データで読み解く"働き方改革"【第1回 働き方と経営成果の関係】

はじめに

第1回は、働き方と経営成果との関係性から検討します。

働き方改革が、イノベーション活動の活性化をもたらす可能性がある

 実労働時間と有給休暇の取得率を用いて働き方良好群と非良好群に分け、過去2~3年の状況の違いを確認しました(グラフ)。ここでは、整理の仕方として、実労働時間「180時間」「有休取得率60%」を分岐点としています(良好群38社、非良好群100社)。グラフでは、良好群と非良好群の間に10ポイント以上差があったものに印をつけています。

 良好群が非良好群を10ポイント以上上回ったのは、「新しい商品、サービスの開発が活発に行われている」「事業のコストが削減されている」です。また、差が9.1ポイントであったものの、「新しい販路や事業が開拓されている」も良好群が上回り、良好群はコスト削減やイノベーション活動がより活発に行われていることがわかります。こうしたことから、長時間労働や休日出勤を抑制することが、イノベーション活動の活性化をもたらす可能性があることがわかります。

働き方改革は、モチベーション向上には寄与せず、業績悪化を招くリスクがある

 一方、非良好群が上回ったのは、「事業の売上が向上している」です。残念ながら、売上という量的な側面においては、社員が長時間働いたり、休日出勤したりしている企業の方が勝っていることがわかります。つまり、働き方改革を進めて長時間労働を是正したり、休日出勤を抑制したりすると、売上悪化という、好ましくない結果を招くリスクがあることを示唆しているといえます。
 次に、両者に差がなかったものについて見てみると、「従業員のモチベーションが高い」については、両者ともに低い水準であることがわかります。つまり、長時間労働や休日出勤を抑制しても、モチベーションにプラスの影響をもたらさない可能性がある、ということです。

ビジネスを見直し、長時間働かなくても売上を維持・向上できる戦い方を選択する

 このように、働き方と経営成果の関係性から、労働時間を削減すると、売上やモチベーションといった経営成果を維持・向上することが難しくなる可能性があることが明らかになりました。ここに、働き方改革の難しさがうかがえます。

 そこで、労働時間と売上の連動を断ち切るために、まずは今一度、自社は何をもってして競争優位性を確立するのか、そしてそれをどの程度極めるのかを、働く時間や休暇のとり方をふまえた上で見直す必要があると考えます。

 これまで、多くの日本企業は、商品の品質の高さやきめ細やかなサービス、価格競争力という強みを発揮することで成長を遂げてきました。しかし、これらは、往々にして、多くの時間と労力を必要とします。その結果として、長時間労働や休日出勤を余儀なくされることになります。つまり、こうした戦い方を続ける限り、労働時間を減らせば売上が下がるのは至極当然ということになります。また、残業禁止や有給休暇取得促進をいくら謳っても、現場は混乱し、不満が高まることが予想されます。サービスの指定配達区分を見直したり、取り扱い総量の制限をしたり、基本運賃の値上げに踏み切ったりと、ビジネスそのものの抜本的な見直しを行なったヤマト運輸株式会社のように、長時間働かなくても売上を維持・拡大できるような“戦い方”を選択することは、足かせをはずして働き方改革を確実に加速させると思われます。

働きやすさだけではなく、働きがいの観点も盛り込む

 また、働き方改革を経営成果のひとつであるモチベーションの維持・向上につなげるために、適切な労働時間と有給休暇の取得によって社員に対して「働きやすい」環境を提供することとあわせて、社員一人ひとりが共鳴できるミッションやチャレンジングな仕事を提供すること等を通じて、社員の「働きがい」を高めることの2つのアプローチから働き方改革をとらえるべきであると考えます。

 働きやすさと働きがいは、切り離して議論することができない存在です。労働時間の削減や有給休暇の取得を促進して働きやすさを提供しても、社員が働きがいを感じることができなければ、それはただの“ぬるま湯”状態に過ぎません。一方、仕事を楽しんで働きがいを感じることができたとしても、働きやすさが確保されていなければ、“ギスギス”状態に陥る可能性があります。

 働き方改革は、ともすると「働きやすさ」ばかりに注目しがちで、「働きがい」は忘れ去られがちです。単なる長時間労働の解消や有給休暇の取得促進という「働きやすさ」を追求するだけではなく、社員が「働きがい」を感じることができるような働き方を模索する。そうすることではじめて、経営者・社員の双方にとってより意義のある働き方改革が実現すると考えます。

 次回は、長時間労働が発生するメカニズムについて考えてみたいと思います。

(学校法人産業能率大学 総合研究所 経営管理研究所 組織測定研究センター
プロジェクト・リーダー 田島 尚子)