【事例紹介】急速に変わり⾏く環境と世界規模で戦う。真のグローバル⼈財を育成する グローリー。

はじめに

創業1918年。⽇本初の硬貨計数機の開発をはじめ、⾃動販売機や両替機など国産第⼀号の製品を数多く⽣み出し、リーディングカンパニーとして90年以上の歴史を持つ同社。
国内のみならずアメリカ、ドイツ、中国など世界各国での事業展開を進め、2012年にはイギリスのタラリス社を買収し、世界のトップブランドを目標に掲げる。

世界のマーケットを相⼿に、グローリーが求める⼈財とその育成のための教育体制について同社開発本部 開発企画部 教育・標準グループマネージャーの南⼭隆敏⽒にお答えいただいた。
グローリー株式会社 開発本部 開発企画 部 教育・標準グループマネージャー 南⼭ 隆敏 ⽒

開発企画部が⾏う研修の具体的な内容や流れはどのようなものでしょうか。またその研修によってめざす⼈財像を教えていただけますか?

南⼭⽒:グローリーは、これまで通貨処理機のパイオニアとして⾰新的な製品を開発してきました。

国内外の⾦融機関をはじめ、⾝近なところではスーパー等のレジつり銭機、病院での診療費⽀払機、選挙の投票⽤紙の分類機からアミューズメント関連機器まで、幅広い分野へ「認識・識別技術」と「メカトロ技術」の2つのコアテクノロジーを駆使した製品を送り出しています。
わたしがおります開発企画部の教育・標準グループという部署には、おもに2つの業務があり、1つは設計部門の⼈財育成、もう1つは「設計標準」を作り込むという業務です。多様化するニーズにマッチした製品を設計・開発・ブラッシュアップするために、当社では全社員のおよそ5分の1にあたる約700名が設計開発部門に属しています。

製品の設計というのは、その設計者によって⼿順やルールがまったく異なることがあります。
これまで暗黙知だった開発プロセスや成功例を、グローリーの製品として設計するための共通認識、共通ルールとし、できるだけドキュメント化することで、形式知化を図ることを目的としています。「設計標準」によって、より効率的・合理的・スピーディーに業務を進められますし、昨今の非常にタイトな開発スケジュールやコストダウンといった要求に対し、応えていくことをめざしています。

グローリーでは、創業100年を迎える2018年への事業展開の指針として「⻑期ビジョン2018」を策定し、現在は2012年4⽉からの3年間を計画期間とした「2014中期経営計画」の最終年度としての取り組みが進んでいます。セカンドステップとして2015年4⽉からの3年間に向けた「2017中期経営計画」の準備が始まっていますが、⼈財育成については継続して、時代とともに急速に変化する消費者ニーズを掘り起こし、海外での事業拡⼤の基盤をより堅固にするための「グローバル⼈財」の育成に⼒を⼊れていくことを掲げています。

先ほど申し上げましたとおり、わたしの部署では設計部門の⼈財育成を担当しています。
技術の向上がなければ新しい製品が出てきませんので、技術分野のスキルアップは技術者にとって⾔われるまでもなく重要なものです。
しかし、当社が求める「グローバル⼈財」は、専門的なスキルの向上、技術軸だけでなく、それを乗せるための開発者としてあるべき基本的なベース、いわば“⼈間軸”を併せ持った⼈財と考えており、体系的なトレーニングによってその育成強化に努めています。

設計部門の研修と⾔っても、他部署との情報の共有や関わり合いが必要になるかと思うのですが、どのような形で相互のフィードバックを図っているのでしょうか?

