【SANNOエグゼクティブマガジン】戦略と組織活動と業績の時間差をなくす

1.戦略と組織の同期化がなぜ重要か

 経営学者のアンソニーが提唱するように、戦略が計画され、マネジメントされ、オペレーションが具体化されていけば、高業績が見込めます。しかし、環境変化が激しくなると、戦略を常に変化させ続けなければなりません。戦略の変化と組織活動が同期化されずに業績悪化に至るケースが目立っています。

 たとえば、IT業界では、クラウド、IoT市場の開発が急務になっているにもかかわらず、従来からIT機器の販売を中心に営業活動をしてきた営業部門にとっては、クラウド営業、IoT営業にスムーズに移行できず、取り組みが後手に回るケースがあります。
 これは、新たな市場開発型営業転換がうまく進んでいないということであり、戦略と組織の同期化が進んでいないケースと言えます。この場合は、このまま放置しておくと、大きなビジネスチャンスがあるにも関わらず、それを逃がしてしまうことになりかねません。 
 このように環境変化が激しい状況下では、環境変化のスピードに対して、いかに戦略と組織活動の変更を同期化していくかが重要となってきます。この考え方を本学では「マネジメントコントロール」と呼んでいます。「マネジメントコントロール」とは、環境変化に対して、戦略立案、組織活動、業績管理を同期化し、そのスピードを速くする取り組み・考え方のことです(図1)。
図1  戦略と組織活動の同期化

2.企業活動における「時間差」の問題

企業活動において、戦略と組織は、理論的にも様々なところで解説されています。しかし、戦略と組織と業績の関係性については、あまり解説されていないので、今回はこの内容について、述べていきたいと思います。
 戦略は、年度や四半期、月次で臨機応変に変えることができます。しかし、戦略実施の受け皿は組織や人であり、チーム編成や業務変更、人の能力開発を伴います。人の能力開発は、少なくとも3か月、長くなると1年を費やします。さらに、戦略として取った策を元に顧客に提案・受注し、店頭に商品陳列後、消費者に購入され、代金回収となると、かなりの時間を要します。提案から顧客納入までに最低でも3か月、消費者の購入から小売店経由で自社の手元に現金として戻ってくるまで、さらに最低3か月かかります。このように、戦略を打って組織活動として実行し、その結果が業績や財務諸表に反映されるまでに、最低半年から1年はかかることになります。  したがって、戦略と組織と業績の時間差をいかに少なくし、効率よく連動させるのかが、重要なポイントとなるのです。

3.戦略と組織の時間差をなくすための工夫

では、戦略と組織活動の時間差をなくすために、どのような工夫があるのでしょうか。
 まず、組織の中で一番時間がかかるのが、人の育成です。戦略のスピードに、人の育成が追いつかず、うまく戦略推進できないケースがみられます。人の育成は、短期でとらえるのではなく、中期的な時間軸で先行して育成しておく必要があります。新入社員だったら、一人前になるのに採用から3年位は要します。役員の育成は、3年以上が必要です。
 人は、すぐには戦力化できません。企業活動の足腰を支えるのが人なので、将来を見越し、先行した育成をしておく必要があります。
 また、人の育成期間を短縮化することも重要です。製造業では、従来一人前の社員にするには3年を要していましたが、最近では、1年半に短縮する傾向があります。育成期間を短縮する手段として、教材のデジタル化、eラーニング、シミュレーション学習などがあります。育成カリキュラムと合わせた見直しが必要です。
 他には、外部の専門機関を活用する方法があります。たとえば、情報処理であれば、データセンター、事務処理であれば事務センターが挙げられます。総務関係のアウトソースとしてシェアードサービスを利用することも可能です。定型業務については、一から自前で開発・運用するよりも専門機関に委託することも一つの方法です。

4.組織活動と業績の時間差をなくすための工夫

 組織活動と業績の時間差を少なくするには、商品・サービスの内容や売り方、回収の仕組みを変える必要があります。
 業績を変える上では、マーケティングでいう、4P(商品・価格・チャネル・プロモーション)の要素が重要となります。商品・サービスは、2か月間の在庫で停滞するものよりも、日々使用され、回転の良い商品の方が、また廃棄ロスの低い商品の方が良いと言えます。たとえば、恵方巻きは、季節需要で、2月の低迷月の売り上げを確保するために開発されたものです。ただし生ものであり、売れないと廃棄ロスが大きく、予約販売方式による受注生産方式が望まれます。見込み生産で大量に作り、店頭販売で大量に売れ残ると大きな損失となってしまうからです。
 また、組織活動で、従来、卸・小売店を通じて販売していたものを、通信販売やネット販売に転換することは、販売と回収期間を短くすることになります。また、物流の委託化は、在庫管理・配送業務がなくなり、業務が大幅に削減されます。
 このように見ていくと、仕入れ、製造、販売、在庫管理、配送、納品、請求、回収の一連の流れをいかに短いサイクルで回す活動ができるかがポイントとなります。図2は、従来の組織活動と、製造部門を持たないファブレス化や配送の委託化による組織活動の違いを比較したものです。組織の業務の短縮化が、回収までの期間短縮になるように、業務の見直しが必要です。
図2  従来型組織活動と外部委託による組織活動
 以上のように、戦略と組織活動と業績は、密接に結びついています。それだけに、それぞれを関連づけて、業績向上に結びつく戦略・組織とは何か、といった視点からの検討が重要となるのです。

執筆者プロフィール

小島 吉四郎(Kichishiro Kojima)

学校法人産業能率大学 経営管理研究所
戦略・ビジネスモデル研究センター 主席研究員

※所属・肩書きは掲載当時のものです。

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