メンバーの介護離職を防ぐために ― 介護サービスの活⽤と管理職の役 割

家族の介護のために、働き盛りの世代が会社を辞めてしまう「介護離職」が社会問題となっています。介護離職は、当⼈に経済的・精神的な打撃を与えるだけではなく、経験を積んだベテラン従業員を失うという意味で、組織にとっても⼤きな損失です。

「介護離職を⾷い⽌めるには、トップの⽅針もさることながら、現場の管理職が意識を変えることが⼤事」と話すのは、⽥尻久美⼦⽒。株式会社カラーズ代表として介護事業に携わる傍ら、⼀般社団法⼈⼤⽥区⽀援ネットワークの理事として、仕事と介護の両⽴⽀援にも取り組んでいます。⾼齢化社会の進展と共に誰もが直⾯し得る介護の問題について、お話を伺いました。
株式会社カラーズ
代表取締役⼀般社団法⼈
⼤⽥区⽀援ネットワーク
理事⽥尻 久美⼦ ⽒

介護休業の「意味」を知る

⽥尻⽒は、「育児・介護休業法では、家族の介護を担う社員に通算93⽇の介護休業を与えるほか、⽉24時間以上の時間外労働をさせてはいけない、深夜残業をさせてはいけない、転勤にも配慮しなければならないといった数々の規定が設けられています。管理する側からすれば、仕事を任せにくいと感じることもあるかもしれません。しかし、それはあくまでも⼀時的なこと。上司が適切にサポートすれば、メンバーは会社を辞めることなく、⼤事な戦⼒として復帰してくれる可能性が⾼まります」と⾔います。

介護に携わるメンバーをうまくマネジメントするための第⼀歩は、介護保険の仕組みを知ることです。介護保険とは、⾼齢者本⼈や家族の⾁体的・経済的負担を補う目的でつくられた社会保険制度。市区町村の窓⼝に申請して要介護/要⽀援の認定を受けると、ホームヘルパーや介護施設といった公的な介護サービスを利⽤できるようになります。

「仕事と介護を両⽴するには、こうした介護サービスの活⽤が不可⽋です。時折、介護を他⼈任せにすることに罪悪感を覚える⽅もいますが、⾃分たちの⼒だけで対応しようとすると、家族の関係そのものが崩壊しかねません。介護サービスに頼れる部分は頼り、家族は精神的なサポートに注⼒することが、介護を乗り切る⼀番の肝といえるでしょう」と⽥尻⽒。

そもそも介護休業が93⽇しか設定されていないのも、介護は⾃⼒で⾏うものではないと考えられているから。育児休業が⾃分で育児を⾏う期間であるのに対して、介護休業は「介護に関する⻑期的⽅針を決め、仕事と介護を両⽴させる準備を⾏うための期間」という位置づけなのです。
「つまり介護休業中に最優先で⾏うべきは、市区町村に申請して要介護認定を受け、介護⽀援専門員(ケアマネージャー)の⼒を借りて介護の段取りを決めること。そうすれば、早期の職場復帰も可能になります」と⽥尻⽒。
事実、介護休業中の⾏動に関するアンケート調査の結果でも、「⾃分が直接介護を⾏っていた」と答えた⼈の半数以上が介護離職に⾄っているのに対し、「⼊退院の⼿続きや介護サービスの利⽤⼿続きを⾏っていた」という⼈の多くが、仕事を継続できています。

「ですから管理職の⽅は、メンバーが介護休業を申請しやすい雰囲気をつくると同時に、介護サービスを積極的に活⽤するよう助⾔してあげてください。介護休業を取りやすい風⼟を醸成するには、介護経験のある社員が集まっておしゃべりや情報交換を⾏う『社内介護カフェ』のようなコミュニティの設置も有効です」。

残業削減など、働き⽅の⾒直しも必要

恒常的な残業や有給休暇の取りにくさも、介護離職を招く要因となっています。ある調査によると、週半分~恒常的に残業がある⼈の7割以上が、(現状のまま介護に直⾯したら、仕事は)「続けられないと思う」と回答。⽥尻⽒も「介護離職を防ぐうえで、働き⽅改⾰は避けては通れない道。まずは業務の配分や情報共有の⽅法の⾒直しなど、現場でできることから着⼿してほしい」と訴えます。

このように、仕事と介護の両⽴には多くの課題がありますが、介護は誰もが必ず直⾯する課題。
上司としてだけではなく、⾃分⾃⾝が当事者になったときのためにも、介護への理解を深め、仕事と介護を両⽴しやすい職場づくりを推進することが重要です。