海外赴任先での財務管理の悩ましさと対策(前編)

このコラムでは海外赴任した場合のお金の管理に関するお話をしたいと思います。

実際にあった不正の例

「ある顧客への売上代金が、期限を過ぎても回収されていない。不良債権になるのかと思いきや、実は架空売上だった。」
「現地の購買担当マネジャーが、仕入先と共謀して市価より高い金額で取引し、購買担当者が仕入先から個人的に謝礼を受け取っていた(いわゆるキックバック)。」
こうした事柄以外にも、「出張経費として仮払いしたお金がいつまで経っても精算されない。」
「私的に使われたお金の会計処理が不明になっている。」といったこともあります。
これらは架空の話ではなく、実際にあった不正です。海外赴任者の仕事は、一般に日本国内よりも責任範囲が広くなり、現地のお金の管理も担当することになります。
上述の話は日本国内でも、もちろん起こり得ることですが、海外では発生する確率が高くなると考えるべきです。

これらは、特殊なことではなく、海外赴任すれば誰もが遭遇し得ることなのです。

なぜお金に関するトラブルが起こりやすいのか

では、なぜ、海外では上述のような不正が起こりやすいのでしょうか。ここでは2点指摘しておきます。

一つ目は性善説によるチェックシステムの不備です。
代表的なマネジメントの定義にGetting things done through other people.というものがあります。意訳すれば「任せて、任せっ放しにせず、成果を出す」という意味ですが、先のキックバックは「任せて、任せっ放しにした」例と言えます。
日本では最近になって内部統制の重要性が叫ばれていますが、筆者が外資系企業および外資系監査法人に勤務していた80年代、米国他海外では内部統制(Internal Control)は当たり前の仕組みでした。
当時の筆者にとっては、人間を性悪説でみる発想に、戸惑いを覚えたものです。

二つ目は財務知識の不足によるチェックの甘さです。
多くの人は、数字面について、売上と利益に集約される業績に関しては意識が高いものの、お金の面は経理担当者任せになりがちです。
そもそも財務知識が不足しているために、経理的な資料を正しく理解できず、チェックが甘くなる傾向があります。英文資料だとその傾向がさらに強くなります。

お金に関するトラブルを発生させないために

公式な会計監査は監査法人が行いますが、監査法人はあくまでも第三者の立場で財務諸表の妥当性をチェックすることが役割で、根本的な解決を提供してくれるわけではありません。 日本でもグローバル化対応が必須となっている昨今、海外勤務が特別なことでなくなっており、より多くの人が海外赴任候補者となっています。こうしたトラブルはいつでも、自分の身の上にふりかかり得ることで、他人事では済ませられない話です。 このコラムを読んで、海外赴任を希望している人、あるいは候補者の人は不安が増したのではないでしょうか。でも過剰に心配しないでください。赴任前に対策を講じることができます。 赴任前の対策として2点あげます。 一つは、ご自身のマインドを性善説から性悪説へシフトすることです。人間に対する見方は性善説でありたいと願う筆者からすれば心苦しいところですが、仕事をする上で、管理者としての責務と割り切ることも必要です。この点は特段の知識がいるわけではなく意識を変えるだけのことです。 もう一つは実務に活かせる財務知識を習得することです。他の準備で忙しいのに財務の勉強なんて負担が重過ぎると思う人が多いかもしれませんが、重要なポイントを押さえた良い学習方法であれば短期間に習得可能です。 今回はここまでです。次回のコラム(後編)では具体的に何をどのように学んでおくべきかをお伝えします。