エシカル消費からみた消費者の変化

「エシカル消費」という言葉をご存知でしょうか。
“Ethical Consumerism”の日本語訳で、「倫理的消費」とも言われます。
日本では東日本大震災の後、被災地支援だけではなく、環境問題やエネルギー問題、あるいはコミュニティの形成などへの関心の高まりが、消費行動にも影響を与えました。
また、最近では、消費者基本計画の閣議決定を受けて、2015年5月には消費者庁に「倫理的消費」調査研究会が発足しました。この研究会では倫理的消費を「人や社会・環境に配慮した消費行動」としています。
倫理的消費が浸透することにより、「消費者が主役となって選択・行動できる社会の形成」が期待されており、倫理的消費を通して消費者と企業、社会と企業との新しい関係が模索されています。

今回は、日本でも関心が高まりつつある倫理的消費について、その発祥地ともいえるイギリスでの取り組みを紹介したいと思います。

イギリスでは、非営利団体のエシカル・コンシューマー・リサーチ・アソシエーション(Ethical Consumer Research Association: ECRA)が1987年に設立され、1989年には雑誌「エシカル・コンシューマー(Ethical Consumer)」が発刊されました。
エシカル・コンシューマーの使命は「グローバル企業を、消費者による働きかけを通して、より持続的なものにする」ことであり 、その目指すものは「環境が尊重され、人権が適切に保護され、そして動物が残酷に搾取されない」社会とされています。
この使命を実現する手段としてエシカル・コンシューマーは、倫理的消費を推奨するための製品ガイドを提供するとともに、倫理的ではない企業の製品・サービスをボイコットするキャンペーンも実施しています。

倫理的消費者に求められるのは、「消費」という行為の再検討です。消費を通して私たちは、自分たちの生活の質を向上させたり、時には自分自身の社会的地位や立場を明確にしたりしています。
これに対してエシカル・コンシューマーは、お金を使うことは消費による意思表示である、と考えます。
例えば、劣悪な労働環境の下で生産された安価な衣類を購入することは労働者への搾取を容認することであり、日常生活に欠かせないコーヒーや紅茶でも、フェアトレードやオーガニックを選ぶことにより、持続的な発展や環境保全を支持することであるのです。
倫理的消費者とは、自分の消費行為が与える影響力を認識した消費者と言えるでしょう。
エシカル・コンシューマーが1999年からまとめている「エシカル・コンシューマー・マーケット・リポート(Ethical Consumer Markets Report)」によると、2013年には、イギリスにおける倫理的消費の価値は322億ポンドあまり、日本円に換算すると(1ポンド=180円)およそ5兆8千億円となります。
これは、前年度比9%の増加であり、同時期のインフレ率(2.4%)や経済成長率(1.9%)と比較しても、倫理的消費の伸び率が際立っていることが伺えます。
また同リポートでは、では、イギリス人の19%が倫理的な理由により商品や店舗のボイコットを個人的に行っていることが示されています。この割合は、学生になると33%になります。また、ソーシャルメディアを通じた調査の方が、同様に高くなる傾向があることから、特に若者がソーシャルメディアを通じて倫理的消費にかかわる影響を受けていることがうかがえます。
前回のコラムで紹介した2013年のバングラデシュでの縫製工場ビルの倒壊事故を受けて実施された意識調査では、およそ8割のイギリス人が、ファッションブランドにおける労働環境の不透明さを指摘しています。
一方で、多くのイギリス人(74%)が、労働環境の安全性と賃金の公正さが保証されるならばファッションに対して5%余分に支払うことに賛同する、と回答 しています 。倫理的消費は、企業から見れば、その対応を誤るとボイコットなど負の影響を受けることになりますが、適切な対応により新たな顧客の獲得にもつながること を示唆しているのではないでしょうか。
イギリスでは、自身の消費行動の影響力を自覚した倫理的消費が広く浸透しつつあります。「消費者が主役となって選択・行動できる社会の形成」、つまり消費者市民社会が日本よりも顕在化しているイギリス社会にあって、企業が個人や社会との関係をどのように構築しようとしているのか、その取り組みを次回のコラムで紹介したいと思います。

・Ethical Consumer Mission Statementより
・Ethical Consumer Manifestoより
・Ethical Consumer Markets Report 2014より
・2013年9月16日ガーディアン紙電子版より(’Most Fashion Consumers “Would Pay More” For Ethical Clothing Production’, 16/09/2013, Guardian)