自動車技術のグローバル展開(1) ~環境問題と自動車の規制~

はじめに

筆者はクルマが大好きです。何がどのように好きなのか?ということを具体的に文書で表現することはかえって難しいものです。「漠然と好きである」というのも説得力がないので、「クルマ自体の持つ技術を体感してドライブすることが好き」という表現が一番適しているかもしれません。要するにクルマは筆者にとって「単なる移動手段の道具ではない」ということになります。よって衝動買いはまずありえません。じっくりデータで比較検討し、可能であれば試乗します。もしも、試乗車がなければ、同一エンジン&トランスミッションを持つ他車種に試乗します。 さらには、新技術が搭載された新車が発売されると購入意思はなくても試乗会に出かけます。最近では、日産自動車(株)(以下 日産)の電気自動車「ノート e-POWER」で発電のみに使用するエンジン制御と実際のクルマのモーター加速性能に興味を持ち試乗しました。また、トヨタ自動車(株)(以下 トヨタ)のハイブリッド車レクサス「LC500h」に新規搭載された「マルチステージハイブリッドシステム」の制御方法とドライブフィーリングとの関係に興味を持ち試乗しました。どちらとも興味を持った技術に関しては、五感を通して理解することができました。

クルマのある生活を選ぶ

1981年3月、筆者は理工学部の航空宇宙工学というニッチな学部を卒業し、出身地である長野県にあるIT機器製造会社に就職しました。友人たちは航空産業関係のメーカー(航空機関係の部品メーカーは裾野が広い)や航空会社に就職しましたが、筆者はいわゆる「Uターン就職」した訳です。都会の人ごみと高温多湿の環境にうんざりしたのと同時に、都会では大好きなクルマを所有する金銭的余裕はないと判断したのも一つの理由です。ましてや自動車会社への就職には大変興味はあったのですが、「自動車会社に就職すればその会社のクルマにしか定年まで乗ることはできない」と思うと、自由度がないと判断し諦めました。 そうは言いましても、偶然にも地元に今後成長が期待できるIT機器製造会社が存在していたことが一番の理由であることは間違いありません。結果として、今も筆者が楽しいカーライフを過ごせているのは、この企業に就職でき32年間お世話になったおかげだと心から感謝しています。 今年の夏は異常気象でした。7月の梅雨時期には夏を思わせるような快晴の日々が続き、誰もが8月の猛暑を想像していました。しかし、現実は梅雨明け宣言したにもかかわらず、東京では雨模様の日々が21日間続き、全国的に日照不足やゲリラ豪雨もたくさん発生しました。

異常気象と地球温暖化問題

しかし、気象庁はこの異常気象の理由を「例年とは異なる気圧配置」という説明で済ませてしまっており、なぜ「例年とは異なる気圧配置になってしまったのか?」という真因にまでは言及しておりません。おそらく、真因を言及できるまでの根拠には行き着くことができないからだと推測されます。ただし、定量的に言えることは「地球温暖化」が進行しており、平均気温が上昇していることは間違いない事実です。
多摩川 花火大会 豪雨により中止 8月19日

地球温暖化への対策は複数ありますが、今回のコラムでは「自動車が排出する二酸化炭素(CO2)削減」に向けて、全世界の自動車メーカーが協力して取り組んでいることに注目してみたいと思います。

法的規制による自動車開発の縛り

イギリスやフランスは「2040年を目標にガソリン車やディーゼル車の販売を禁止」という方針を打ち出しました。イメージ的には環境に良さそうではありますが、この動きは果たして現実となるのでしょうか?ヨーロッパ全体で動くのであれば、できるとは思いますが、現時点ではハードルは高い気がします。しかし、あと20年以上あるわけですから、おそらく電気自動車に関する画期的な技術進歩によって、可能になっているかもしれません。
中国政府も「一定の割合を電気自動車にする」ということをメーカーに義務づける規制の導入を計画しています。またアメリカ合衆国のカリフォルニア州では今年(2017年)秋から「ハイブリッド車をエコカーの対象から外す」ことを決定しました。すなわち、秋以降はたとえプリウスに乗っていてもフリーウェイで「カープール専用レーン」をドライバー一人だけで走行すると違反になってしまうかもしれませんね(詳細は、未定ですが・・・)。
中国の自動車排気ガスによる大気汚染

さて、日本政府はこの世界的な動きをどう見ているのでしょうか?「10年ひと昔」と言われた時代はとうに過ぎ、今や「1年ひと昔」と言われるくらい、市場環境や技術革新は凄いスピードで我々の生活に変化をもたらし、1年先がどうなっているのか予測できない時代になっています。

製品の「ライフサイクル環境負荷」の低減

日本ではすでに「ごみの分別回収」や「冷暖房の設定温度」を意識するなど環境へ配慮する行動が自主的に行われています。 クルマに関しても「ハイブリッド車」に代表されるように、できるだけ燃費が良いクルマを選び、CO2の排出量が少ないクルマを選ぶ消費行動が多く見られるようになりました。

しかし、「環境問題の改善」で考えなければならない重要なことは「製品のライフサイクル環境負荷」という概念です。すなわち、製品が「原材料から部品が製造され、組み立てられ、使用され、廃棄されるまで」生まれてから死に至るまでの間に環境に悪影響を及ぼす総合量(原油使用料、電気使用量、材料使用量、CO2排出量など)が重要であるということを忘れてはなりません。この観点から考えると、駆動源を2種類常備(ガソリンエンジンとモーター、大容量バッテリー)しているハイブリッド車は、既存の同セグメントのガソリン車に比較して、部品点数も多く、組み立て時間も長く、かつ重量も重く、大容量バッテリーという厄介な部品の廃棄のことを考えると「ライフサイクル環境負荷は高い=環境に優しくない」と言わざるを得ない皮肉な結果となっていることは、一般には知られていないことです。 筆者がIT機器製造会社で商品開発・設計をしていたとき、まさしく「量産レビュー」時点で、「ライフサイクル環境負荷値の改善」を厳しく品質環境部門にチェックされたことは言うまでもありません。

次回「第2回コラム」では、「若者のクルマ離れと自動車業界動向」に関して、お話しさせていただきたいと思っています。