【SANNOエグゼクティブマガジン】「働き方改革」時代におけるビジネスパーソン個人の生産性向上


齋藤 義雄



学校法人産業能率大学 経営管理研究所 技術経営&コミュニケーション研究センター 主任研究員

※筆者は、主に業務改善、問題解決、管理技術の研修・コンサルティングを実施。
※所属・肩書きは掲載当時のものです。



はじめに

前回のコラムでは、組織や管理者の立場からの「働き方改革」について、その課題を髙坂研究員が紹介していました。今回は組織で働くビジネスパーソン一人ひとりの生産性向上について、考察していきます。

生産性には、労働生産性・資本生産性・全要素生産性など様々な種類がありますが、ビジネスパーソン個人を対象とした場合、図1のような式で表されると考えます。


生産性を高めるアプローチの1つ目は、分母(投入時間)を減らすことです。同じ仕事でも短時間で終わらせる、また同じ時間でアウトプットを増やす方法です。一方2つ目は、仕事のやり方そのものを見直し、分子(パフォーマンス)を高めることです。前者を「効率性」、後者を「効果性」とし、それぞれの向上について、以下に述べていきます。

仕事の「効率性」の見直し

筆者は様々な企業で業務改善の研修を行っています。受講者の皆さんに必ずやってもらうのは、出社から退社までの1日の実績をガントチャート風に書き出すことです(図2)。ガントチャートとは、プロジェクト管理や生産管理などで工程管理に用いられる表の一種で、作業計画や進捗状況を視覚的に表したものです。いわゆる“仕事のたな卸し”ですが、意外と一般のビジネスパーソンは、自らの仕事を振り返ることがないようです。
実績ガントチャートの見方の基本としては、“改善の4原則(改善のECRS)”(図3)を適用します。オーソドックスな観点ではありますが、研修で受講者の皆さんに尋ねてみても、実はあまり浸透していないようです。
まずは、「排除の原則」として「やめられないか」と問います。過去から伝統的に続けているが目的のなくなった業務や作業は、実際の職場にたくさんあるものです。思い切って止めるのが最も良い方法です。検討の結果、どうしても止められない場合には、「結合の原則」として「一緒にできないか」、「交換の原則」として「入れ替えられないか」を考えます。曜日や時間帯、部署や担当者、作業手順などの結合や交換を検討します。そして、最後に残ってしまう業務や作業は、「簡素化の原則」として「簡単にできないか」を考えます。簡素化に有効なのは、ICTの活用です。正確で迅速な処理ができる、データの編集・再利用が容易となる、データの一元管理によって検索性を高められる、といったメリットがあり、ICT活用はホワイトカラーの生産性向上には大変向いています。以上のように、「効率性」の向上には分析的なアプローチが有効です。

仕事の「効果性」の見直し

一般的な生産性向上論では、分子については「付加価値の向上が必要」と片付けられてしまうことが多いです。そこで本学では付加価値(パフォーマンス)を高めるための具体的な方法として、VE(バリューエンジニアリング)で用いられる「目的展開」をアレンジした手法を開発しました。(図4)
上記は、病棟看護師が業務改善に取り組んだ事例です。ナースコールの回数が多く、1日の中でその対応に多くの時間を費やしていました。仕事(業務)の目的を考える場合には、現在の手段の上位目的を単に挙げるのではなく、多様な人たちの立場で解釈していく過程を経ます。検討のポイントは、他部署や上司、顧客の視点で、ネガティブ(否定的)な本音もあえて挙げることです。上記の例では、顧客(患者)の立場で考えたことで、「患者を安心させる」という目的にたどり着きました。目的展開によって上位の目的を挙げたら、解決策の手段を発散的に考えます。事例では実際に、「相部屋のナースコールのついでに声をかける」という手段が行われました。一見すると看護師の手間が増えているように見えますが、患者にとっては不安の芽を早めに摘み取ってもらえるため、後から個別にナースコールをする必要がなく、結果的に看護師が他の業務に集中する時間を確保することができました。以上のように、「効果性」の向上には創造的なアプローチが有効です。

仕事の「習慣」の見直し

ここまで仕事の生産性向上について、「効率」と「効果」に分けて述べてきました。しかし、ビジネスパーソンとしては、「頭ではわかるけどなかなか実践できない」というのが本音ではないでしょうか。つまり、そこには仕事の「習慣」が関係しているのです。

習慣とは、『長い間、繰り返し反復することで固定化された行動様式』などと定義されます。ホワイトカラーの仕事でも、ルーチン業務などでは、知らず知らずに自分の型ができあがるものです。例えば、「人に聞けば一発で解決するタスクでも、独力でやろうとしてしまう」といったことも、体に染みついた習慣です。

ハーバード大学教育学大学院のロバート・キーガン教授は、著書『なぜ人と組織は変われないのか(英治出版,2013)』の中で、人の心理面で“強力な固定観念”があると述べています。つまり、今の仕事のやり方を変えることに対して、こだわりや不安があるということです。ビジネスパーソン一人ひとりが、それらの強力な固定観念に気づき、取り除いていくことによって、生産性向上が実現できるのです。

最後に

2017年の本学による『日本企業における社員の働き方に関する実態調査』では、「長時間労働・休日出勤を抑制できている企業では、コスト削減やイノベーション活動が進んでいる可能性がある一方で、長時間労働となっている企業では、売上は拡大しているが心身不調者増大のリスクを抱えている」という結果が出ています。今こそ「効率」「効果」「習慣」を見直し、ビジネスパーソン個人の生産性を向上させていきましょう。