【経営人材育成】公益財団法人 京都産業21 様

 公益財団法人京都産業21 商業・サービス支援部は、京都府内中小企業の経営革新に向けた支援、人材育成、情報化の推進、グループ活動の支援を活動の4本柱としている。
 今回、産業能率大学が2015年度から講師を派遣する同財団主催「経営人材育成講座」について、同財団常務理事 加藤新八氏、同商業・サービス支援部長 豊岡満男氏、同部経営支援・人材育成グループ長 坪内貴子氏にインタビューの機会をいただいた。
 3名共通のご趣味は“走る”こと。京都府の産業振興に向け、中小企業と伴走しながら経営人材育成に取り組む様子についてお話をうかがった。

【公益財団法人京都産業21 概要】

所在地 :〒600-8813 京都市下京区中堂寺南町134
発足  :2001年4月1日(2011年6月1日 公益財団法人に移行)
代表者 :理事長 村田 恒夫
事業内容:
(1)情報技術活用の支援に関する事業
(2)技術開発の支援に関する事業
(3)受発注取引のあっせん等市場開拓及び適正化に関する事業
(4)経営及び技術に関する相談、調査並びに情報の収集及び提供に関する事業
(5)人材育成の支援に関する事業
(6)投資、債務保証並びに資金の貸付及び設備の貸与に関する事業
(7)その他この法人の目的を達成するために必要な事業

-まずは貴財団の事業概要をお聞かせください。

豊岡:京都産業21は、2001年に京都府中小企業振興公社、京都産業情報センター、京都産業技術振興財団という3つの財団を統合して発足した、中小企業の総合的支援機関です。ものづくり支援や情報化支援を強みとしており、発足がちょうど21世紀になった頃だったため、この組織名になりました。
商業・サービス支援部では、経営革新に向けた支援、人材育成、情報化の推進、グループ活動の支援の4本柱で仕事をしております。

-「経営人材育成講座」にご参加いただいた企業はどのような規模の企業が多かったのでしょうか。

豊岡:京都には、小規模の事業所が多いのですが、研修にご参加いただいた企業も、「経営戦略実践講座」を例にとりますと、従業員20人までの企業が一番多くて47%、次いで21人から50人が16%と、従業員50人以下の企業が6割以上を占めています。

受講者の年齢は、30歳代が最も多くて42%、次いで50歳代が27%、40歳代が26%ですが、20歳代の方もおられます。会社内の立場としては、部門責任者が最も多く53%、次いで経営者層が37%、幹部候補が10%となっています。

-本学の提案をご採用いただいた決め手は何だったのでしょうか。

加藤:公的機関ですから、一般公募したうえで複数候補の中から選ばせていただきましたが、貴学に決めた最大の選定ポイントは、我々のニーズ、やりたい意図を汲んで、カスタムメイドのプログラムを作っていただけたことです。
特に、大企業向けのパッケージプログラムを「はいどうぞ」ではなく、中小企業の現場の人たちが参加したときに違和感のないプログラムを一緒に作り込んでいただいたことに非常に満足しています。

坪内:年度ごとに違う受講者が参加されますし、レベルも異なりますので、その辺りを見て、「ここをちょっとこういうふうに変えたほうがいいよ」とか、「この内容はそんなに詳しくなくてもいいね」といったことを上司とも相談しつつ進めてきました。そうした要望に対して、次の会合や次の年度で生かしてくださってきたので、本当に当財団が期待する成果につながる講座の組み立てができたのではないかと思っています。

-直近の経営戦略実践講座では管理会計をテーマとしたプログラムを実施しておられますが、このテーマで研修を行おうとお考えになったのは、なぜでしょうか。

坪内:中小企業の経営者は、経理は税理士任せ、見積もりは経験値で出している、といったことが多いのではないか、という問題意識が出発点でした。財務関係や税務ではなく、いわゆる管理会計を学んでいただき、ご自身で数字を見られるようになってもらいたい、という思いです。

