企業の「戦略的」CSR その2

前回、市民社会側から企業活動に対するCSRの視点として、「エシカル・コンシューマー」誌による格付けを紹介しました。
これに対して、企業サイドからCSRの取り組みを主導しているのは、ビジネス・イン・ザ・コミュニティ(Business in the Community:BITC)です。BITCは、1982年に設立された民間非営利団体(チャリティ)で、800以上の加盟企業・団体を有しています。

公正な社会と持続可能な未来の創造を掲げ、企業と社会との連携に取り組んでいます。
BITCのアプローチの特徴のひとつに、個々の企業が「責任あるビジネス(responsible business)」として自覚し実践するための支援を行うことが挙げられます。
そのツールの中心となるのが企業責任指標(Corporate Responsibility Index: CR Index)です。CR Indexでは、企業戦略(Corporate Strategy)、業務に対する企業責任の統合(Integration)、コミュニティ、環境、市場、職場におけるリスクと機会のマネジメント(Management)、環境と社会に対する成果とインパクト(Performance and Impact)の順に、企業はその取り組みを自己評価します。
この取り組みを通して、企業責任における取り組みの課題の発見、他社との比較、自社の経年変化の実態把握、そして役員を含めた社員の意識向上が期待されています。

2015年度のCR Indexの各参加企業の取り組みの全体像が、まとめられています。
その中からいくつか抜粋して、取り上げてみましょう。
  • 99%の企業の取締役会で、日常的に企業責任について話し合われている。
  • 75%企業で、従業員の育成戦略・計画に企業責任が含まれている。
  • 52%の企業で、上級管理職の報酬が企業責任のパフォーマンスと連動している。
  • 85%の企業で、従業員の給与が相対的貧困にならないよう確認している。
  • 54%の企業で、供給業者の従業員の給与水準を確認している。
  • 82%の企業で、投資案件の環境・社会面の影響を考慮している。
  • 85%の企業で、企業責任の経済的価値を計算している。
  • 82%の企業で、投資案件の環境・社会面の影響を考慮している。
  • 74%の企業で、供給業者が持続可能な視点に取り組むことを奨励している。
  • 89%の企業で、顧客が製品をより継続して利用できるよう支援している。

いかがでしょうか。自社だけではなく、サプライチェーン全体を念頭にした取り組みがなされているのが特徴といえるのではないでしょうか。 このCR Indexでは、従業員の給与や投資案件、供給業者など広範な利害関係者との関係から、公正で持続可能な社会に対する企業の責任ある行動を、戦略的・計画的に促すツールとなっていることがわかります。
また、2015年度のCR Index参加企業は一覧として公開されており、いくつかの日系企業の現地子会社も参加しています。

このようにイギリスでは、消費者市民社会の進展と呼応するように、企業での戦略的なCSRの取り組みも進んでいます。

※参考文献
 ・「A Beginner’s Guide to Ethical Consumer」
 ・「CR Index Report 2015: Insight Report」
 ・「CR Index 2015: Company Listing」