企業と社会との新しい関係について-欧米の経験から学ぶこと-1

企業活動のグローバル化に伴い、企業と社会との関係があらためて問われています。 企業のサプライチェーンが国境を越えて展開されている現在、企業はさまざまなステークホルダーと適切な関係を構築することが必要です。
そこで重要となるのは、企業における社会的責任への取り組みを単なるリスクへの対処としてではなく、新しい事業機会に対応する手段として捉えることです。

この背景には、消費者の変化があります。自分の購買活動が社会に与える結果を自覚した消費者や消費行動です。
ここでは、企業のCSR(Corporate Social Responsibility)の進展や環境、社会的課題に取り組むことを意識した消費活動である「エシカル消費」に注目し、グローバル化した企業における社会との新しい関係について考えたいと思います。

企業活動と社会との関係については、さまざまな基準の作成が進んでいます。
例えば、2000年7月に発足した国連グローバル・コンパクト(UNGC)は、人権・労働基準・環境・腐敗防止における10原則を企業が受け入れ遵守することを求めています。
また社会的責任(Social Responsibility:SR)の国際規格ともいうべきISO26000は2010年に発効され、日本でも経済産業省によって日本工業規格(JIS)化されています。 さらに、ISO26000でも謳われたサプライチェーンでの持続可能な調達・CSR調達の実践を支援するためのISO20400(持続可能な調達)の策定作業が進められています。
このような基準・規格の背景には、“企業(あるいは組織)は、社会的な影響を与える企業活動の意思決定に責任を持つ”という考え方があります。
企業は、グローバルに展開されるサプライチェーンの中でその影響力を適切に行使し、「人間の顔をしたグローバリゼーション※」(コフィー・アナン前国連事務総長)に積極的に寄与することが求められているのです。
その中でも、特に力を入れているのが欧州連合(EU)です。
EUの内閣にあたる欧州委員会(European Commission)は、2011年11月「CSRに関する新戦略」を発表しました。
この新戦略では、CSRは「企業の社会に対する影響への責任」と簡潔に定義され、企業がこの責任を果たすためになすべきことが示されています。
企業はステークホルダーとともに、その企業活動と中核戦略において、社会(social)、環境(environmental)、倫理(ethical)、人権(human rights)、および消費者(consumer)にかかわる課題を統合することが求められています。
このCSRの目的は、(1)株主価値とそれ以外の広範なステークホルダー、つまり社会全体との間の共通価値の創造(CSV: Creating Shared Value)を最大化させること、(2)企業が社会に与えると考えられる負の影響を特定し、防止あるいは軽減すること、の2つです。 後者が、企業が社会にもたらすリスクを最小限にすることであるのに対し、前者は、企業が社会に対してもたらすことのできる潜在的な正の影響を認識し、株主価値とともに社会的価値を最大化させることです。

この点は、近頃策定された欧州CSR戦略2020にも、鮮明に表されています。
そこでは、CSRをリスクの最小化、法令遵守および透明性の確保という一般的な理解を超えて、企業がCSRを通じ、製品やサービスを革新しその機会を活用すること、が示されています。
欧州連合が企業のCSRを重視する背景として、企業によるCSRの促進が雇用の創出、従業員の技能開発、あるいは不平等の是正など、欧州連合が抱えるさまざまな政策課題の解決に寄与している、という認識があります。

次回は、企業活動でのリスクが顕在化した事例を紹介します。

※1999年世界経済フォーラム(ダボス会議)の席上で、当時のコフィー・アナン国連事務総長が、国連グローバルコンパクト(UNGC)を提唱したしたときに用いられた文言。
企業や団体に対して、グローバル化した市場においては短期的な利益だけを求めるのではなく、国連が対処する貧困や人権、環境などのさまざまな課題に一緒に取り組むよう求めた。