中国におけるインドの教育訓練機構の量産化モデル ―「APTECH」と「北大青鳥」―

インドの教育訓練機構は早くも1980年代早期からIT教育訓練に力を入れるようになり、そのIT教育訓練の量産化モデルからグローバルビジネス展開の特徴が見出される。

20世紀の末から21世紀の初めにかけて、大容量データを高速でやり取りすることができる通信網の整備が進み、インドIT産業のリーディングシティ・バンガロールに欧米からのIT関連アウトソーシング企業が集積するようになり、IT-BPO ビジネスを中心には急激な成長を成し遂げてきた。

インドのIT-BPO 輸出は、2004年から2012年までの8 年間で6 倍以上に増加しており、2011年にIT-BPO輸出はすでにGDPの約7.1%を占め、約590億米ドルが稼ぎ出されて、雇用規模も300万人にのぼり、世界シェアトップを誇ってきた。(※1)
近年、インド国内の進学率が低いため、輸出向けIT-BPO分野の雇用は300万人規模前後に停滞しており、国内IT教育訓練市場規模の伸びは限られているにも関わらず、その教育訓練機構の世界中での成長の勢いは留まらない。
例えば、インド教育訓練機構の大手、NIIT(National Institute of Information Technologies)は世界約40カ国に5,000カ所 (※2)、APTECHは50数か国に約3000か所にトレーニング・センターを開設しており、両社ともに400万~500万人を超える学生を出してきた。
成功の裏にはそのグローバルフランチャイズビジネスモデルが功を奏し、特に中国における「北大青鳥・APTECH」教育訓練機構は目を引いた所がある。

「北大青鳥・APTECH」の全称は「北京阿博泰克北大青鳥信息技術有限公司(略称:「北大青鳥・APTECH」)」という。2000年1月にインド「APTECH」教育訓練機構と北京大学傘下の企業グループ「北京北大青鳥有限責任公司」との合資会社として発足、 (※3)
即ち「APTECH」社の在中国のマスターフランチャイズである。

現在教職員数は約1万人を有し、共に双方の母会社の規模を超えている。中国の各地には、そのトレーニングセンタがすでに120数箇所に広がり、協力指定校は約600箇所、90の重点都市に分布している。

市場の規模は年ごとに増えており、2002年に2.1億元、約8.3%,2003年に2.5億元、約8.7%,2004年に5億元、約14.8%,2005年に7.8億元、約18.8%,現在中国のITトレーニング市場に占める割合は約39.8%に達している。(※4)

卒業した研修生は約50万人、協定校へ就業力資格カリキュラム提供の卒業生は約20万人を超えている。
現在、「APTECH」と「北大青鳥」は共同で研究開発機構の「職業教育研究院」を設立しており、いち早く現地化トレーニングの教材、例えば、IT業界をほぼ網羅した中国IT業界初の業界マップ、約500万字の『「北大青鳥・APTECH標準化手冊』)を出版した。

またACCP(ソフトウェアエンジニアトレーニング)、BENET(ネットエンジニア・トレーニング)、BTEST(ソフトウェアテスタートレーニング)、BEWEB、JB北極星などの教育訓練の現地化教材も多数開発した。
今や、「北大青鳥・APTECH」は中国におけるもっともブランド名の高い教育訓練機構まで成長してきた。

(※1)NASSCOM Strategic Review 2012.
(※2)「急速に台頭するインドの教育訓練機構」
(※3)北大青鳥グループ( BEIDA JADE BIRD GROUP)は中国名門の北京大学傘下の企業グループである。上場企業の5社を含め数十社ある。IT、教育訓練、メディア、不動産、IT、旅行社などの分野に及んでおり、社員数は約7千人、総資産は1,500億円を超える。
(※4)『2001-2002年 中国信息産業与市場研究年度報告』(賽迪顧問、2003年)、『2003-2004年 中国信息産業与市場研究年度報告』(賽迪顧問、2004年)、『2005-2006年 中国信息産業研究年度報告』(賽迪顧問、2006年)、『2007-2008年年中国信息产业研究年度报告』(賽迪顧問、2008年)、『2009-2010年 中国信息産業研究年度総報告』(賽迪顧問、2010年)

プロフィール

周 偉嘉(シュウ イカ) 学校法人産業能率大学 経営学部 教授 グローバルマネジメント研究所 研究員

【学歴/職務経歴】
1983年華東師範大学卒業、1989年復旦大学大学院法学修士、1996年慶應義塾大学法学博士。 華東師範大学・上海社会科学院ソ連東欧研究所(現在Centre for Russian Studies, East China Normal UniversityとInstitute of Eurasian Studiesという二つの研究機構として独立)の常勤研究員を歴任。また、帝京大学、日興証券等を経て、現職。
平成1997年度文部省科学研究費「研究公開促進費」による専門書を出版。 1999年に文部科学研究費Bの研究プロジェクトによる共著出版。アジア・中国の歴史と政治経済、また言語文化の研究を中心に論文と著書を多数発表。

【研修活動領域】
・異文化対応マネジメント研修
・アジア地域の政治経済と社会文化
・中国の政治経済と社会文化
・日本語との比較から勉強する中国語 他

【資格】
・法学博士

【著作物】
・『行政学導論』(1988年、上海三聯書店)
・『中国革命と第三党』(1998年、慶應義塾大学出版会)
・『戦後中国国民政府史の研究)』(2001年、中央大学出版会)
・『アジアの政治経済と地域発展』(2012年、五弦舎) ・『日本語との比較から勉強する中国語』(2012年、五弦舎)
・コラム『急速に台頭するインドの教育訓練機構』

【所属学会】
・慶應法学会