企業と社会との新しい関係について-欧米の経験から学ぶこと-2

今回は、グローバル化した企業のサプライチェーンにおけるリスクが顕在化した事例を2つ紹介しましょう。
まずは、1990年代後半に起こったスポーツ用品メーカーのいわゆる「スウェットショップ(sweatshop)」の問題が挙げられます。
このメーカーが生産を委託している途上国の工場では児童労働、長時間労働、低賃金労働といったさまざまな問題がNGO(Not-for-Profit Organization: 非営利活動組織)によって報告されました。このような工場と取引をしているスポーツ用品メーカーに対する世界的な批判が起こり、不買運動や訴訟にまで発展しました。
これを教訓としてこのメーカーは、他の企業や国際機関と協力して労働環境の調査と透明性の確保を目的としたNGOを設立し、現在では、CSRや持続可能な社会への貢献で高い評価を得るようになっています。
次に、2013年4月に起こった、バングラデシュの縫製工場ビルの倒壊事故は、記憶に新しい方も多いと思います。死者1,100名以上、負傷者2,500 名以上を出したこの大参事は、この縫製工場が主として欧米の大手小売り・アパレルメーカーに製品を提供していたという事実により、世界的な注目を集めました。
この事故を受けて、欧米の消費者たちは、自分たちが身に着けている製品の背景に、劣悪な労働環境で働くことを余儀なくされている途上国の労働者がいることに、あらためて気づかされる結果となりました。
この事故を受けて、バングラデシュにおける縫製工場の安全性を確保するための協定、「バングラデシュにおける火災予防および建設物の安全に関する協定 (Accord on Fire and Building Safety in Bangladesh)」が、法的な拘束力のある合意として制定されました。欧米の小売り・アパレルメーカーの他、日本からはファーストリテイリングがこの協定に署名しています。

スポーツ用品メーカーの事例では、ロンドンでも不買運動が起こりました。
私がロンドンで生活を始めたのは2001年でしたが、その時にもまだ、折に触れてこの話題が取り上げられていたことを覚えています。
一方、日本では、あからさまな不買運動は起こりませんでした。企業の社会的責任については、欧米と日本とでは消費者の受け止め方やその反応が異なることを、認識しなければなりません。