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【SANNOエグゼクティブマガジン】「働き方改革」実現の方程式


原 義忠



学校法人産業能率大学 経営管理研究所 
人事・マネジメント研究センター 主幹研究員

※筆者は、主に人事制度設計および導入支援コンサルティングを実施。
※所属・肩書きは掲載当時のものです。



1.「働き方改革」の取り組みの現状と課題

「働き方改革」が叫ばれて久しい。多くの組織が「働き方改革」の旗印の下で、様々な施策に取り組んでいる。労働時間短縮、キャリアの多様化の受容・促進、柔軟な雇用形態実現などの取り組みを進めてはいるものの、組織における「働かせ方」の改善に止まっていることが多いのではないだろうか。まだまだ企業・事業戦略レベルでの施策との結びつきが弱いようである。

 また、「働き方改革」の取り組みによって、多くの組織から「おそらくES(従業員満足)にはつながっている(はず)」という評価はうかがうものの、「組織の成長」という観点からのメリットはあまり見えてこない。改めて、「働き方改革」がわれわれの組織にどのようなメリットをもたらすのかについて、方法論(打ち手)の検討・導入の前に、自組織の状況を直視しなければ、現場に負担感を抱かせるだけの一過性の取り組みにとどまってしまいかねない。

2.組織視点の「働き方改革」

(1) 「働き方改革」実現の方程式

 私は、「働き方改革」とは要するに、「下記の方程式の何を、どのように変えて、全体としてベターな状態を作るのか」ということだと捉えている。
 仮に、売上を3年後に10%増(「創出価値」増加)とすることを目指している、ただし人は増やさない(「人数」横ばい)、労働時間は全体で20%削減する(「時間」減少)ということになると、「人・時あたり創出価値」を大きく伸ばす施策の検討・実施が必須となる、ということである。

 「創出価値」は、自社の企業・事業戦略などに基づき、売上・利益・顧客満足度等の指標をどのように置くのか(伸ばすのか、一定に保つのか)ということである。
 「人数」は、人材獲得の困難度が増している状況や人材の流動化、ICTやAIの活用を想定しつつ、中長期の事業プランに基づいて、必要人員数をどのように再定義するのかということである。
 「時間」は、労務管理上の規制やレピュテーションリスク(評判・風評リスク)、雇用の多様化を想定し、ビジネスの全体構造における労働時間への依存をいかに変えていくかということである。
 「人・時あたり創出価値」は、社員に何を期待し、どのようにレベルアップを要求し、創出価値を高めていくのかということである。

 これらの要素について、組織としての方向性を明確に示し、現場にいかに浸透させるか、社員ひとりひとりが「働き方改革」の狙いや意義を理解し、「自らの働き方を改革する」ことにいかに主体的に取り組めるかが「働き方改革」実現のポイントである。
 以下、上記の方程式におけるそれぞれの要素を検討する観点に触れておきたい。

(2)「創出価値」再定義の観点

「創出価値」の検討にあたっては、まず、顧客価値・市場価値の再定義・再確認が必要である。その際に、「組織として戦略レベルの意思決定をする『覚悟』を持てるか」という観点が求められる。例えば、事業の売り上げや商品・サービスに対する顧客の満足度の維持・向上を社員の頭数や長時間労働に依存している構造を変えていこうとする観点を持てるかということである。

(3)「人数」検討の観点

「人数」の検討にあたっては、「中長期の採用計画」「人材の定着(リテンション)」「雇用形態の多様化などによる人員構造の見直し」などを考慮に入れた検討が必要である。採用環境の厳しさから「数を確保」することに手一杯の状況になっている組織も多いが、採用や定着施策の前提として、「創出価値」や業務プロセスの技術革新を考慮したときに、前記方程式を満たすための「理想の数」を明確にしておくことが重要である。

(4)「労働時間」短縮の観点

「労働時間」短縮の検討にあたっては、「仕事における『時間裁量』をどこまで拡大できるか」という観点が重要である。拘束を緩和し、仕事の時間を最適配分しやすい状況を産み出し、結果的に労働時間が短縮している状態になることが理想である。また、時間の短縮のみを強調せずに、「どんな成果(アウトプット)を要求するのか」ということを明確にする必要もある。あわせて、「社員の労働時間に対する『意識』を根本的に変えていくことができるか」という観点も重要である。組織のレピュテーションリスクに対する危機感の醸成や管理職の意識改革などを進める必要があろう。

 「時間さえ短くなれば良い」ということでないことは言うまでもないが、労働時間に対するコスト意識や認識の甘さを是正するためのメッセージのひとつとして、人事評価を活用している組織が出てきている。行動評価の評価項目に「時間管理」の項目を追加する、業績評価(目標による管理の評価)から、「時間外計画超過分」を減点する(管理職は職場全体を対象として評価)、労働時間の削減をテーマとした目標設定を全社員に強制する、業績評価に「達成に要した業務時間」の観点から期末に加減点できる項目を追加するなどし、業務に「費やす時間(input)」を評価しているのである。

(5)「人・時あたり創出価値」向上の観点

 「人・時あたり創出価値」向上の検討にあたっては、仕事の熟達を促すために、「キャリア初期に計画的・継続的・意図的な学習機会を準備することができるか」という観点が重要である。また、創出価値向上のキーパーソンである「ミドルマネジャーに求める役割・期待が変わったことを明確に示すこと」「ミドルマネジャーが役割を果たすために求められる能力を任用までの間に段階的に身につけること」も重要である。参考までに「ミドルマネジャーに求められる役割の変化」に関する私自身の捉え方を下記に示す。
 今回は、組織視点での「働き方改革」の捉え方と検討の要素、観点について述べてきた。現場の社員たちは、今の状況では、この方程式は「決して解けない」と感じてしまっているかもしれない。まずは、組織として、「わが社の」明確な方針とゴールを持ち、その実現に必要な資源を投資し、システムを変えていく覚悟を示さねばならない。その上で、社員に対しても、意識、能力の両面で従前の充足感を超えるための「厳しい要求」をする毅然さも必要である。本論が貴社の「働き方改革」の施策検討・実現の一助になれば幸いである。

*本稿はヒューマンキャピタル2018(日経BP社主催)「『働き方改革』の“怖さ”と企業と社員の関係性の変化」と題したセミナー(7月4日)の講演内容を再編集し加筆したものです。