「同一労働同一賃金」施行まで2か月 みえてきた課題と解決のヒント

プロフィール

髙坂 一郎(Ichiro Kosaka)

学校法人産業能率大学 総合研究所 経営管理研究所 主席研究員

※筆者は主にマネジャー力強化施策の企画、実践、全社戦略を実現するための風土改革、および人材育成に向けた人事制度構築のコンサルテーションを担当。
※所属・肩書きは掲載当時のものです。

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はじめに

2020年4月1日施行のパートタイム・有期雇用労働法(以下、改正法)への対応が、あと2か月ほどとなった。その概要は掲出の通りだが、本稿は、企業側の課題について見聞した情報を元に、整理したものである。

SANNO エグゼクティブマガジン「同一労働同一賃金」施行まで半年 その真の意味と対応(2019年9月12日)

企業側の悩みは以下3つの要点にまとめられる。

  1. 何から手をつけるか?
    総合職、一般職、準総合職、契約社員、定年延長の嘱託、パートタイマー、アルバイト等の多様な人材がおり、職務内容や処遇もまちまちで、何から手を付けていいかわからない。
  2. 正規・非正規の待遇差の判断は?
    職務内容が曖昧で、非正規と同一の正規社員が不在であるので、格差があるか判断できない。
  3. 人件費が足りない!
    非正規社員の処遇(賞与、退職金等)を同一にすると人件費が高騰する。

1.何から手をつけるか?(外から調達する人、内で育てる人の峻別)

バブル経済崩壊以降i、多くの職場には、正社員だけではなく契約、派遣、嘱託等様々な雇用形態の人材が勤務している。この整理には、会社が求める人材への2つの問いが必要である。

(1)外部から人材を調達するか、内部で人材を育成するか

図表1 外部からの調達(短期)か、内部での育成(中長期)かに仕分けるフレーム

事業戦略上、企業内人材を考えるだけでは狭く、外部人材の活用が必要である。
変化が激しい環境の中では、A、Bの「専門性」のある人材を社外から調達する。最近は、人材紹介をマッチングアプリ等で行うUber(配車サービス業)のような請負紹介も増えている。その一方で、労働の質の悪さや報酬の妥当性のトラブルも増えている。外部人材を見極めて調達する仕組みを構築し、安易な人材登用を避けることが肝要であるii。Cの偽装請負ゾーンは雇用で対応すべきであり、請負は偽装となる。

次に内部人材の育成を検討する。

(2)「フルタイム無期雇用」タイプと「定められた時間と場所で貢献する」タイプの峻別

図表2 フルタイム・パートタイム、雇用期間の定め、転居制限の有無の区分

内部で育成する「企業内人材」は、職務に柔軟性があることが強みだ。例えば、パートタイマーが休んだときに、正社員が営業シフトの穴を埋める。「フルタイム勤務」「無期雇用」「全国転勤可能」の社員(図表2のフルタイム無期雇用者)が、現場の「中核人材」とされる。「リーダー」「職長」「店長」などの職位として、あるいは「多能工」と呼ばれたりしている。

現在、これら中核人材が不足している。そこで、パートタイマーを登用するのだが、曖昧な職務範囲、膨大な仕事量の中で潰れてしまうことが多い。
日本の雇用慣行では「フルタイム無期雇用者」が曖昧な職務を「忖度」し会社を支えてきたが、その担い手が枯渇している。この枯渇を埋めるために、中核人材の「役割を明確化」し、「職務分析」により曖昧な職務の範囲を明確にして、機械化(AI等)やパートタイマー等への再分配が必要である。その意味と方法は次で触れたい。

emoji_objects 課題と解決のヒント1

何から手をつけるか? ⇒ 多様な人材のあり方に関する2つの問いに答える

  • 人材を外部から調達するか(短期的に)、内部で育成するか(中長期的に)。
  • フルタイムの中核人材の職務は何か。何を機械化し他の人材に渡せるか。
  1. 日経連「新時代の『日本的経営』-挑戦すべき方向とその具体策」(1995年5月)では、労働者を3つ(①「長期蓄積能力活用型グループ」、②「高度専門能力活用型グループ」、③「雇用柔軟型グループ」)に区分けし、その活用を論じている。
    (参照URL http://www.janis.or.jp/users/ohkisima/rekisi/199505nikeirennsinnjidai.html)。
  2. ただし、外部人材として育成を支援する試み(例:人手不足が深刻な建設業等での職業訓練学校の運営等)は企業の人材獲得、社会貢献を通じた自社の営業活動として意義を高めよう。

2.正規・非正規の待遇差の判断は?(曖昧な職務内容と雇用慣行の整理)

待遇差の判断で問題となるのは、仕事が集中する現場の「中核人材」に正規社員と非正規社員が混在する場合だ。
欧米のような職種別横断の「職務基準・賃金相場」がない日本では「企業別」雇用慣行で属人的に職務を割り当てている。2000年代以降「役割等級制度」、「目標管理制度」が多くの企業で導入され、職責別の役割、職務内容を明確にしようとしたが、細部を見るとそうでもない。「中核人材」はプレイングマネジャーとして、自己の職責以上に関係者(上司、部下、他部署)とのやり取りに時間を割き、あふれた仕事を処理している。階層別研修の場で「皆さんがリーダーシップを発揮して」などと話しても、本音では「仕事を他者に振る」腕を磨く事が大事だと感じている人もいる。

