⽇本・中国・韓国における「⼥性活躍」の現状と展望 ― グローバル経 済の中で⽣き残っていくために

はじめに

⽇本・中国・韓国の3か国は、男⼥の雇⽤格差などを表すGGGI(Global Gender Gap Index︓世界ジェンダー・ギャップ指数)によれば、先進国約144か国のうち中国は99位、⽇本は111位、韓国は116位と、いずれも最低に近い⽔準です。
しかし、⽇中韓の男⼥参画を調査・研究している⽯塚浩美教授によれば、この3か国の状況と課題は各々異なっているといいます。
産業能率⼤学教授。経済産業省
RIETI経済産業研究所「ダイバーシ ティとワークライフバランスの効 果研究」研究会委員(2012年 度〜2013年度)。専門は労働経済 学、応⽤ミクロ経済学。
⽯塚 浩美 教授

男⼥間格差が広がる中国、解消に向かう韓国

⽯塚教授によれば「GGGIの順位が⽰す通り、3か国の中で最も男⼥間格差が⼩さいのは中国です。計画経済時代の名残で、⼥性も働くのが当然という意識が根付いていることに加え、労働市場は欧⽶的で流動性が⾼く、転職は当たり前。そのため⼥性もキャリアアップを図りやすく、係⻑クラスの約半数は⼥性が占めています」。ただし、中国も近年は男⼥間格差が拡⼤する傾向にあるといいます。要因の⼀つは、定年の違い。男性が60歳まで働けるのに対し、⼥性は50歳で定年という慣習があり、「就業先のほとんどが国営企業だった時代は、それでもうまくいっていました。50歳で退職しても、すぐに年⾦が⽀給されたからです。しかし、市場化に伴い急増した⺠間企業では、年⾦の保証はありません。その結果、年⾦を含めた⽣涯所得の格差が広がりつつあるのです」。

⼀⽅、韓国はGGGIの⽇本との順位の差が2016年に⼀気に縮まりました。実は、労働市場が固定的で、終⾝雇⽤の⽂化があるのは世界でも⽇本と韓国だけであり、出産でキャリアを中断しがちな⼥性にとって活躍しにくい⼟壌であると⽯塚教授は指摘しています。
「韓国が変わったきっかけは、1997年のアジア通貨危機です。IMF(国際通貨基⾦)から⽀援と引き換えに改⾰を迫られ、ようやく重い腰を上げたのです」。
中でも奏功した施策が、2006年に導⼊されたアファーマティブ・アクション(積極的雇⽤改善措置)です。
これは、同じ産業の⼥性の就業率と管理職⽐率の平均値を出し、その60%未満の企業に対しては、改善に向けた計画書や報告書の提出を義務付ける制度で、「目標設定が⽐較的緩く現実的であったため、着実に効果が出ています。韓国は、実情としては既に⽇本を追い越していると思われます」と⽯塚教授は分析しています。

⽇本の「⼥性活躍推進」とさらなる課題

翻って⽇本はといえば、⼥性の労働⼒そのものは低くないものの、出産・育児を機に正社員から非正規社員になり、待遇が悪化してしまうケースが目⽴つといいます。また、わが国特有の「おそい昇進」もネックになっていると⽯塚教授は指摘します。⼀般的に、中国は20代、韓国は30代前半で係⻑になるのに対し、⽇本は30代後半が⼀般的で、⻑期勤務がしにくい⼥性は管理職への昇進が難しいのです。こうした状況の改善のため「⼥性活躍推進」が官⺠挙げての課題となっていますが、⽯塚教授は「ただ、⼥性管理職の⽐率を上げても、⽣産性の向上にはつながらない」といいます。「⽣産性向上という観点からいえば、価値観の多様性により着目すべきです。男性か⼥性かといった表⾯的な違いよりも、組織の中にどれだけ多様な価値観を持つ⼈々が存在し、活かされるかが重要。『⼥性の管理職』という⾔葉が『多様な価値観の⼈々が組織に重⽤されていること』を意味してはじめて、誰にとっても意義のある『活躍推進』がなされることになるのです」。

その上で、男⼥間格差を解消するには、労働市場の流動化や正規・非正規の格差解消を含めた「働き⽅改⾰」が重要と⽯塚教授は断⾔します。「⼈⼝減少と財政⾚字を抱える⽇本がグローバル経済の中で⽣き残るには、潜在的労働⼒である⼥性の活躍が⽋かせません。しかし、現在の⽇本企業の『働かせ⽅』では、⼥性が⼦どもを⽣み、男性並みに働き、男⼥共に仕事をしながら育児と両⽴することは難しい。しかも、単に両⽴すればよいのではなく、そこに安定感や働きがいがあることも重要です。経営者や管理職の⽅々には、従業員やメンバーの『⽣きがい』などのミクロな視点と、⽇本の経済全体や将来といったマクロな視点の両⽅から「⼥性活躍」を考え、推進していくことが求められていると思います」。