センスを身につけるためにやるべきこと。

「人の指示・要望の意図や状況変化の機微を感じ取る」
「自主的に判断・調整しながら、自分なりに工夫して仕事をやり遂げる」
「時代の変化や、人々のニーズの移ろいを敏感に察知し、解決すべき組織や社会の課題をいち早く発見する」
「周囲の状況に配慮しながら仕事を進める」…
新入社員がこうした“仕事センス”を身につけていくためにはどうしたらよいでしょうか。

まずは “問題意識”を育てることが重要だと考えます。与えられた仕事をただ言われたとおりにこなしているだけでは“問題意識”は育ちません。“問題意識”を養うためには、これまで「当たり前」だと思われていること(=暗黙の前提)を疑うことが大切です。

「先輩からこういう風にやれ、と指示をされたが、本当にこのやり方がベストなのだろうか?」
「わが社の企画書フォーマットは昔からこの体裁だと聞いたが、このフォーマットはお客様の立場から見てわかりやすいものだろうか?」など、これまで社内の常識、当たり前とされてきたことを鵜呑みにするのではなく、健全に疑ってみる姿勢を持つことが必要です。

次に、こうした健全な批判精神をもって、自分の周囲の状況をよく観察し、仕事現場に潜む“問題”を見つける努力を行うことが必要です。 仕事現場に潜む“問題”を見つけられれば、「もっとこうしたほうがいい」「こうした方がよりわかりやすくなるだろう」などと、おのずと主体的に考える意欲も芽生えてきます。
つまり、主体性とは、どれだけまわりのことに問題意識が持てるか、が出発点になっていると言えます。

私も、大学のゼミで、学生の問題意識を育てるために、フィールドワークを積極的に行っています。
フィールドワークで観察した事実から、解決すべき問題を発見するために、固定的なモノの見方を変え、様々な視点から事実を捉え、解釈すること、自分の中で当たり前と思っていることを疑う意識を持つことを繰り返し伝えています。
こうした意識をもってフィールドワークを繰り返し行うことで、徐々に周囲の状況や、潜在的な問題(=人々のお困りごと)にも敏感になっていくのです。

フィールドワークでは、結論にいたるまでに効率が悪くてもあれこれと考えることや失敗をする過程が大切な学びになるのですが、スピード感が重要視されるビジネスの世界では、仕事現場において新人にあれこれ試行錯誤させることや、寄り道をさせること、時には失敗を経験させることは現実的に難しいかもしれません。

新人をOJTする過程で失敗経験や寄り道経験をさせにくいとした場合、「新入社員研修」のようなOff-JTの場面で、仕事現場に出てから起こりうる様々なミスやトラブルを事前にシミュレーションすることができたら、それは現場で求められる仕事のセンスを磨く一助になるかもしれません。
新人が現場に配属され、実際のミスやトラブルに遭遇した際、事前のシミュレーションで、ある程度予測がついていれば慌てず対処できる確率も高まるでしょうし、たとえ失敗しても必要以上に落ち込むことを防げるなど、ある種の“予防接種”のような効果を期待することもできます。

「人の指示・要望の意図や状況変化の機微を感じ取る」
「自主的に判断・調整しながら、自分なりに工夫して仕事をやり遂げる」
「時代の変化や、人々のニーズの移ろいを敏感に察知し、解決すべき組織や社会の課題をいち早く発見する」
「周囲の状況に配慮しながら仕事を進める」…

こうした仕事センスが益々求められるこれからの社会において、それをどのような方法で身につけさせるかは、大学教育はもとより、企業の人材育成にとっても重要な課題と言えるでしょう。

  • [1] 松尾睦(2013)「育て上手のマネジャーの指導方法‐若手社員の問題行動とOJT」『日本労働研究雑誌No.639』,独立行政法人労働政策研究・研修機構,2013年10月,pp.40‐53.
  • [2] http://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2016/12/22/1375035_1.pdf
  • [3] Trow,M.,1973,"Problem in the Transmission from Elite to Mass Higher Education." OECD(ed.),Politics for Higher Education. 天野郁夫・喜多村和之訳「高等教育の構造変動」『高学歴社会の大学:エリートからマスへ』東京大学出版会,pp.53-123.
  • [4] 「知識基盤社会」とは、2005年(平成17年)の中央教育審議会答申「我が国の高等教育の将来像」で示された概念である。同答申の中で、21世紀は、新しい知識・情報・技術が政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる領域での活動の基盤として飛躍的に重要性を増す、いわゆる「知識基盤社会」(knowledge-based society)の時代であるとされている。詳細は、http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/attach/1335581.htm
  • [5] http://www.sanno.ac.jp/research/kachou2016.html