【第6回】次世代リーダー育成の取り組み例

本コラムでは、本学の調査結果を読み解きながら、⽇本企業における、「次世代リーダーの選抜型育成」に関する現状を概観してきました。
最終回の今回は次世代リーダーの選抜型育成の取り組み例をご紹介したいと思います。

企業の競争⼒や成⻑⼒を左右する重要課題である「次世代リーダー育成」

今回の調査結果では、次世代リーダーを確保できていない企業が8割弱に達しており、多くの⽇本企業で、将来の組織や事業を牽引する⼈材である「次世代リーダー」が不⾜していることが明らかになりました。
事業機会があってもそれを活かすことができる⼈材が不⾜していては、その機会を捉えることはできません。将来にわたって⽣き残り、成⻑を遂げていくためには、組織の将来を担う次世代リーダーの育成・確保は、⽇本企業の将来の競争⼒や成⻑⼒を左右する喫緊の課題といえるでしょう。

では、どのように取り組むべきなのでしょうか。最終回では具体的な取り組み⽅をご紹介してまいります。

発掘・育成システムを設計する

次世代リーダー育成の効果性・効率性を⾼めるためには、⾃社の目的を踏まえて、発掘・育成システムをあらかじめ設計していく必要があります。
まず重要になるのは、「何のために」「どのようなリーダーを」「いつまでに」「どの程度」育成する必要があるのかを明確にすることです。

図1は考慮すべき要件と育成システムの設計の流れを整理したものです。まず、事業特性やトップの意向、組織の現状などを踏まえながら、求められる⼈材像を定義し、育成⽅針や仕組みを設計していく必要があります。
調査では⼈材像が定義・共有されていない企業が多くを占めましたが、設計の段階でこうした点を明確にしておくことで選抜の妥当性や育成の効果性を⾼めることにつながります。

また、多階層で実施する場合は、全体システムのみならず、各階層における目的を個別に設定し、それぞれのゴールを明確にした上で、選抜の基準や育成内容・⼿段、教育後の配置などの個別施策を設計し、各階層の取り組みを束ねた、全体システムとしての⼀貫性や整合性を担保していく必要があります。加えて、トップマネジメントやライン部門などのステークホルダーと認識をすりあわせ、理解と協⼒を獲得しながら企画・実施の体制を整えていくことも求められます。
 

経営⼈材育成の取り組み例

図2は経営⼈材の育成を目的とした取り組み例です。求める⼈材像を前提に、経営⼈材に求められる能⼒を踏まえて、知⼒・技⼒・⼈⼒の3つの観点から発掘・育成システムを設計しています。
まず、発掘段階では、ラインの評価のみに頼らないよう、多様な⼿段を組み合わせて実施します。

第1段階としては、特性診断や知識テスト、論⽂等のツールを組み合わせて、適性のない⼈材を取り除く、「ネガティブセレクション」を実施して、対象者をある程度絞りこみます。その上で、研修や⾯談等の場⾯を通じた「ポジティブセレクション」によって、さらに育成対象者を絞り込んでいきます。
対象者の⺟数が多い場合は、コスト⾯等も踏まえて多くの⼈材に実施可能な⽅法を選択していく必要があります。前述したとおり、こうした選抜の際には、⾃社の求める⼈材像と、それを踏まえた選抜基準がベースとなります。

育成段階では、「知⼒」については経営管理知識を効率的に習得するために通信研修とケースメソッドを組み合わせて展開し、実践知を⾝につけていきます。
また、「⼈⼒」については、課題図書の読み込みと対話を通じて、リーダーとしてのものの⾒⽅を養うとともに、将来の経営を担う⼈材として、⾃らの志を練り上げていきます。
「技⼒」については、「知⼒」、「⼈⼒」の内容を適⽤しながら、将来経営を担う⼈材の候補者として、事業のアイデアを考え、それを実際の仕組みとして構築していくプロセスを体得していきます。

さらに、1年程度のOff-JTの終了後、対象者の経験や能⼒に応じて、より成⻑を促すための職務にアサインした上で、そのプロセスにおいて効果的な学びが⽣じるよう、⼒量を評価しながら、個別のコーチングも組み込んでいます。
 
取り組みの⼀例をご紹介しましたが、⼤切なことは「他社がどうやっているか」ではなく、冒頭に述べたとおり、「何のために」「どのようなリーダーを」「いつまでに」「どの程度」育成する必要があるのかを明確にした上で、⾃社が求める⼈材を効果的・効率的に育成するための仕組みをしっかりと設計・運⽤することです。
もちろん、最初から完璧な形は難しい場合も多くあります。また、周囲の状況も変化しますので、常に妥当性や効果性を検証しながら⾒直していくことも求められます。

次世代リーダーは促成栽培できるものではありません。また、短期間のOff-JTだけで育成することはできません。⾃社の持続的な成⻑・発展のために将来を⾒据えて、腰を据えた、継続的な取り組みが不可⽋です。

本コラムは今回で終了となります。お読みいただきましてありがとうございました。少しでもみなさまの取り組みの参考になれば幸いです。