イベントリポート『生産性向上の実現に向けた働き方改革』(事例発表)vol:1

「働き方改革」と「生産性向上」の関係について考える

学校法人産業能率大学
総合研究所 経営管理研究所 主任研究員 技術経営研究センター所属
安藤 紫


◆ 「働き方改革」=生産性向上?
◆ 「働き方改革」は“わがこと”
◆ 企業にとって「生産性向上」は必須
◆ “わがこと”として会社の将来を考えるために「働き方改革」を

「働き方改革」=生産性向上?

はじめに、「働き方改革」は本当に生産性向上につながるのか?!、そのあたりからお話ししたいと思います。

 以前から私ども(産業能率大学)に、改善活動であるとか業務の効率化といったようなお声がけが続いているのですが、それが2016年秋ごろから特に増えてきました。
切り口やキーワードはいろいろですが、これらはすべて、「働き方改革」につながるものです。
 では、「働き方改革」とは、そもそもどのようなものしょうか。政府が設置した「働き方改革実現会議」によれば、次のように定義されています。
 ここにもあるように、「働き方改革」は「生産性向上」につながるものである、ということは、人事部の皆さんであれば、十分ご理解いただいているものと思います。しかしながら、お客様企業にうかがって現場で従業員に話を聞くと、「働かせ方改革でしょう」とか「どうせ会社の都合でしょ」という言葉が出てきます。「働き方改革」が「生産性向上」のためのものである、とは実感されていないのです。下記の調査結果を見ても分かる通り、「働き方改革」のイメージとしては、制度や休暇取得などの権利のほうが先行しているようです。
 始まったばかりだから理解が進んでいない、ということを差し引いたとしても、国や企業と個人の間には、大きなギャップが生まれているわけです。
 ただ、「働き方改革」は、国の都合でも企業の都合でもありません。働く人一人ひとりが“わがこと”として捉えないと、後で困るのではないか、と危惧しています。

「働き方改革」は“わがこと”

 今からちょうど10年前、日本でiPhoneが発売されましたが、インターネットの普及やスマートフォンの登場は、例えば何かを購入するとき、簡単に価格比較ができるようになり、その場で購入することができるようになるなど、私たちの購買行動を大きく変えました。
 インターネットが普及する前は、買い手と売り手とでは、圧倒的な情報量の違いがありました。売り手が「○○は絶対におすすめです」と言えば、「●●屋さんがおっしゃっているのであればぜひ買います」といったような商売が成立していたのですが、現在はそうはいきません。売り手の強みだった情報量(情報の非対称性)が、インターネットの出現により崩壊したわけです。売り手は勉強し続けなければいけません。
 これは、生産性についてお伝えするときに使っている資料ですが、仕事の目的と内容を確認した上で、必要な仕事ならやるべきです。必要な仕事であれば、ゼロタイムゼロコストはあり得ません。それでもそれをすることを選ぶ。その上で、主に時間短縮によって、自社にとっての新たな価値を生むための時間を創出することです。ただ、これは「ああ、改善活動ですね」「業務の効率化ですね」となりがちですが、違います。会社にとって新たな価値を生んでくれる人としての、自分の価値の向上です。
 見方を変えてご説明しましょう。横軸に時間、縦軸に仕事に必要な知識とかスキルを取ります。皆さん、今の仕事ができるようになるまで、どれくらい時間をかけたでしょうか。今後も今のレベル感を維持していくためには、経年劣化を踏まえると、新しいことをインプットし続ける必要があります。自分はこれでいいやと思ったとしても、組織の期待値は上がる、あるいは変わります。例えば社内公用語が英語になった会社様がありましたが、「私には英語はちょっと・・・」と言って辞めてしまう方もいたようです。
ですが、大丈夫です。皆さんにはそれぞれ“もちまえ”があります。この“もちまえ”というのを使わないのはもったいない。“もちまえ”を出し切っていただけるように、ということで本学は創立されたという経緯もあり、私はそこに貢献できればと思っています。

企業にとって「生産性向上」は必須

 日本の生産性は、OECD諸国間で比べると、年々その順位が下がってきています。これは、かつて世界一と言われていた製造業も同様です。
 その背景として、まず個人について考えてみましょう。今、なぜ、会社が時間をかけて、場合によっては残業代を使ってもいいから改善活動をやってくれと言っているのか、生産性向上ができないと日本がなんで困るのかを知らない人たちが多い。これは若い人に限りません。
 そして世の中は、どんどん変わっています。カエル跳び現象と言って、日本からすればまだまだ新興国と思っていた国が、どんどん日本を追い越すようなハイテクを取り入れている現状があります。例えばアフリカで、電気が十分に通っていないところでもスマートフォンで送金する、なんていう話も、iPhone登場後6、7年くらい前から言われるようになってきました。
昨年、北京から日本に赴任してきた中国人が言っていたことですが、日本で初めて買ったものは財布だそうです。北京ではキャッシュレスが進んでいるため、現金を持ち歩く習慣がなかったのですが、「まさか日本でこんなに現金が必要になるとは」と、驚いていました。
 一方、働き手が足りない、という日本独自の課題もあります。ならばその解決のためにAIやロボットなどのハイテクを導入して、技術で補えればいいのでは、という考えもあります。コスト効率を上げ、経営的に良い効果をもたらす一方で、今いる人たちをどうするのかといった問題や、そもそも機械やロボットなどが入ってきたことでビジネスモデルを変えなくてはいけなくなったところで悩まれている企業が非常に多い気がします。

 例えば製造業なら、ものづくりにロボットが入って自動化ということは昔から世界でも最先端のレベルで進んできたわけですが、AIやフィンテックの登場によって、ホワイトカラーの仕事もぐっと代替される時代になってきました。今働いている人たちをどうしますか、かつ、そうした時代にどういう人材が必要でどうやって働いてもらいますか、ということを考えなければなりません。それが“今”ではないでしょうか。
 また、ビジネスモデルが変わった、と言うけれども、うちはそんなにピンとこないよ、という方もいらっしゃるかもしれません。電気自動車を例に取りましょう。今、無人運転の技術開発が進んでいます。ハンドルがついていない車が2019年にも売り出される。そうすると、自動車や自動車部品関連の会社さんたちにどのような影響があるか。さらに、無人運転が実現すると、ドライバーさんの仕事がなくなり、車の需要台数は今の半分になるのではと言われています。最終製品で儲けられなくなる可能性もあるのです。
このようにすごく変わってきているのは間違いありませんが、現場の人たちはそんなに実感している感じがしません。それは本人の問題というだけではなくて、やはり組織としての取り組みが問われるところだと思います。

“わがこと”として会社の将来を考えるために「働き方改革」を

ある調査によると、「今後5年間の見通しがつかない」と答えている企業の経営者は、7割を超えていると言います。5年後どころか来年も見通しがつかない、と答える会社もあります。
 従業員からすれば、将来のことは経営者が考えるべきこと、と言いたいところかと思います。しかし、こういう時代だからこそ、私たち一人ひとりがしなければいけないこと、あるいは組織として、例えば人事や、各機能を持つ部門が、会社に対してどう働きかけるべきか、をしっかり考えていくべき時です。そういう意味で、ビジョンや戦略(どこを目指し、どこに進むのか)が問われると思います。偉い人が考え切れないなら、私たちが考えて提案したっていいじゃない、というのが最近の実感ですし、会社の側も、良い案であれば採用しないとまずいという感じが最近やっと出てきたなと思っています。
 しかし、新しく考えるには時間が必要、でもそんな時間がない。だから働き方改革をしていかなければならないのでは、と考えています。

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