データで読み解く"働き方改革"【第3回(最終回) 働き方改革を成功させるための鍵】

はじめに

 第2回は、長時間労働発生のメカニズムについて確認しました。調査の結果からは、働き方に影響を及ぼす要因には、事業の特性から事業プロセス、風土、社員の意識や能力まで複数あり、かつ複雑に絡み合っていること、表面的な取り組みに終始していても効果が期待できないことが明らかになりました。
 最終回の今回は、働き方改革の鍵となるものについて考えたいと思います。

同一労働同一賃金実現に向けての課題は山積みである

 本調査では、働き方改革の重要な施策の1つである「同一労働同一賃金」に対する考え方や会社で既に取り組んでいる施策、および今後の方向性について、自由記述方式でたずねました。得られた回答140件を、「受け止め方」「導入・実施状況」「取り組んでいる・取り組むべき課題」の3つの観点から整理したものが、表1になります。
 まず、受け止め方としては、「非常に困難」と記述する企業が散見されました。とはいえ、「総論賛成」が「懐疑的」を上回り、取り組みの趣旨や思想は肯定的に受け止めている企業が少なくないことがわかります。
 ただし、導入・実施状況を見てみると、「予定なし」が最も多く、「部分的に導入済」「検討中」が続きます。こうしたことから、実際に導入・実施となると、多くの企業が二の足を踏んでいる現状が浮き彫りになりました。 
 さらに、その実現に向けて、「業務定義の精緻化」を筆頭に、「賃金体系の再構築」「雇用形態の見直し」「人事評価制度の改訂」など、実に多くの課題が山積みであることがわかります。


【表 同一労働同一賃金に関する自由記述の分類結果】

「同一労働同一賃金」に関する議論は、人的資源ポリシーに関する議論に他ならない

 このように、「同一労働同一賃金」を肯定的に受け止めながらも、導入に慎重な姿勢を示す背景には、人材マネジメント上の方針や考え方、つまり人的資源ポリシーがあります。多くの日本企業は、社員は会社という共同体の一員であるという前提に立った「メンバーシップ型」の人的資源ポリシーを採用してきました。こうしたポリシーを採用している多くの企業においては、各人が行っている仕事の境界は曖昧模糊としており、どうしても属人的に仕事が進められがちです。そのため、仕事と賃金はしっかりとは紐づいておらず、人事評価には仕事の成果以外の情意面も含まれていたりします。こうした多くの日本企業の現状と、「同一労働同一賃金」が求める明確な仕事定義やそれに基づく評価のあり方が馴染み難いのは当然です。したがって、「同一労働同一賃金」の導入を検討することはすなわち、「メンバーシップ型」の人的資源ポリシーをこのまま続けるか否かの判断を迫られている、といっても過言ではないのです。

働き方改革成功の鍵は、ネオ日本型人的資源ポリシーの構築である

 とはいえ、仕事をしっかりと定義し、仕事に対して必要な人材を雇用するという前提に立つ「ジョブ型」人的資源ポリシーに転換すれば事態は好転するのか、といえばそういうわけでもなさそうです。なぜなら、これまで「メンバーシップ型」の人的資源ポリシーが日本企業の強さを生み出してきたからです。「チームワークの良さ」や「一体感」、「ロイヤリティの高さ」などは、まさに「メンバーシップ型」の人的資源ポリシーの帰結と考えられます。こうした強みの源泉である「メンバーシップ型」の人的資源ポリシーを捨て去っていいとは思えません。
 今後、「メンバーシップ型」の要素を一部残しつつ、「ジョブ型」の要素をも併せ持った、新しい人的資源ポリシーに作り変えていくことが求められます。こうした「ネオ日本型」人的資源ポリシーの構築をスムーズに行うことが、「同一労働同一賃金」の実現、ひいては働き方改革を成功に導く鍵であると言えるでしょう。


(学校法人産業能率大学 総合研究所 経営管理研究所 組織測定研究センター
プロジェクト・リーダー 田島 尚子)