【SANNOエグゼクティブマガジン】事業承継の必須条件と3つの選択肢

事業承継問題の深刻度

 最近、中小企業の事業承継問題がクローズアップされている。事業承継問題が大きく取り上げられたのは、2017年10月の日本経済新聞の記事である。1990年代後半の中小企業の経営者の平均年齢は49歳であったが、2017年前後には69歳にまで到達した。20年の時代を経て、中小企業の経営者の年齢は若返るどころか、増えているのである。このペースから推測すると、2023年には中小企業の経営者の平均年齢は75歳になる。男性の健康寿命の平均(73歳)から考えるとあと5年程度が承継に残された時間ということになる。
 別の観点で見ると、経済産業省によれば、中小企業380万社のうち、2025年段階で6割以上の企業の経営者の年齢が70歳を超え、そのうち現段階で後継者候補の見通しが立っていない企業が127万社と言われている。この影響によって、黒字でも廃業が次々と起こり、2025年までに累計で650万人の雇用や22兆円のGDPが失われてしまうという。
 様々な企業で人員不足が指摘され、特に介護や運輸の現場では人不足が深刻といわれているが、これらの業種は介護ロボットや、ドローン、自動運転などの最新技術の開発によって、解消される可能性がある。
 一方で経営者となると、経営者ロボットや経営者AIという話になるが、皆さんはロボットや人工知能に雇われて働きたいと思うだろうか?経営者にとっては、機械ではなく、生身の人間に承継してもらいたいと思うのが人情である。
 2025年以降を見据えて、中小企業の事業承継対策として、どんなものが挙げられ、今後、中小企業はどういう対策を取っていけばよいのだろうか。

事業承継の必須条件

 まず、誰に事業を承継するかに関わらず、事業承継には必須の条件がある。それは、自社の魅力と、将来の可能性が見出せていることである。自社の将来への魅力をどう作るか、これまで蓄積し続けた経営資産の魅力と併せ、これからの資産を生み出せる見通しがある事業かどうか、それが何かを明確にすることが必須の条件である。後継者(候補)と共に、それらを検討しても良いだろう。

事業承継の3つの選択肢

次に、事業承継の3つの選択肢を示す。

(1)親族や組織内の有能な社員の育成

 1つ目は、親族や組織内の有能な社員を育成し、承継を行うというものである。有能な社員は、プレーヤーとしては有能でも、経営者としては有能でないこともよくある。多少、能力が期待する水準から外れていても真剣にかつ期間を長く取れば、承継できる可能性も広がる。早めに次世代の親族または社員を見つけて、経営の王道を教育していくのである。また、対象者の見極めのベースとなるのは、周囲の期待に耐えうる人物かどうかということである。地頭がよいとか、嘘をつかないなどの素養だけでなく、環境変化に対応できる柔軟性をもっているかどうかである。言い換えれば、自らを磨き続ける意識をもち、そのような場を自らが作り出そうとしているかどうかである。現在は、言われたことをやるだけの社員であれば、自らを磨き続け、事業を作り出そうとする主体性を持たせる仕掛けをする必要がある。

(2)外部人材(関係会社社員含む)の調達

 2つ目は、有能な外部人材を調達し承継を行うというものである。その際の条件としては、自分たちの会社を託す人材の要件を明確にすることが重要になる。自社をあと10年でどう成長させたいのか、そして、その成長を導ける人材に必要な能力や考え方は一体何か、そのような人材に最低限守ってもらいたいことは何か。必要な要件を明確にして、応募を行うのである。
 また、大手企業など自社の関係会社から見て、自社が必要不可欠な企業である場合は、関係会社の社員が出向経営者として派遣される場合もありうる。その場合、出向経営者が所属している会社の影響は大きくなるが、関係会社のノウハウや販売チャネルなどを活用できる可能性も広がる。その場合も同様に、人材の要件の明確化は必要である。

(3)会社の売却・合併

 3つ目は、会社の売却や合併を行い、承継を行うというものである。いずれの場合も、事業が黒字であることと成長が見込めそうかが重要になる。自社の将来性に対する魅力や環境変化に対応して、自らの企業の強みはこう応用できるということが示せれば他企業が買収に応じてくれる可能性が高まる。
 合併による事業承継の場合は、相手とのマッチングで相乗効果をどれだけ出せるかが重要である。自社の事業はどんな事業やサービスと一緒になることによって、イノベーションが起こりそうか、より顧客に提供できる価値が高まりそうかを構想し、相乗効果が生まれそうな企業を想定しておくことも重要である。

まとめ

 これからの事業承継を考える際のポイントは、国や地域、技術発展のために、自社が何を残せるかを構想することである。後継者がいないところから、これまで想像できなかったような後継者や後継企業を発見し、後継者や後継企業が持つ力と自社の持つ力を組み合わせる。これらの実現が、斬新で時代の流れに合う事業やサービスを生み出す可能性を高めるのである。そのためにも、経営者自らが様々な経営や新事業のあり方などを学習し、次世代に引き継いでいただくことを願っている。