イベントリポート『生産性向上の実現に向けた働き方改革』(事例発表)vol:2

事例発表「生産性向上の実現に向けた働き方改革を考える」

日本電産株式会社
人事企画部 企画グループ 兼 人事部 女性活躍推進室
課長 住友 剛 氏


若手社員のモチベーションをどのように引き出し、高めていくべきなのか。企業の現場で働き方改革や活性化支援を行ってきた前川氏に、事例を紹介いただきながらポイントを話していただきました。

◆1.日本電産株式会社について
◆2.日本電産の働き方改革の推進(背景、ねらい・目的)
◆3.人事として目指すもの
◆4.「出来るまでやり続ける」ことが大切
◆5.「日本電産の働き方改革」主な取り組み事例
◆6.当社の現状(課題と対策)
◆7.おわりに(働き方改革を“出来るまでやる”)

1.日本電産株式会社について

会社概要 社 名:日本電産株式会社
設 立:1973年7月23日
資本金:877.8億円(2017年3月末)
売上高:11,993億円(連結、2017年3月期)
事業内容:精密小型モータ、車載及び家電・商業・産業用モータ、
     機器装置、電子・光学部品、その他の開発・製造・販売
所在地:京都府京都市南区久世殿城町338
従業員数:107,062人(連結、2017年3月末)

企業理念 <社是>
我社は科学・技術・技能の一体化と
誠実な心をもって
全世界に通じる製品を生産し
社会に貢献すると同時に
会社および全従業員の
繁栄を推進することをむねとする。

<三つの経営基本理念>
1.最大の社会貢献は雇用の創出であること
2.世の中でなくてはならぬ製品を供給すること
3.一番にこだわり、何事においても世界トップを目指すこと

<三大精神>
情熱、熱意、執念
知的ハードワーキング
すぐやる、必ずやる、出来るまでやる


当社は「世界No.1の総合モーターメーカー」として精密小型から超大型までの幅広いラインナップを誇るモータ事業を中心に、「回るもの、動くもの」に特化したモータの応用製品・ソリューションを手がけています。1973年に4人で創業した当社は、今ではグループ連結で世界10万人以上の社員を抱える企業に成長しています。自律成長に加え積極的なM&Aを原動力に事業分野を広げ、2014年度にはグループ連結での売上高1兆円を達成しました。現在は、2020年度売上高2兆円、さらに2030年度売上高10兆円という夢の実現を目指し、全社全グループ挙げての働き方改革を進めているところです。 なお、現在も創業者が代表取締役会長(以後、永守会長という)として、グループ全体を指揮し、働き方改革の旗振り役としても会社をリードしています。

2.日本電産の働き方改革の推進(背景、ねらい・目的)

当社は、冒頭でご説明した経営目標達成のために、働き方改革を推進しています。世間では、2020年「残業ゼロ」を目指す企業として取り上げられることもしばしばありますが、これは手段にしか過ぎず、本質的に当社が目指しているのは、「生産性を2倍にすること」です。政府における働き方改革が動き出す以前、日本電産グループとして1兆円の売上高が視野に入った2010年頃には、働き方を変えることを当社の代表(永守会長)が自ら社内で宣言しています。
1兆円企業に至るまでの当社の働き方は、3大精神(「情熱、熱意、執念」「知的ハードワーキング」「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」の名のもとに、ベンチャー企業から中小企業、そして大企業への足掛かりを築き、成長してきました。この成長過程においては、企業体力のある大企業の競争相手に打ち勝つために、競合他社と比較し有利不利のない(どの企業にも等しくある)時間を武器にして少しでも長く働くことにより、競争に打ち勝つことを企業戦略とおく必要もありました。しかしながら、国内外の社会環境の変化やその変化のスピードがますます増していく中、1兆円企業としてグローバルに戦って行くには、時間に頼った働き方では限界があります。
さらに先の大きな夢である10兆円企業に向かって、企業を大きく・強く成長・発展させて行くためには、3大精神を最大限活かしながら、働き方の軸を「ハードワーク」から「生産性2倍(高効率労働の追求)」に転換(社員の貢献の評価基準も「労働時間」ではなく、「生産性」に転換)し、働き方改革を推進しています。※主な働き方改革の活動は後段を参照

例えば、同期のAさん(優秀)・Bさん(標準的)の2名を比較した場合、「Aさんが午後5時で帰るならば、Bさんは、午後8時までやって、その結果同じ仕事ができていたら、同じように評価しよう。」とすると、これまでは、能力が低い人や要領が悪い人でも頑張って遅くまで働き、同じ結果を出すこともできました。しかし、時代も変わりこれからは、午後5時で締め切り、そこで同じ成果が出ていなかったら、評価はできないと言わなければいけなくなっています。「できるまで働きなさい」でも、「仕事ができていなくても帰って良い」でもなく、「時間内でできる方法を考えなさい」ということです。(永守会長談)

