【事例紹介】学校法⼈専修⼤学 18歳⼈⼝減少の激動の時代を迎えて、教育⼒の向上を進める専修⼤学の取り組み

はじめに

⽇本の18歳⼈⼝は、1992年の205万⼈をピークに減少を続け、2014年には118万⼈となりました。2031年には100万⼈を割り込み、87万⼈にまで減少することが予測されています。
そして、18歳⼈⼝の減少という事実や環境と向き合いながら、これからの教育を考え、実現していくという課題が、⼤学をはじめとする教育機関に課せられています。
この環境下で、所属する職員のマネジメントと育成には、これから何が求められるでしょうか。
専修⼤学 総務部 部⻑の船橋慶洋⽒に、同⼤学の取り組みを伺いました。
学校法⼈専修⼤学 総務部 部⻑ 船橋慶洋⽒

Q 貴学は135年の歴史をもち、⽇本社会の発展に多⼤な貢献をされてきています。創⽴の経緯、また、教育に対する理念について教えていただけますか。

本学は、1880年(明治13年)にアメリカ留学から帰国した4名、相⾺ 永胤(そうま ながたね)、⽥尻稲次郎(たじり いなじろう)、目賀⽥ 種太郎(めがた たねたろう)、駒井 重格(こまい しげただ)により創⽴された、経済科と法律科からなる「専修学校」に始まります。彼らは、留学の後押しをしてくれた国の恩に報いるため、近代⽇本の発展に貢献できる⼈材を育てることを目的に、本学を創⽴しました。
当時の法律学と経済学は、外国語を使い、外国の教科書を使って教えることが⼀般的でした。しかし、それでは⼀般市⺠に広く伝えることに困難があると考え、外国語の教科書をすべて⽇本語に訳し、⽇本で初めて、⽇本語による法律学と経済学の講義を始めました。経済科は⽇本で初めての、法律科は私学で初の⾼等教育機関でもあります。

創⽴者たちの志にもとづき、⻘年を教育・指導することによって社会に“報恩奉仕”することを本学の「建学の精神」と定め、現在まで135年、この精神のもとに⼤学を運営しています。

そして現在、「建学の精神」を現代社会で実現するために、21世紀ビジョンとして「社会知性の開発」を掲げています。
今の⽇本は、グローバル化の拡⼤、異⽂化交流の進展、情報化の加速、少⼦⾼齢化の進⾏など、21世紀になって新たに出てきた課題が⼭積みになっている状態です。
こうした課題を解決できる能⼒こそが「社会知性」であると考えています。そして、この「社会知性」を⾝につけた⼈材を⼀⼈でも多く社会に送り出すことが本学の使命であり、現代社会における建学の精神の実現に繋がると認識しています。

Q 「社会知性の開発」のために、具体的にはどのようなことをなさっているのでしょうか。

教育⾯では「新・学⼠課程教育」を2014年4⽉からスタートさせました。これは、従来⾏っていた「教養教育課程」と「専門教育課程」の2つの教育課程の真の融合を目指すために始めたものです。
学⽣がスムーズに⾼校教育から⼤学教育に移⾏できるように、⼤学での学び⽅を⾝につける「転換教育課程」と、⼤学での学びの基礎を固める「導⼊教育課程」の2つの教育課程を新たに導⼊しました。加えて、「社会知性の開発」を目指すために、専門教育と教養教育を融合した「融合領域科目」を新設しています。

専修⼤学 新・学⼠課程教育
また、学⽣が学ぶ場である校舎などのハード⾯においても充実を図っています。

2014年は「アクティブ・ラーニング」をコンセプトとした神⽥キャンパス5号館を建設しました。
本学には、「学⽣を基本に据えた⼤学づくり」という⼤学運営の基本的な考え⽅があります。すべての取り組みが、学⽣を中⼼に考え、学⽣の明るい将来を目指すものでなければならない、というものです。
⾼層階には最新設備を備えた5教室を、低層階には「考える・まとめる・情報を獲得する・交流する・表現する」といった「アクティブ・ラーニング」を促進する、複数の“アクティブラウンジ”を設けた校舎となっています。
さらに⽣⽥キャンパスには、学⽣の異⽂化理解や国際的なコミュニケーション⼒を向上させるために、「国際交流会館」をオープンし、「寮内留学プログラム」を実施しています。これは、学⽣がさまざまな国の留学⽣との共同⽣活を通して、相互理解と多角的な視野を⾝につけてもらい、真のグローバル⼈材になることを目指した教育プログラムです。

