【第3回】次世代リーダー育成の予算と内容

前回は、次世代リーダーの選抜型育成の位置づけや対象者に対する将来の期待役割を確認し、企業規模によって取り組みの目的に違いが⽣じている可能性があることを指摘しました。
第3回では、次世代リーダーの育成の予算・期間・教育内容について、⾒ていきたいと思います。

重点課題に対する予算は増加傾向

まず予算について⾒てみましょう。
図1は、次世代リーダーの選抜型育成に関する、年間予算(※)をたずねた結果です。最も多かったのは「3000万円超」(25.5%)の企業で約1/4を占め、次いで、「500万円以下」(24.5%)、「500万円超1000万円以下」(20.59%)が続きました。平均は2,727万円でした。

2006・2008年度の調査結果と⽐較すると、「500万円以下」の企業が減少する⼀⽅、3,000万円超とする企業が増加しており、選抜型教育に対する全体の投資額が増加傾向にあります。課題の重要度と合わせて考えると、次世代リーダーの候補者を⼈材育成の重点的な投資対象として、⼈材開発関連の予算を傾斜配分している企業が増えているのではないかと推察されます。

※ 社内外での研修・留学等の費⽤。⼈件費等の固定費を除く
 

1年未満の実施が多いが、⻑期間腰を据えて取り組む企業もあり

次に、教育期間について⾒てみましょう。図3は、選抜型育成における対象者の育成期間についてたずねた結果です。
「6ヶ⽉~1年未満」が4割弱(38.3%)で最も多く、次いで「3~6ヶ⽉未満」(20.0%)、「1~3年未満」(17.5%)でした。1年未満が7割強を占めており、年度内に完結する形での実施が主流である様⼦がうかがえます。

しかし、その⼀⽅で、実施期間が1年を超える企業も2割強あり、前回調査に⽐べると増加しています。必ずしも年度という枠にとらわれず、腰を据えた育成に取り組んでいる企業が⼀定数存在していることがわかります。
 
次世代リーダー育成では、短期間のOff-JTだけで、その本来の目的を果たすことは困難です。実際に、我々が関わらせていただいている企業でも、5〜10年先を⾒据え、同⼀の対象者に対して複数年の期間をかけて、育成に取り組んでいる企業があります。
こうした取り組みは、次の経営を担う⼈材を育てるためには、単発の教育に終わらない、腰を据えた取り組みが必要だとの強い想いにもとづいており、トップマネジメントの強い問題意識とバックアップのもとで成り⽴つものです。
どこまで本気で取り組むか、それぞれの企業の本気度が期間に現れる側⾯もあるといえるでしょう。

教育内容の柱は「経営管理知識」、「リーダーシップ」、「アクションラーニング」で⼤きな変化なし

最後は教育内容です。図4は、選抜型育成における教育内容・⼿段についてたずねた結果です。

最も多く実施されているのは「リーダーシップ研修」(76.0%)で、以下「経営管理知識の教育」(74.4%)、「⾃社事業戦略の策定・提⾔」(57.9%)、「⾃社組織課題の解決」(55.4%)となっています。

過去の調査結果と⽐較しても、上位を占めている「経営管理知識」、「リーダーシップ」、「アクションラーニング(「⾃社組織課題の解決」・「⾃社事業戦略の策定・提⾔」)」は若⼲の数値の変動はあるものの、依然として教育内容の中核を占めており、変化は⾒られません。
 
Off-JT以外についても⾒てみましょう。過去の調査結果と⽐較すると、「海外への赴任」の実施率がわずかに上昇しているのを除くと、経験を通じた成⻑を促すための配置(「異質な職能への配置転換」「上位の職務へのアサイン」「部門横断的なプロジェクトへのアサイン」)の実施⽐率が⼀貫して低下しています。
この結果から⾒る限り、研修以外の⼿段としてストレッチする経験を与える取り組みはあまり広がっていないようです。
こうした結果からは、次世代リーダーの育成が⼀定期間のOff-JTのみに終わってしまい、対象者のその後の成⻑プロセスを⽀援できていない企業が多いのではないかと推察されます。
実際に状況をお聴きすると、「ラインの抵抗もあってなかなか配置は難しい」、「育成に適したポストが不⾜している」などといった話をよくうかがいます。次世代リーダーの育成には良質な経験とそこからの学びが重要になりますが、今⽇の厳しい環境の中で、経験を積ませながら育てていくことの難しさに直⾯しがちなのだと思います。
こうした状況を変える魔法の杖はありませんが、⼈事や⼈材開発部門が奮闘してもうまくいかないことが多いでしょう。トップマネジメントも含めて、目的を全社で共有した上で、中⻑期的な視点で育成を考える場や仕組みをつくることが重要になります。

では、このような「次世代リーダーの選抜型育成」は、誰を、どのように選び、どのように⾏われているのでしょうか。
次回は、次世代リーダーの選抜型育成の対象や選抜基準、選抜⽅法などについて検討していきます。