3.人事として目指すもの

このように当社では、生産性向上を実現するための働き方改革を通じて企業文化の変革を進めていますが、セッション1にて、安藤研究員から今後、AI等の発達により、人とコンピューターの関係が劇的に変わる(これまでの人がコンピューターに近づこうとする時代からコンピューターが人に近づこうとする時代への到来が予想される)とのお話がありました。我々は、この時代の変化の中で、人として今後よりコミュニケーション力を磨き、さらに付加価値の高い仕事ができるよう人間力の向上に努めなければならないと感じます。
当社においては、新たな企業文化を支える「グローバルで戦える企業集団」「創業以来培ってきた自ら考え行動する企業集団(会社の事を我が事と捉え、自分達のことは自分達で解決する姿勢を持ち、行動できる社員の集団)」の強化を目指しており、人事では、そのために、広く社会に認められる人間力のある企業人(プロアクティブなプロフェッショナル)を育てることが重要であると考えています。

4.「出来るまでやり続ける」ことが大切

ここから、少し具体的な話になりますが、当社では、生産性向上の実現のために、大きく2つのコンセプトに基づいて取り組みを行っています。
1つ目は、「体制・仕組みの強化」です。
2016年度から2017年度にかけて、働き方改革委員会(7つの分科会から構成)や女性活躍推進室を設置して、限られた時間の有効活用、高効率労働の追求を目指しています。
他社様から見れば、ごく当たり前のことで、すでに実施されている会社様も多いかと思いますが、この中で当社の特徴を挙げるならば、創業の精神にもある「出来るまでやる」という考えが根底にあることです。
例えば、私が部下に依頼していたことができていなかった場合、私の上司からは「1,000回部下に言ったのか(1,000回言行)」という言葉が日常的に出てきます。誰かの行動、組織の行動を変えるためには、何度も何度も繰り返して言い続けなければいけない、という例えとして良く使わるものです。この精神こそが、体制や仕組みの強化には非常に大切だと思っています。
一般的な話で、「打出の小槌」のように即効性のある制度や仕組みを求める声を聞くことがありますが、いくら斬新な体制や仕組みをつくったとしても、日頃の運用が形骸化しては意味がありません。それよりも、あたり前の制度や仕組みであっても、しっかり効果がでるように働きかける・運用し続ける(出来るまでやり続ける)浸透活動が、非常に大切なことではないかと考えています。

2つ目は、「多様性の中にも軸を持つ」組織風土の醸成です。
働き方や価値観なども含め、社会的に多様性という言葉が良く取り上げられるようになりましたが、一見すると多様性を都合良く個人主義と捉え、周囲との協調・協働を疎かにする場面も生まれつつあるように感じます。
当社では、このような多様性の時代だからこそ、私たちが何を大事にしなければならないかブレないように、多様性の中にも軸をしっかり持つための組織風土の醸成を進めています。
例えば、先ほどお話した企業集団であるために、経営陣だけでなく自分たち社員一人一人が考える必要があることを、何度も何度も社内で話をしています。現状に甘んじて「普通の会社にはならない」こと、そのためには、「大企業病にならないためのマイクロマネジメント」「自立性と連帯感を忘れず会社の事を我が事と思う意識」が大切であるという言葉が社内ではよく飛びかいます。
どうしても会社が大きくなると、会社に甘えて他人事になってしまったり、この程度で良いのではないかと自然にレベルを下げてしまう傾向が出ることが懸念されます。
先ほどの2兆円や10兆円などという数字も、一見すると「そんなことできるはずないじゃないか」となるのかもしれませんが、逆にこれを前向きにチャンスと捉え、「我々ならできる。」「どうしたら実現できるのかを皆で知恵を絞って考える。」「決めたことは、スピード感を持って必ずやりきる。」という当社ならではの会社に誇りが持てる組織風土を目指しています。

5.「日本電産の働き方改革」主な取り組み事例

当社では、2015年度下期からは、次のようなことを取り組んできました。この中の主な取り組みをピックアップしてご紹介します。
(1)改善活動の推進(事例:会議時間の見直し)
生産性を上げ時間内でできる方法を考えた時、その弊害の1つとしてあがってきたのが、会議時間の長さでした。当社では、これまで社員教育の観点から多くの社員が会議に参加し、会議を活用することで、経験値を積んできた面がありましたが、そのため、例えば、部下が書類に承認をもらいたい・相談をしたいと思っても、上司は会議が多く自席にいないということもあり、組織として決して効率よく業務を進めることができていたとは言えない部分がありました。そこで、1時間の会議は、45分、30分の会議は、25分と時間を定め、会議を削減し、資料を簡略化し、事前に資料は関係者に配布、会議の出席者も意見を発言する社員のみに絞る等の工夫を加えることとしました。
今では、会議の見直しによって、創出した時間は、部下とのコミュニケーションの時間に費やすことができるようになり、単なる会議時間削減以上の効果をもたらすことができています。