この実現のためには、私たち職員が、社会環境をくみ取り、時代にあったビジョンのもとに、ソフト⾯、ハード⾯ともに必要に応じて進化させるための原動⼒となる必要があります。

Q 建学の精神、21世紀ビジョンの実現のために、職員の皆さまが担っている役割が⼤きいということですね。職員の育成については、どのように取り組まれているのでしょうか。

私たち職員は、学⽣に対して教育を提供する⽴場にいます。その私たちが何の成⻑も遂げていないのでは、学⽣を教え、導くことはできませんので、職員育成には⼤変⼒を⼊れて取り組んでいます。
本学の職員研修制度の体系をご説明させていただきます。

この中で、⼀番の軸としているものは階層別研修です。「内定者研修」から始まり、⼊職後は1か⽉をかけて「定期採⽤職員研修」という新⼊職員研修を⾏います。ここでは、⼤学職員としての⼼構えから始まり、⼤学を取り巻く環境、そしてその環境下における職員の役割をしっかりと理解してもらうようにしています。
その後は、「フォローアップ研修」、「リフレッシュ研修」、「中堅職員研修」、「ブラッシュアップ研修」と続きます。それぞれの年次や役割に応じて、必要なスキル・知識を⾝につけてもらうよう、⼊職後10年目くらいまでは、2〜3年に1回の頻度で研修に参加するようになっています。若⼿向けの研修が⽐較的多いのですが、これは、早いうちに基礎をしっかりと⾝につけることが⼤切だと考えているからです。

研修を受けて、すぐに明⽇からガラッと変わることは難しいと思います。しかし、研修をきっかけにして、⾃分を変えていこうという意識が⽣まれることが⼤事だと思うのです。
研修のような機会がないと、⽇々の業務に流されて、目の前の業務をこなすだけになってしまうこともあるでしょう。もちろん研修で⾝につけてほしい知識やスキルはありますが、特に若⼿には、節目節目で⾃⾝の業務を振り返ってもらい、「がんばろう」と改めて思ってもらうことを、研修受講の⼤きな目的の1つとしています。

Q 貴学内で実施する研修と、外部に委託をしている研修がありますが、どのような理由で分けているのでしょうか。

「専修⼤学 職員研修制度」の図中で、「合宿研修」と記載があるものは、学内で講師を⽴てている研修です。ここでは、今直⾯している課題を参加者が持ち込み、それを話し合って情報共有し、課題解決を図ることをメインプログラムとしています。
こちらは先ほど申し上げたように、モチベーションの維持・向上も目的としています。また、学内の講師が担当しますので、仕事の延⻑と捉えられないよう、⼤学から離れた合宿というスタイルにしています。

⼀⽅、外部にお願いしている研修は、「通学研修」と記載されているものです。こちらは、職員それぞれの⽴場や役割に応じて⾝につけるべき知識やスキルの習得を目的としています。
また、外部委託の研修としては、主に「公開セミナー」を利⽤しています。⼤学職員という仕事柄、他の企業や⼤学と交流する機会は非常に少ないと思っています。営業担当として企業に出向くこともありませんし、企業の⼈と協業する、という機会もあまりありません。ややもすると、本学でしか通⽤しない考え⽅になってしまう恐れがあります。
これを防ぐために、さまざまな企業の⽅々と交流・議論することを通じて、考え⽅の幅を広げ、所属している組織を客観的に⾒ることができる「公開セミナー」を積極的に活⽤しています。

専修⼤学様 公開セミナー参加者の声

● 平成26年度 係⻑実践研修・通学コース(新任主任研修)

