海外出張・赴任に備える英語教育の設け方・鍛え方【第3回】

第3回 英語の背景にある文化を理解する

英語教育を成果につなげるためには、押さえておくべきことがもう1つあります。それは、英語という言語だけを学習するのではなく、その背景にある文化も理解しなければいけない、という点です。第1回でお伝えしたように、「目的限定型」であれば、仕事で必要な専門用語が分かれば当面の仕事を進めることは可能です。ただ、継続的に英語を用いて仕事をするのであれば、やはりどの型であっても、英語の背景文化を理解することで、コミュニケーションの質が大きく変わってくるでしょう。

少し前のことですが、来日したアメリカのオバマ前大統領が天皇陛下とご挨拶された際に、握手をしながらお辞儀をしたことがアメリカで話題になりました。握手をしながらお辞儀をするという行為は、アメリカであれば卑屈にしている印象を与えます。つまり、一国の大統領としてはのぞましくない、ということで話題になったのです。当然、このことをオバマ前大統領が分かっていないはずはないのですが、「日本という文化圏に入ったのだからふさわしい振る舞いを行うべきだ」という考えの下、握手をしながらお辞儀をしたわけです。そしてそれを見た日本人は、オバマ前大統領に対して「礼儀を重んじる方だ」と好感を持ったことは言うまでもありません。
つまり、海外に派遣される前には、英語という言語を理解するだけではなく、言語の背景にあるその国の文化を理解し、その場でもっとも好ましいであろう言葉づかいや振る舞いを考えられる、行えるようになっておかなければならない、ということです。

例えば言葉づかいで考えてみます。古くから言われている理論ですが、日本は「高コンテクスト文化」という文脈を重視する文化である一方、アメリカなどは「低コンテクスト文化」という、文脈よりも言葉そのものを重視する文化です。「検討します」という言葉で考えると、日本語の場合は、この言葉だけでは正確な意味が分かりません。断るための言葉かもしれませんし、前向きな言葉かもしれません。前後の文脈や声のトーンなどによって意味付けされます。一方、これを英語に置き換えると、「consider」「think about」「investigate」「turn down」などの複数の候補があり、それぞれが持つ意味は異なりますから、文脈を考慮してふさわしい言葉を選ばなければいけません。

つまり、たとえ日本語で同じ言葉だからといって、これらを区別なく使ってはいけないのです。こういったことを理解せずに、現地の従業員に指示をしたり、意見を聞いたりすると、思わぬ誤解を招きかねません。さらに、日本で仕事をする場合と海外で仕事をする場合とでは、“キャラ”を変える必要もあります。日本では、常に真顔で淡々とした口調で話しても問題になることは少ないかもしれませんが、海外ではそうはいきません。
挨拶の時には必ず笑顔、話し方もテンションを上げて声も大きくするなど、英語圏にふさわしい“キャラ”にならなければ、自分の意見が伝わらない場合があります。 (参考:中元三千代著『FT元東京副支局長が教える世界で成功する5つの力』)
動作も同様です。日本人同士で挨拶をする際、握手やハグをすることは多くありませんが、海外ではそうはいきません。それぞれの文化に相応しい挨拶の仕方があるのです。

英語教育で高い成果を出すためには、学習者の高いモチベーションは必須です。教育担当者は、目標やカリキュラム、委託先を決めるだけではなく、従業員のモチベーション低下をあらかじめ織り込んでおき、ふさわしいタイミングでこのようなモチベーションを維持・向上させる仕掛けを導入できるようにしておくことが大切です。
早稲田大学の藤井正嗣先生は、グローバルリーダーに求められる能力として、IQ(Intelligence Quotient; Functional Skills)、EQ(Emotional Intelligence; Authentic Leadership)とともに、CQ(Cultural Intelligence)、つまり「その国の文化に対応する力」が必要と提唱していますが、コラムの第1回で紹介した中では、特に「リーダー型」として海外に派遣される場合は、まさにこのCQが求められるということです。