川崎重工業株式会社における「若手のためのスケジュール管理能力向上研修」導入と評価について

去る2019年8月22日(木)、大阪にてイベント「川崎重工業株式会社様の事例から学ぶ 働き方改革を足元から推進する~若手社員からのスケジュール管理教育のすすめ」が実施されました。
当日は、川崎重工業株式会社様の事例紹介と本学研究員によるプログラム紹介の2本立てで進行しました。
この記事は、当日ご登壇いただいた北林様の講演内容を本学が編集し、本学のプログラム「若手のためのスケジュール管理能力向上研修」を導入した川崎重工業株式会社様の人財育成方針から導入の経緯や研修の効果について紹介します。

  • 神戸本社所在地〒650-8680
    神戸市中央区東川崎町1丁目1番3号
    (神戸クリスタルタワー)
    設立1896年10月15日
    代表者代表取締役社長執行役員 金花 芳則
    事業内容オートバイ・航空機・鉄道車両・船舶などの輸送機器、その他機械装置の製造
  • 北林孝顕 様の写真講師:北林 孝顕 様 川崎重工業株式会社 人事本部
    人財開発部 人財開発課 課長
当日の会場の様子の写真
当日の会場の様子

川崎重工業株式会社の人財育成方針と体制

人財開発部の組織体系と役割

川崎重工業株式会社(以下、川崎重工社)は「世界の人々の豊かな生活と地球環境の未来に貢献する“Global Kawasaki”」というミッションを掲げて、モーターサイクル(オートバイ)をはじめ、航空機やガスタービン、LNG運搬船や鉄道車両など、さまざまな製品を手がけています。

川崎重工社は事業を推進する体制として「カンパニー制」を採用しており、人財育成についてもそれに準拠しています。例えば、管理職に必要とされる能力開発のように、全てのカンパニーに共通して求められる能力に関する教育については、基本的に本社の人財開発部が行っています。一方、事業特有の能力に関する教育は、各カンパニーに設置されている人事部門が行っています。

人財育成の基本と流れ

企業発展の根幹は人財にあり、また、人財は仕事を通じて育成される。

川崎重工社では、上記を人財育成の基本と捉えています。
一方でOJTのみで育成することの限界も認識しています。そのため、OJTに加え、個人に必要な能力・課題を自ら探し自身でトレーニングを行う「自己啓発」と、定期的に職場環境を変え、新しいことにチャレンジするための「ローテーション」も重視しています。この3つのサイクルを回していくことで、社員が大きく成長していくことを期待しています。

人財育成の基本的な流れですが、まず入社後3年間を初等教育として位置づけています。新入社員は自立するために必要なスキルや能力を身につけるプログラムを段階的に受講し、職場では指導員(トレーナー)と共に計画的に能力開発に取り組みます。そして、4年目以降の社員はある程度自立してくるため、ライン長と相談しながら自身の課題を見つけて克服する自己啓発に取り組めるよう、社員を促します。さらに、事務系社員は4~6年目、技術系社員は6~8年目でローテーション(配置転換)を行うことを義務化しています。これらが基本的な育成の流れです。

そして、これらの活動を側面からサポートするため、Off-JTを設けています。川崎重工社のOff-JTの特徴は、「3分野認定制度」です。これは、「ヒューマンスキル」「業務周辺知識」「問題解決」の各3分野から1つずつ研修を受講しなければ主事(係長級)に昇進できない、という制度になります。そのため、研修のラインアップとしても、この3分野に沿ったものを数多く揃えてきました。

産業能率大学の研修導入の経緯と結果

旧研修体系への問題意識

研修体系(2015年3月時点)

画像は「若手のためのスケジュール管理力向上研修」を導入する前の2015年3月時点の研修体系になります。
オレンジ色がヒューマンスキル、水色が業務周辺知識、緑色が問題解決分野の研修です。

左下の黒枠内は入社後3年間の基礎的な研修であり、ほとんどが義務化されています。一方、中央の黒枠内は主に入社4年目以降の社員を対象としており、自らの課題を考えて受講する公募型になります。

実はこの研修体系には、以下の3つの問題意識がありました。

【問題意識1】 職務要件・能力要件との関係が曖昧

この研修体系は、所属長や従業員からのニーズによって、ラインアップを追加していった結果として完成したものである。そのため、「次のグレードに上がるためにはこういう能力が必要で、そのためにはこういう研修を受講するべき」といったように、職務要件や能力要件との紐付けがしっかりと整理されていなかった

【問題意識2】 ヒューマンスキル系の強化が必要(組織間連携が課題)

社内調査の結果、仕事をするうえで悩んでいることの1つに「組織間(社内)連携」があった。「他部門との調整が難しい」「他部門がなかなか動いてくれない」など、社内のコミュニケーションに苦労しているという意見が多く見られた。しかし、そういったニーズに応えられる研修はあまり充実していなかった。

【問題意識3】 事務系社員対象の研修が少ない

一見すると事務系社員の研修も多いように思われるが、実際はほとんどの研修が技術系に偏っている状態であった。「工学研修」や「システム技術研修」は、各々10~15ぐらいの研修ラインアップがある一方で、事務系社員の研修はあまり用意されておらず、事務系社員からは「我々の受講できる研修はほとんどない」「3分野と言うが(前述の3分野認定制度)、かなり限定された中から対象の研修を受講しなければならない」という声が挙がっていた。