今までは独学で得た知識や技法をもとに、後輩の指導・育成に取り組んでいましたが、⽇々、何が最良の⽅法なのかを考え、悪戦苦闘しながら過ごしていまし た。この研修を受講することで⼀般化された基礎的な知識、技法について習得できたことは、今後の仕事に取り組むうえで⼤きな収穫でした。
また、多様な業界、職種の⽅と交流ができ、共通のテーマで演習に取り組み、最終的に⾃分を客観的に評価してもらえたことも貴重な経験となりました。

● 平成25年度 ビジネスコーチング研修(中堅職員研修)

⽇々の業務で改めるべき点や、意識せずにしていた癖があり、まずそれを⾃覚できたことで参加した意義はあったと感じます。また、ロールプレイングを通じ て、常に考えながら受講することができたので、緊張感漂う雰囲気の中で臨むことができました。加えて、普段会うことができない異業種の⽅々と議論をするこ とで、さまざまなレベルでコーチングスキルを多角的に学ぶこともできました。
これから後輩・部下を持つこともあると思いますが、今後に⽣かすことができると考えると、よいタイミングでこの研修を受講できたと感じます。この2⽇間で 学んだことを、最初は意識的に業務の場で取り⼊れ、無意識にビジネスコーチングができるレベルまで達することができるよう、業務に励みたいと思います。

Q 職員育成の成果として、何か具体的に出てきていることがありましたら、教えていただけますでしょうか。

18歳⼈⼝が増加していた時代は、正確な事務処理や前例を踏襲すること、しっかりと丁寧にやることなどに注⼒して仕事をしていれば良かったかもしれません。
しかし、現在は、それだけでは⽴ち往かなくなっています。先ほどご紹介した「国際交流会館」の「寮内留学プログラム」などは、まさに職員の発案によって導⼊された取り組みです。
また、本学では就職⽀援の⼀環として、4年⽣が3年⽣をサポートする「学⽣就職アドバイザー制度」や「学内OB・OG相談会」を開催していますが、これも職員の発案によるものです。
このように、職員が現場発のアイデアを出して実現できている理由は、今の⼤学が置かれている環境を理解し、仕事を変えようという意識が醸成されていることと、その意識を具体化できる思考や⾏動⼒が職員についてきているのだと考えています。
⾃分の仕事、⾃分の⼤学を取り巻く環境を把握・分析して、どのような対策が必要であるかをアイデアとして具現化できること、そして⾃分が率先して果敢に挑戦していく、といった今までにない能⼒が求められていると思います。
そのために、私たち⼈事を統括する部門としては、今後も時代に即した職員育成をしていかなければならないと考えています。

Q 今後取り組みたい職員育成施策がありましたら、お教えください。

現在、具体的には3つの育成施策を考えています。

1つ目は幹部職員教育です。今後も厳しい環境は続くでしょうから、⼤学教育の将来を引っ張っていくリーダー育成が必須だと考えています。

2つ目は⼥性の管理職を増やすことです。出産や育児についての制度が整っていることもあって、退職者は少ないのですが、現在の⼥性管理職は6名のみです。これは、職員の約4割が⼥性であることを考えると、非常に少ない割合だと思います。男性職員、⼥性職員ともに管理職に対する意識を変えて、もっと⼥性に活躍してもらえるような職場にしていきたいと考えています。

3つ目は⽣産性の向上です。ご紹介したとおり、現在多くのプロジェクトが進んでいるため、やらなければいけないことは⽇々増え続けています。しかし、それに応じて職員数を増やすわけにはいきませんし、残業を増加させ、就労環境を悪化させることもできません。
現状を改善し、効率的に仕事を進める取り組みもまた必須だと考えています。
―――さらなる向上を目指されるということで、学校法⼈ 産業能率⼤学としても、先達である貴学の取り組みに学びつつ、セミナーや研修等のご提供を通じて今後ともお役に⽴てれば幸いです。
このたびは貴重なお話をありがとうございました。