(2)3つの制度(在宅勤務制度・時差勤務制度・時間単位年次有給休暇制度)の導入
当社は、働き方改革において、高効率労働の追求・限られた時間の有効活用をテーマに、社員をサポートする3つの仕組みを2016年度(2016年4月~2017年3月)に検討・一部試行し、2017年4月から本制度として導入しています。導入検討にあたっては、社員代表組織である親睦会組織や女性活躍推進プロジェクトの参加者から多くの意見・提案をもらい、生産性の向上と社員のキャリア形成に寄与する仕組みとして制度を導入するに至っています。
なお、3つの制度の概要は、次のとおりです。
≪ 制度導入補足 ≫ 
※在宅勤務制度は、2016年度内において一部トライアルを3ヵ月程実施し、課題検証しつつ、全社的な本制度として展開している。
※時差勤務制度は、海外と関係のある業務に従事する社員向けに設けていた時差勤務の仕組みを、生産性を維持・向上させる手段として、用途に応じて拡張適用・勤務パターンを増やし展開している。
※時間単位年次有給休暇制度は、これまで年次有給休暇として、1日・半日単位の休暇取得が可能であったが、これに加え、さらに他の2制度(在宅・時差)とも組み合わせることで、柔軟かつ効率的な勤務を可能としている。
※フレックスタイム制の検討も行ったが、当社では、個の都合・利便性に重きをおいた生産性向上ではなく、組織として、他の社員とともに協働・効率化が目指せる仕組み・マネジメントに重きをおいた運営による生産性向上を最大の目的としたため、同制度は、導入しないこととした。

(3)女性活躍推進室の設置
女性が働きやすくかつ業績の良い会社を目指そうという当社の代表(永守会長)の方針のもと、3つの制度と同様に、親睦会組織や女性活躍のプロジェクトチームからの声を受け、2017年4月から人事部内の組織として、「女性活躍推進室」を設置しています。
現在、当社の人事部門のメンバーを再編成し、5名(専任1名・兼務4名)体制で活動を行っています。同室は、全社挙げての働き方改革とリンクし、ワークライフマネジメント(仕事と家庭を積極的にマネジメントできる人材の育成)を基軸に、3つの制度に関する男女問わない働き方への理解・浸透活動やさらに社員をサポートする制度改定に加え、社員のキャリア形成に寄与する仕組み・運用を推進しています。また、当社のCSRビジョン2020に記載の「女性管理職比率8%」達成に向けて、社員の意識、風土を醸成することも同室の大きな役割として担っています。
<女性活躍推進室の皆様>
日本社会における少子高齢化・大介護時代、変化が激しく厳しい企業競争を勝ち抜くためには、グローバルな視点で生産性を上げ、働き方を変えていく必要があります。当社は、そのために男女問わない働き方改革・社員の意識改革が必要であると考えており、働き方改革と女性活躍推進を表裏一体のものとして、取り組みを進めています。

6.当社の現状(課題と対策)

社員の日々の業務改善・時間外削減に対する目標意識が相乗効果を生み、2014年度~2016年度にかけて、会社全体で時間外をほぼ半減させることができましたが、2017年度においては、時間外の削減は足踏み状態となっています。この現状を打破するために、働き方改革を通じた生産性向上における課題として当社では、「語学力の向上」と「管理職の管理能力の向上」を挙げています。

(1)語学力の向上への対策
生産性向上には、グローバル人材の育成が必要不可欠であると考えており、このために社員の語学力向上を目指しています。働き方改革によって創出した時間を、語学力向上等に繋げ具体的な施策を実行に移していくことが重要であると考えており、2017年3月には日本電産本社ANNEXグローバル研修センターを開設致しました。社員がいつでも学べる環境を実現し、英語や中国語などの語学学習、業務に必要な専門知識の学習プログラム等を計画し、順次進めています。

(2)管理職の管理能力向上への対策
当社では、先にも少しお話したマイクロマネジメントの徹底を目指しています。
「マイクロマネジメント」と言う言葉は、一般的にネガティブなコンテクストで語られますが、当社では、マイクロマネジメントをオーケストラの指揮に例えています。オーケストラの指揮者は、楽団員1人ひとりの役割を完全に理解し、1人ひとりにどの様に演奏させるかを意識して指揮しています。単に皆の前で棒を振り回しているだけでは、指揮者とは言えないのと同じで、経営者・管理者も1人ひとりの部下にどう動いてもらうか意識して指揮しなくてはならないものです。それが、部下全員の生産性を上げ、高い成果に繋がると考えています。上司は、日頃から部下の業務状況を把握し、業務に入り込んで必要な指揮を行い、部下全員の成果を最大限に引き出すための最適な方法を考え、部下とコミュニケーションを取りながら、組織目標の達成に向けてベクトルを合わせる。部下を行動面から指導し、業務を自立的に進める社員を育てる。これらを繰り返し実践するために、日頃から上司と部下の間での業務管理・報告・コミュニケーションの徹底を図っていくことを進めています。

7.おわりに(働き方改革を“出来るまでやる”)

働き方改革を通じて、日本社会や企業が大きく変化していく中で、その改革の一翼を担っているという責任とやりがいを感じています。当社の働き方改革もまだまだ道半ばではありますが、各種施策を推進し、「出来るまでやる」の精神で、必ず達成できるよう一歩一歩着実に前進していきたいと思っています。

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