実際、経営者本人や経営に近い層の人でもケースワークの場面で苦戦していて、やはり管理会計は定着していないのだな、と感じました。そういう意味では、この講座は、ベーシックな管理会計を学ぶきっかけになったのではないかと思います。

-「コーディネーター(相談員)」の方々も関わっておられると伺いました。コーディネーターとは、どのような方々のことでしょうか。

坪内:メーカーをはじめ、さまざまな企業に勤務されていたシニアが中心で、それぞれが異なる専門分野を持って、その専門知識を生かせる企業をフォローしている職員のことをコーディネーターと呼んでいます。例えば経営革新計画支援では、企業様から事業計画を申請していただく必要があるのですが、書類の書き方や記載のポイントなどをコーディネーターがアドバイスしています。
そしてコーディネーターはひとつの企業に密着して、一緒に成長を追いかけます。そのため、「この企業が成長するためには、次年度はこういう層の人たちにこうした講座を受講してもらってはどうか」という人材育成の新たな課題の発見を経営者に促すことや、研修プログラムの組み立てに対してもアドバイスをしてもらっています。
もちろん受講についての最終的な判断は経営者がしますが、そのプロセスを経ることで、その企業の経営体質が底上げされていきます。経営者にとっては、自社の社員が受講者として参加することで、自分と同じ目線とまでは言わないけれども、同じ方向を向いて話ができるようになってきます。この数年間で、そういう成長はあったのではないかと思います。

-本学でご支援させていただいた中で、特徴としてお感じになられたことがありましたらお教えください。

坪内:経営人材育成講座に関わってくださった先生たちは、ご自身から受講者に歩み寄ってくださった印象があります。それによって、個々の事情をしっかりとキャッチされて的確なコメントを出していただいていると感じました。貴学の先生方は、経験値からなる引き出しが多く、いろいろな側面からコメントをいただくことができました。
教えるだけの先生であれば、受講者一人ひとり、企業一社一社のそれぞれの状況を聞いても、通り一遍の理論でしか返せないと思います。しかし先生は企業に個別に関わっている経験をお持ちですので、話を聞いただけで、「それならこういう手がある」「それはこういうことが原因だ」などと返されていて、見極められる力量があると感じました。
この講座の受講者は異なる企業から参加していますので、バックグラウンドも異なり、先生は大変だったのではないかと思います。それでも受講者からの質問には、一般的な回答で終わらせるのではなく、その引っ掛かりに対して丁寧に声を掛けられていたように思いました。また、講義が終わった後でも、「あの人はどうだったか」「分かってもらえているのかな」「次回の冒頭ではこんな話をするのはどうか」などと、コーディネーターとやりとりをするなど、非常にきめ細かい対応をしていただいていると感じました。
その結果として、受講に対する満足度が高く、事務局にとっても「じゃあ次どう変えるか」、あるいは「次年度の組み立てはこうしましょう」という意欲を持った取り組みが継続的にできていたと思います。

-非常に嬉しいお言葉ありがとうございます。具体的な受講者の声などがありましたら、教えてください。

坪内:受講者からの感想では、「先生の話の引き出しの多さがすごかった」「体験談が非常に参考になった」「講義の内容が非常に参考になった」というお声はかなり多いです。
毎回アンケートを採っているのですが「大変有意義だった、有意義だった、普通、物足りない、非常に不満足」という5段階で、9割以上の方が大変有意義だった、という評価をされています。
実際にこの「経営戦略実践講座」を実施する前は、6会合全てに参加するのは難しいのではないかという心配もありましたが、結果的にはどの会合も100%に近い出席率になりました。
他にも、「楽しく学べて、財務諸表分析をすることの面白みを実感できた」といった結果もありました。これは先生のファシリテートが良く、積極的な発言を引き出したうえで、それをフォローされていましたので、自分のことについて話をしてもらっている、という引き込みができていたからではないかと思います。
受講者の皆さんは、最初は緊張感がかなりあったようですが、会合が進むに連れて本当に楽しんでいましたし、意見交換も活発になってきました。アウトプットの出来も良くなってきたと思います。こうしたことから、「すごく楽しかった」という声もたくさんいただくことができたのだと思います。
経営戦略シミュレーションについても「ゲーム感覚だけども、緊張感を持って取り組めて非常に有意義だった」という感想が出ていましたし、判断することの重みであるとか、会社の将来を決めるということ自体を実感できたようです。

