海外出張・赴任に備える英語教育の設け方・鍛え方【第1回】

第1回 海外に派遣する目的を正確に把握しよう

出張であれ赴任であれ、従業員を海外に派遣する前に英語教育を行う組織は多いと思います。
ですが、「身につけた英語が通じなかった」「派遣できる英語レベルになるまでに多くの時間がかかった」「学習の途中で従業員が挫折した」といった具合に、うまくいかない場合もあるとの悩みをよく耳にします。こういったことがなぜ起こるのか、それを防ぐためにはどのような教育が必要なのかをこのコラムで解説します。

第1回目でお話するのは、「まず海外に派遣する目的を正確に把握しよう」ということです。
英語教育の効果が低い理由の1つに、教育担当者が従業員を海外に派遣する目的を正確に把握せず、ただ闇雲に英語力をつけさせようとしている点があると考えています。派遣目的にかかわらず、「ネイティブのように英語を使いこなしなさい」「派遣条件としてTOEIC○○○点以上」といったような目標を課している場合です。

従業員を海外に派遣する理由は、ビジネスで成果を出すためです。したがって、英語教育を考える前にまず、「派遣する従業員にどのような役割を担わせるのか」を考えなければいけません。この軸となる理解がない状態では、英語教育の目標設定(目標点数)も、教育カリキュラムも、考えることはできないはずです。

海外出張・赴任に必要な英語のタイプ

私は、海外に派遣される従業員が求められる役割として、大きくは次の3つに分類され、それぞれに応じた教育を行う必要があると考えています。
目的限定型 1つ目は、「目的限定型」です。何かしらの分野の専門家として、海外に派遣する場合です。こういった場合の多くは、ともに働く人は、同じ専門性を持った人たちです。技術や知識などの専門的なことは世界共通ですから、少しくらい会話が滞ったり、スムーズに話せなかったりしても、大きな問題にはなりません。なぜならば、専門性で語ることができるからです。そのため、英語教育としては、専門用語の英語表現程度を身につけておけば十分な場合も多いです。
汎用型 2つ目は、「汎用型」です。販売や調達、提案や調整など、海外に交渉しに行くような場合です。この場合に大切なことは、相手との円滑で良好なコミュニケーションです。日本も同じですが、どのような国であっても、コミュニケーションは言葉だけで成り立つものではありません。幅広い英語表現の理解に加えて、派遣される先の英語の背景にある文化的側面も理解しておく必要があります。
リーダー型 3つ目は、「リーダー型」です。現地で管理職になるような人たちです。こういった人たちは、リーダーシップを発揮して成果を上げなければいけませんので、ビジネス英会話、メールなどのビジネス文書、パーティーや接待などの社交の場にふさわしい振る舞い、雑談のようなスモールトーク、海外従業員へのマネジメントといった、総合的な英語表現とともに、管理職に相応のスキルが必要になります。このうち、特に日本人が苦手と言われているのが、海外の人との食事です。「何を話してよいか分からない」「仕事のことしか話せない」などとならないよう、こういった場面までを想定した教育をあらかじめ行っておく必要があります。
このように見ると、「目的限定型」は、最低限の英語力さえあれば、すぐにでも派遣することができる一方、「汎用型」や「リーダー型」は、言語以外の教育まで必要なことがお分かりになると思います。
したがって、まずは派遣される従業員が海外で何をするのか、求められる能力はどういったものかを担当部門などにヒアリングし、正確に把握することが英語教育の第一歩になります。その上で、目指すべき目標を設定し、それに合わせた教育カリキュラムを用意することが大切です。