グローバル人材育成のポイント~データから読み取る異文化適応条件~【第1回】

昨今では、多くの日本人が海外に渡り、仕事をしています。もはや海外で仕事をすることは特別なことではなくなってきています。

そこで、当然ですが海外に赴任して仕事がうまくいって成果を出せた人と出せなかった人の、2者が存在することは容易に想像できます。
それはさまざまな要因によって分かれていると思われますが、成果を出せた人が共通した特性を持っているとしたら、それが今後の人材育成のポイントになるはずです。そのため、当研究所では、海外赴任経験者を対象としたインターネット調査(2014年10月)を行いました。

この調査結果は「グローバル人材育成のポイント ~グローバル人材に関する調査速報~ 」にまとめております。
このコラムでは、調査結果のデータから読み取れる異文化適応の条件を2回に渡りお伝えします。
まず第1回は、調査結果の振り返り、そして第2回は、決定木(けっていぎ)という手法を使って、より細かく異文化環境下における仕事適応の条件をみていきます。

では早速、調査結果を振り返ってみましょう。

この調査では、図1のように、本人が持つ特性と赴任先での適応状態(その国や赴任先の組織、職場、人々が好きか、良好な人間関係を築けたか、仕事はうまくいったかなど)について尋ね、両者の関係を明らかにすることを試みました。

赴任者本人が持つ特性については、仕事場面における行動や意識など約100の質問にお答えいただき、因子分析(注1)という手法を用いて、資料1の15因子を導き出しました。

赴任先での適応状態についても、約30の質問にお答えいただきましたが、ここでは、赴任先で成果を出したかどうか、以下の5項目を合算した「仕事適応」について分析した結果をお伝えします。

「仕事適応」の5項目
赴任中に、赴任先で期待されていた役割を十分に果たした
赴任中に、赴任先で高い業績を上げた
赴任中に、赴任先で大きな仕事を成し遂げた
赴任中に、赴任先に対して十分な貢献を果たした
赴任中に、赴任先の業績を向上させた
この「仕事適応」と赴任者本人が持つ特性について因子分析を行った結果、抽出された15の特性因子との関係を探るため、重回帰分析(注2)を行いました。

その結果、「仕事適応」に関しては、「仕事への自信」が最も強く影響しており、次いで「異文化への関心」、「主張性」、「感受性」、「ストレス耐性」、「自文化への理解」という順番に関係していることが分かりました。
特性因子は15ありますが、統計的に意味がある関係と言えるのはこの6因子でした。

さらに端的な言い方をすれば、海外赴任の仕事で成果を上げたと自己認知している人は、仕事に自信を持ち、異文化への関心が高いということになります。
注1 因子分析とは、多くの質問項目の背後にある「因子」を推定するために用いられる多変量解析の一手法です。
この手法を理解するために簡単な例として「学力」を考えてみます。国語の得意な学生は、同時に英語や社会が得意なことが多く見られたとします。この場合、国語と英語と社会に影響を与えている「文化系能力」が想定できます。また、数学の得意な学生が同時に物理も得意だという傾向が見られれば、その背後に「理科系能力」を想定できます。このように物事の背後にあって影響を与えているものを「因子」と呼び、一つ一つの項目だけでは説明しきれない特徴や特性を把握するために使われる解析手法です。本調査では、海外赴任者に必要な特性を把握するために、「因子分析」を用いました。

注2 重回帰分析とは、複数の説明変数(本調査では特性因子)によってどの程度被説明変数(本調査では適応指標)が説明できるかをみるための手法です。一つの説明変数で一つの被説明変数を説明する場合は回帰分析もしくは単回帰分析と呼ばれます。
特性因子 内容
1 変化対応力 「その場の状況に応じて、とるべき行動を変えられるほうだ」、「何事も機応変に対応することができるほうだ」、「初めて直面する状況にも、うまく合わせることができるほうだ」など状況の変化に上手く対応できる度合い
2 異文化への関心 「色々な国の人のコミュニケーションをとりたいと思う」、「機会があれば、色々な国で生活してみたいと思う」、「外国の文化にすばらしさを感じることが多い」など外国や異文化に対する関心の高さの度合い
3 仕事への自信 「仕事に関する情報は人より多く持っていると思う」、「仕事関連の知識には自信がある」、「これまで仕事で高い成果を達成してきた」など仕事を通じて自信を培ってきた度合い
4 自己開示 「人に自分の話をするのが好きだ」、「様々な人に自分のことを知ってもらいたいと思う」、「自分の人となりを相手に知ってほしいと思う」など人に自分のことを知ってもらうとする度合い
5 達成意欲 「与えられた仕事は必ず最後までやりとげる」、「どんな仕事でも中途半端なことはしたくない」、「仕事はいつも全力投球でする」など仕事に対して全力で取り組み、やり遂げようとする度合い
6 対人リーダーシップ 「人をまとめることに自信がある」、「知らない人とでもすぐ打ち解けられる」、「人を説得するのが得意だ」など対人場面においてリーダーシップを発揮できる度合い
7 ストレス耐性 「プレッシャーには負けないほうだ」、「どんなにつらい状況でも、気持ちでは負けないほうだ」、「逆境を楽しめるほうだ」など精神的にタフでストレスに対する抵抗力の高さの度合い
8 感受性 「相手の表情の変化に敏感なほうだ」、「相手の言葉や話のトーンを気にかけるほうだ」、「人と話をしているとき、相手のしぐさや振る舞いに目がいくほうだ」など相手の感情を理解しようとする度合い
9 自己開発意欲 「将来のために努力していることがある」、「自分自身の向上のために努力していることがある」、「講演会や研修会にはプライベートでも参加している」など自分の能力を向上させるための努力をしている度合い
10 好奇心 「新しい情報を集めるのが好きだ」、「色々なことに興味を持っているほうだ」、「新しい製品やサービスが出ると試してみるほうだ」など様々な物事に興味関心を持っている度合い
11 経験からの開放性 「自分の成功体験を捨て去ることにためらいはない」、「自分のとらわれないほうだ」、「ゼロベースで物事を考えるほうだ」など自分の経験に執着せずに新しい物事を経験したり取り組んだりする度合い
12 やりがい感 「今の仕事にやりがいを感じている」、「今の仕事に満足している」、「仕事が自分を育ててくれていると実感している」など今の仕事にやりがいを感じ、満足している度合い
13 自文化への理解 「日本の伝統や文化を大切に継承していきたい」、「日本の伝統や文化を素晴らしいと思うことが多い」、「日本の文化や伝統について勉強している」など日本の伝統や文化を大切に思い、それらの知識を得ようとしている度合い
14 行動志向 「迷った時には行動してみる方だ」、「どんなことも、まずはやってみないと分からないと思う」、「多少の問題は無視しても決断する方だ」など何かを決断する際に行動してみることを重視する度合い
15 主張性 「自分の意見を主張するべき時は、きちんと主張するほうだ」、「周囲の人と意見が異なる時でも、正しいと思ったことは臆さず提案するほうだ」、「意見が対立したら、とことん話し合うほうだ」など自分の意見を臆することなく主張できる度合い