-ご参加者が講座内容を実践に生かす取り組みやそれへの支援策などはございますか。

坪内:今回の講座では、経営そのものを学んだ後に、アウトプットとして事業計画を立てる構成になっていて、講座受講後に自社で遂行していただくのですが、そのプラン自体をその企業の新しい取り組みとして、経営革新認定制度に申請して承認を得ているケースがあります。

また補助金申請もあります。京都府や国がいろいろな補助金のメニューを持っているのですが、事業計画をもとに応募して補助金を得て、設備導入や人の採用などに活用している企業は多くあります。

-研修では他の企業の方々と交流できることも魅力のひとつだと思います。ご受講者どうしの情報交換などもされておられますか。

坪内:年度によって違うのですが、個人的なお付き合いが続いているケースもありますし、事業における情報交換や、互いの工場見学を行うといった交流も生まれています。さらに、取引が発生しているところもあると聞いています。
受講者アンケートからは「異業種でも同じことで悩んでいることが分かった」「ひとつの問題に対して、いろいろな企業のいろいろな立場の方から、ご意見をいただいたことが非常に良い刺激になった」など、発想の転換や、改めて気づかされることが多くあったという声は非常に多かったです。
また、研修は20人で行いましたが、ほぼ毎会合でグループを変えていただいたことによって、交流が促進されたのではないかと思います。

中小企業の場合、経営者はご自身の判断で、こうした異業種交流にも積極的に参加できるのですが、今後の経営を担う中核人材や次世代人材の人たちは、自社内での業務遂行に追われているため、同業や異業種も含めた他の会社の人たちとビジネス以外で話す機会がほとんどないようです。そのため、他社の人と交流できる研修は、新鮮な場になっているのではないかと考えています。

-京都産業21の今後の新たな取り組みやテーマ、抱負がありましたらお聞かせください。

加藤:私たちは公的な中小企業支援機関ですから、元々の成り立ちから考えると、経営相談、下請取引のあっせん、設備の貸与などがベースにあるわけですが、近年特に力を入れるようになったのが人材育成です。販路開拓や設備投資などは、もちろん重要ではあるのですが、そもそも経営を担う人材が育たなければ、その場しのぎになってしまいます。特に中小企業の場合は、社員も経営者も学ぶ機会や場をあまり多く設けることができていませんので、人材育成を企業支援のひとつの大きな柱と位置づけて取り組んでいます。

豊岡:これからも、中小企業にとっては厳しい環境が続くと思います。そうした中で、深く考えて自らの道を切り開いていけるような経営者を育てていくことが重要ではないかと思っています。そのため、この経営幹部育成や幹部候補者育成は、支援の在り方のひとつとして柱になっていくものであり、今後もこうした取り組みを大切に進めていきたいと思います。
また、今までは、企業が集中している京都市域で開催していましたが、ご承知のように、京都府は南北に長い地形をしていますので、より受講しやすい環境を整えていきたいと考えています。

坪内:人材育成に関しては、途切れ途切れでは絶対にダメで、長い目で全体を見ていくことが大切だと思います。また今回は現場実践型にしたことにも非常に大きな意味があると思っています。こういったことを、受講者だけでなく経営者の方々にも気づいていただき、途切れることなく育成が続くことによって、企業が力をつけ、そしてその継続的な活動が、京都の中小企業全体の経営力の底上げにつながっていくのだと考えています。


以上