こういった問題意識を背景に、2015年3月から研修体系を見直して、必要な研修を追加していく取り組みを始めました。

新しい研修体系

研修体系(2016年4月時点)

画像は研修体系見直し後2016年4月時点での研修体系です。

見直しにあたっては、職務要件や能力要件に求められている能力が、いったいどういったものなのかを洗い出し、もし社員にその能力が足りていない場合、どのような研修を提供すれば能力要件に近づけるのか、といった議論をしていきました。
結果として、能力要件として要求しているにもかかわらず、それを鍛えるための研修が十分に提供できていないという事実が明るみに出ました。

そこで企画した研修のひとつが、産業能率大学の「若手のためのスケジュール管理力の向上研修」です。
これは、若手社員を対象とする仕事の段取りにフォーカスした研修で、手戻りが少なく効率よく仕事を行うことや、自身でPDCAを回せるようになることなどを目的としています。
研修名にもある「スケジュール管理力」は、以前から川崎重工社で実施している「プロジェクトマネジメント研修」にも組み込まれていましたが、それはどちらかと言えば、リスクマネジメントやタイムマネジメントといった総合的なマネジメントに焦点が当てられていました。一方でこの研修は、自分で仕事の段取りをして実行していくといった、もう少し初歩的な内容になっています。

研修の概要と効果

「若手のためのスケジュール管理力の向上研修」は2016年に導入した研修で、2日間、神戸本社にある日帰り研修所で行っています。主に業務遂行力向上に関する内容や、ワークブレイクダウンストラクチャー(WBS)、およびガントチャートの作成といったことを丁寧に教わります。

研修実施後の受講者アンケートの結果を元に、受講者の反応を紹介します。

【アンケートの結果(北林様から)】

■選択式

  • 研修に対する評価は「満足度・役立ち度・理解度・カリキュラムの良さ・教材の良さ」といった項目でアンケートを実施。
  • 講師に対する評価は、「時間管理・熱意・満足度・能力・分かりやすさ」といった項目でアンケートを実施。他の研修と比べても、共に好評だったといえるのではないかと思われる。

■自由記述

  • 様々な意見があったが、「業務の洗い出し、優先順位の付け方やスケジュール管理手法を学ぶことができてよかった」といった声が比較的多かった。
  • 「学んだことについてどのように取り組みたいですか」という質問に対しては、「中長期なプロジェクトにおいて、この研修で学んだWBSやガントチャート、クリティカルパスといったタイムマネジメントの基礎を活かしていきたい」という意見が見られた。
  • 「もう少しこういうところを教えてほしかった」という質問に対しては、「突発的業務が発生した際、どのように対処したらいいのかを知りたかった」という意見もあった。突発業務の対応は、この研修の範囲に含めていないため、今後のプログラムの改善の1つの方向として検討する。
  • 講師に対する満足度は良く、「経験談も踏まえて講義が進行するので、とても分かりやすい」という意見が多かった。

今後の働き方改革へ向けて

これまで述べてきたように、2015年から研修体系の見直しと新たな研修の導入を進めてきたのですが、現在は働き方改革と研修を紐づけていかなければならないと考えています。

川崎重工社では働き方改革の一環として、K-Win(Kawasaki Workstyle Innovation)活動を2016年に立ち上げました。当初はワークライフバランスの推進や長時間労働の抑制を中心に行ってきましたが、遅まきながら本質的な問題に向き合おうとしている状態です。
その本質的な問題とは、「今の仕事をもっと効率的に行い、さらに付加価値を高める仕事を行う」といった生産性の向上を進めない限り、どれだけ制度を導入しても表面的な変化だけで終わってしまうということです。

こういった問題を踏まえて、2019年度からK-Win活動の中でのメッセージとして、より改革志向をもって、風土改革・組織改革・業務改革を一歩踏み込んでやっていきましょう、といったことを掲げています。
もちろん、組織の在り方を見直す必要があるでしょうし、意識も変えていく必要があるでしょう。しかし、付加価値を高めるには業務改革・生産性の向上は不可欠です。いろいろな施策や働きやすい環境づくり、あるいは働き甲斐といったことも、生産性の向上なくして実現するのは難しいでしょう。

働き方改革・業務改革・生産性向上を進める上では、円滑な情報共有を行い、PDCAを回せる小集団を各職場により多く創出していく必要があると考えています。
そして、小集団の中の個人が効率的に仕事を行い生産性の向上を担うためには、「若手のためのスケジュール管理力の向上研修」のような研修をより多くの人が受講したり、例えば業務プロセス改善の研修などの他の研修とうまく関連付けたりすることが大切だと考えています。

小集団のイメージ画像

私は人財開発部門のマネジャー兼、K-Win活動のサブリーダーとして、業務改革の全体像を描いて社内改革を進めながら、既存の研修との関連性を考慮したうえでさまざまな研修を企画することが求められていると認識しています。
「人を活かす」のが人事の仕事であるならば、働き方改革を進めるのも重要ですし、人の成長のためにOff-JT を通じてサポートしていくというミッションも大事です。この2つのミッションを関連付けすることで相乗効果が得られることを目指し、今後も両活動を進めていきたいと考えています。