SANNO生産性向上フォーラム2019


ドイツと日本には、製造業を中心に戦後復興してきたこと、内需よりも輸出の占める割合が大きいことなど、多くの類似点があります。その一方、現在の労働生産性という指標で両国を比較すると、ドイツは日本の約1.5倍にものぼります。
表層的な「働き方改革」で満足するのではなく、真の生産性向上を目指す組織に必要な視点とは何か、ドイツ企業と日本企業を行き来し、経営の中枢で生産性改革を推し進めてきたシモン・ガイス氏をお招きし、「最新事例から学ぶ!! ドイツの“生産性”はなぜ高い?!」を開催しました。

【開催概要】

日時:2019年2月7日(木)14:00~16:45
会場:産業能率大学 東京駅サピアタワー セミナールーム

第1部 ドイツと日本 −生産性に関して−

学校法人産業能率大学 総合研究所 グローバルマネジメント研究所長 平田 譲二

第1部では、シモン・ガイス氏の講演を前に、ドイツ経済を考えるためのベースになる知識として、第2次世界大戦後のドイツの歩みや、現在のドイツ経済の状況などについて、本学グルーバルマネジメント研究所長の平田が解説しました。

ドイツと日本は、第2次世界大戦における敗戦国であること、製造業の占める割合が大きいことなどの共通点がある一方、時間あたりの生産性は約1.5倍の差があること(「就業者1人あたりの労働生産性」と「年間総労働時間」の両指標から)、株主総会などの企業制度の違い、「自分のアサインメントは遂行するが、それ以上のことはしない」といった働き方に差があること、などを解説しました。

第2部 最新事例から学ぶ。ドイツ企業の生産性はなぜ高い?!

株式会社パブコ 財務管理統括部長(CFO) シモン・ガイス氏

ドイツのTUカイザースラウテルン大学、フランスのENSGSIナンシー大学院を卒業。ダイムラーベンツにて生産システム改革を断行。手腕を買われて、2013年来日、ドイツマルチバック社の日本法人の経営改革を担当。その後、現在の株式会社パブコのCFOとして経営に携わり、数々の経営改革に取り組んでいる。

自動車メーカーのダイムラー社や、中堅企業であるマルチバック社を経て、現在は特装車の製造販売を行う株式会社パブコでCFOを務めているシモン・ガイス氏から、ドイツ企業の生産性が高い理由には、CFOが戦略的な役割を担っていることや、IT化を含めた企業文化の変革が大きく関わっていることについて、事例を交えて解説いただきました。

その中で、特に参加者の皆さんが興味を示していたのは、世界中のダイムラー社の従業員が、これからのダイムラー社を考えて定めた「リーダーシップのための8つの原則」に基づいてつくられた「8つのゲームチェンジャー(それまでのルールを覆すような存在)」です。

ダイムラー社 「8 GAME CHANGER」

  • FEEDBACK CULTURE
    (部下が上司を評価するなど、お互いにフィードバックし合う文化の醸成)
  • PERFORMANC MANAGEMENT
    (パフォーマンス(客観的な指標による組織貢献度)によるフェアな評価)
  • LEADERSHIP ROLE & DEVELOPMENT
    (ロールモデルになるトップやマネジャーこそチャレンジする)
  • BEST FIT
    (現在の年齢・知識量・人脈ではなく、真の適材適所に注力する)
  • DIGITAL TRANSFORMATION
    (本業がITの企業と競業できる水準まで、デジタル化のレベルを向上する)
  • SWARM ORGANIZATION
    (魚の群れのように、誰かの指示はなくても、自主的に組織づくりが行われる)
  • DECISION MAKING
    (少しの不具合があっても商品をリリースするような迅速な行動をする)
  • INCUBATOR
    (全く新しいビジネスモデルをつくる)
従業員の行動指針となる人事評価、採用や異動などの人材配置に関わる人事的な内容から、デジタル化の推進や「不具合があってもリリースする」といった営業的な観点まで、幅広い内容が定められていることが分かります。


参加された皆さんにご回答いただいたアンケートには、「経営者やマネジメント層が変わらなければいけない」「狭い範囲で考えていたが、それを広げていただいた」といった回答がありました。日本では「働き方改革」というと、「長時間労働の解消」や「同一労働同一賃金」といった施策に焦点があたりがちです。しかし、経営層やマネジメント層も含めて、企業全体の行動や風土を変えていくような、もっと広く大きな視点で変わっていかなければ生産性の向上は実現しないのかもしれません。

その一方、シモン・ガイス氏からは、「働き方を変えなければいけない必要に迫られていると思いますが、日本の企業としてのルーツを忘れないでいただきたい」という言葉もありました。アンケートにも「自社の文化、日本人の文化を理解して合っているものを導入していく」といった回答があったように、たとえ優れている取り組みであっても、背景にある文化の違いは理解しておく必要があるでしょう。

企業における「生産性向上」は、組織が存在している以上、絶えず進めていかなければいけないものです。そして、実施する施策については、誰もが“100%正解”だと認識できるようなものはありません。産業能率大学では、皆さんの抱えている課題の一助となるよう、自社、自組織の施策を改めて考えていただく機会をこれからも提供してまいります。このイベントが、ご参加いただいた皆さんのお役に立てたならば幸いです。