海外生活のヒント~インド編・英語の使い方には要注意!

英語力については自信を持っていた私ですが、今回のインド編では、それが大きな間違いだったことをお話しします。

インドは英語国?

私はインドの大学で教鞭をとるために、初めてインドに渡りました。最大の問題は、インドは英語国だという前提で渡航してしまったことです。

インド タージマハルの写真

以前、国連大学のインド人研究員から、「多言語国であるインドは、英語が唯一の共通語なんですよ」と聞いていたので、私もコミュニケーションをとることについては、ほとんど心配していませんでした。

インドは、独立時に旧宗主国の言葉である英語を公用語に含めましたが、これは国内対立を極力回避するためでした。アフリカ諸国もそうであるように、住民の母語は現地語であり、英語は第二言語として機能していると解釈していました。

問題は到着当日からすぐに始まりました。

空港出口には大学からの運転手が出迎えてくれるはずでしたが、どうにも見つかりません。これまでに見たことがないほどの凄まじい人波と怒号に囲まれ、萎えそうになった頃に、大学名を連呼しながら現れた男性が運転手のようでした。
車に乗り込み、到着までの所要時間を尋ねましたが、明らかに通じません。最低2時間はかかるということが不可解なやりとりの後でわかりました(距離にして50km程ですが、何しろすごい渋滞なのです)。

『公用語なのだから英語は誰にでも通じるはず』という自分の想定が大きな誤りだったことに、愚かにも、初めて気づいたのでした。

インド特有の表現と略語

とはいえ、業務には支障がないはずだと思っていました。

インド・パキスタン系の住人が多く住むイギリス生活のおかげで、わかりにくいと言われるインドの人の英語も聞き取れるようになっていたし、大使館や国連大学など、多国籍環境での仕事を続けてきた結果、否応なしに多種多様ななまりの英語を聞き取る力がついていた・・・はずでした。
しかし、授業中に学生の発言が呪文か何かとしか聞こえないという事態に一度ならず遭遇しました。
何度も聞き返す訳にもいかず、一旦聞き返してわからない場合には、そのままお茶を濁すこともしていました。
これにはかなり落ち込みました。英国人や米国人の教授たちも「僕もわからなくて、誤魔化すことも多い」と言っていたので、ある程度は、仕方のないことなのかもしれません。

その上、見たこともない表記にも突き当たりました。

例えば、インド特有の表現に、”pre-pone”というのがあります。postponeは「延期」だが、その逆に予定を前倒しするという意味です。
Please do the needful.というのもよく見かける表現で「必要なことをやってください」というような意味ですが、非インド人英語使用者である私たちから見ると、丸投げという印象は否めません。
こうした意味不明瞭な要求を学生から唐突に受けることは日常茶飯事です。怒りのあまりメールをそのまま削除したくもなります。

さらなる難関は略語です。

例えば、ODとは英語では薬物過剰摂取(overdose)の略語ですが、ここではon dutyの略語として使われます。
大学外での活動で授業に出席できない場合などに用います。学部秘書から「以下の4名の学生は明日ODなので、授業の出席を考慮してください」とメールを受けて仰天したのも今は昔です(苦笑)。
本文にPFAの3文字しか書かれていないメールを初めて受けたときも言葉を失いました。
Please find the attached file (添付ファイルをご査収ください)の略です。

こうして耐性が整ってきた1年目の終わり頃、「LORを大至急送ってください」とのメールが学生から届きました。
これにはお手上げで、隣席の米国人教授に尋ねましたが、彼女も見当もつかないと言います。
深夜に閃きました!「Letter of Recommendation(推薦状)だ!」

きりがないのでこの辺でやめておきますが、外国人として困るのは、インド人は、それらがインド特有のものと気づいていない(したがって何ら説明なく使ってくる)ことです。
教員としては、学生たちには、そうした表現は「方言」のようなもので、国外では通用しない旨、指導する責務があるのでしょうが、今のところ、それらに戸惑ったり解読したりに忙しく、その境地に至っていません。これからもインド人の略語に悩まされることがありそうです。

インド英語のイメージ写真