例えば・・

正社員Aさんが異動してしまい、契約社員BさんがAさんの仕事を引き継いで社員並みに働いている。
しかし、賞与や退職金はない。Bさんにどの程度の賞与を払い、退職金を支給すべきか。このような待遇差が悩ましい。
Bさんは「欠員の補充」や「トラブル対応」、「パートタイマーの育成」といった正社員レベルの仕事も進んで実行しており、会社としてもありがたい存在だ。当人も「私がポジティブになれば、私も周囲も幸せになれる」という。Bさんの「属人的」なリーダーシップの発揮で、周囲が動機付き、職場が活性化するのは良いことだ。

しかし、次の問題が起きる。
もしBさんが不在となったときに、別の契約社員CさんがBさんと同じように正社員レベルの仕事をするとは限らない。ではどうするか。
まず、職務の基準を合理的に設定し、Bさんの職務が正社員相当であれば、その職務の処遇は正社員レベルとする。(「社員転換制度」があれば、正社員登用を打診する。)これを前提にBさんの後継者の育成を行う。そのためにはリーダー育成の前に、中核人材の「職務は何か」「誰に担ってもらうか」「その理由」を明確化し、ムリな部分は改善し、職務に見合う処遇とすることで働く側の納得感、公平感を高めることが必要だ。

現場オペレーションで疲弊する中核人材の「職務分析・職務評価」をすると、柔軟性の発揮の影でかなり無理(顧客からの無理な要求への対応、部下が帰宅したあとのフォロー等)があり、それによる不平不満や過労などのリスクが発生し、人が育たずに事業の成長を妨げている。
「職務分析」の意味は、「同一(価値)労働同一賃金」や「職務給」のためだけではない、中核人材へのしわ寄せを解消させる「リスク管理」と「人材育成」にあるiii

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正規・非正規の待遇差の判断は? ⇒ 曖昧な職務内容と雇用慣行の整理

  • 中核人材など職務が膨大、曖昧な人材から「職務分析・職務評価」を行う。
  • 「職務分析・職務評価」の目的は「リスク管理」「労務管理」がメインである。
  1. 職務分析・職務評価の具体的事例は紙面の都合で省略するが、筆者は「職務分析・職務評価」を外部委託ではなく、企業の管理者がマネジメントサイクルの一環として、定期的に内部主導で行う方式を考案し実施している。「リスク管理」と「人材育成」が主目的で、「賃金配分」はその後に調整する。評価項目と評価点は様々な方式があるので、企業の職務実態に応じ検討したい。

3.人件費が足りない!(将来の人材への投資として考える)

前項2のBさんのような同一職務で正社員並みの処遇とするのであれば、総人件費が膨らむ。「同一労働同一賃金ガイドライン」や最高裁判決の「ハマキョウレックス事件」「長澤運輸事件」の影響で、一定要件の非正規社員に賞与、退職金、各種手当、交通費の支給を検討している企業も多いiv
ここで検討したいのは、「何のために支給するか」という点である。ある職務についての「手当」の支給目的が同じなら、同一で支給するv。ただし、支給目的を見直すことで「手当」そのものを廃止する企業もあるvi
「退職金」「賞与」は賃金の後払い分であれば、一律支給の可能性が高い。功績払い分であれば、功績の指標化(突発の呼び出し、業績に対する責任度合い、部下の欠員をフォローするかどうか等)からの格差説明が必要である。

今までの日本型雇用管理(終身雇用、年功序列、企業内組合)の制度は福利厚生的な意味合いも加味し正社員のみに手厚い処遇をしていたが、そのような曖昧な処遇では非正規の方や若い世代からの納得は得られない。賃金支払いの根拠を明確にした上で説明して処遇し、人件費原資が不足するのであれば、「原資の配分」のみで考えるのではなく、「人財への投資」という意味で処遇のあり方を検討することが必要である。
今であれば、法改正を理由に、人件費増については経営層からの納得も得られやすいが、人件費増となるのであれば、賃金改定時点で仕事への動機付け(目標設定のあり方、職務分担のあり方等)を従業員に明示し、新たな仕事コミットメントを高める施策が必要であるし、そうした準備を行っている企業もある。

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人件費が足りない! ⇒ 人件費増の意味付けを考える

  • 従来の日本型雇用慣行による支給目的をいったんリセットする。削減もあり。
  • 非正規社員等への人件費増加分は、今後の事業に必要な人材投資と意味づける。
  1. 日本経済新聞(2019年9月20日)「格差是正で「人件費増」46%同一労働同一賃金導入で 社長100人アンケート」などがある。企業側は最高裁の次の判例がどうなるか見守っている。
  2. 例えば、アルバイトの交通費などは社員と同様の基準で支給する。
  3. 日本経済新聞(2019年11月23日),「日本郵政、住居手当や年末手当など廃止へ」。

4.最後に

これからの人材戦略として「同一(価値)労働同一賃金」を上手く活用していくことが必要である。
図表3に、新たな時代の人事制度のあり方をまとめてみた。横軸は、メンバーシップ型かジョブ型かの軸、縦軸はオペレーターか、経営・中核人材かの軸である。若い世代には「仕事をしながら技能蓄積、意欲を高める」過程を用意する(従来の職能資格、役割等級制度①、②)。ここで、加えるのは、ライフスタイル等に応じた柔軟な働き方(職務分析・職務評価による等級の意味付け、職務給制度③)と、外部労働市場に通用する「専門職」の育成・評価である(熟練職種労働者、専門職の育成・評価制度④、⑤、⑥)。人事制度の再構築は、①②の検討が主流だが、今後は③④⑤⑥の検討も必要になっていくと考える。

図表3 新たな時代を生き抜くための「人事制度」のあり方