南⼭⽒:当社では階層別教育、職種別教育、⾃⼰啓発の3つの柱を基礎として教育制度を設けています。

⼈事部ではどの職種にも必要な社会⼈としての⼼構えやグローリーの社員としての⾃覚を持ってもらうこと、価値観・仕事観の認識を目的とした研修を⾏っています。

それに加えて各セクションでは専門性を⾼めるための研修を担当し、開発本部では、設計部門の新⼊社員研修にはじまり、⼊社10年目まで設計基礎⼒養成のための研修を⼈事部や知的財産部などと連携しながら進めるプログラムを組んでいます。 設計者はさらにメカ・エレキ・ソフトの3つの職種に分かれますが、当社の製品は、この3つの協働があって初めてできあがるものです。
新⼊社員研修ではまずそこを実感してもらうために、メカ・エレキ・ソフトの担当者で1つのグループになり、ライントレースカーを作ってもらいます。

⽩線をトレースしながら約4メートルのコースを2分以内に往復するもので、コースには坂もありますし、途中で荷物を持ち上げて所定の場所に置くというミッションもこなさなくてはなりません。与えられるのは39⽇間の期間と1万5千円の予算だけで、材料や設計⽅法は⾃由です。
学校で学んだ知識が実際の現場にどう活⽤できるのかということや、予算・⼯程管理の重要性、そしてメカ・エレキ・ソフトの3者がそれぞれ専門性を持ちつつもしっかりと連携をしなくてはものづくりが成り⽴たないことを実感する、非常に現場に近い実践的な研修です。

できあがった製品もさまざまで、軽量化を追求したもの、ローコストをめざしたものなど、個性あふれる作品が発表されます。⼀⾒、実際の製品とは異なるものを作るように⾒えますが、例えば、ラインを読むという技術は、グローリーの製品は⽋かせないセンサーを使います。
また軽量化を追求した場合は強度をどう確保するか、樹脂の加⼯⽅法をどうするかなど、実際の製品開発に関連のある作業をさせているのです。

新⼊社員研修以外でも、基本的なスキルアップセミナーやビジネスリーダー研修は産能⼤さんのお世話になっている部分ですが、義務教育期間となる⼊社1年目から3年目は階層別研修やメカ・エレキ・ソフトそれぞれ必要な知識を学ぶ職種別の研修を⽤意しています。
また、各部門で扱ったテーマをどのようにしてクリアにしたのかなどの情報を社内の技術発表会で共有しています。これまでは⼈によってかなり研修のタイミングや時間に差があったのですが、全員に機会を平等に与えるよう研修体系を⾒直し、最終的にはメカ・エレキは1000時間、ソフトは920時間くらいの研修を10年間で受けてもらうようにしました。

また年に4回、本社とグループ会社の教育に関係している部門がすべてが集まり、それぞれの研修内容や⼈財の情報交換をしています。開発と保守では研修内容が異なりますが、例えば、開発担当者への研修では、保守担当者を講師として呼んでいるものがあります。これは3年目のメカ設計者を対象にしている研修で、ひとつの製品をばらして組み⽴てるという内容です。
メカ設計者はそれぞれ割り当てられた部分の設計をすることが多く、製品のすべてを知っているとは限りません。むしろ保守担当者の⽅が製品をトータルで知っており、摩耗が起こる部位や交換が多い部品など、設計している側が知らないことを知識として持っています。
スリム化が進む製品について、実際に保守・点検の際にどのくらいのスペースが必要なのかといった実⽤的な設計側への要望などもそこで話されることがあります。

これだけ⼿厚い研修制度を研究開発部門全体で⾏うと、⼈財育成に係る費⽤は⾼額になるかと思います。産能マネジメントスクールをご利⽤いただくと姫路と東京間の時間的・費⽤的負荷もかかります。それだけ当スクールのセミナーに魅⼒を感じていただけているということでしょうか?

南⼭⽒:そうですね。例えば、ビジネスリーダー養成スクールへの派遣は、異業種交流ができる点に⼤きな魅⼒を感じています。

当社は90年以上の歴史がある中で、これまで管理職を選ぶにあたってやはり技術⼒を重視する傾向が強かったのですが、それだけでは⼈がなかなかついてきません。先ほども「グローバル⼈財」で重要だと申しました⼈間軸、この⼤切さをしっかりと意識し、持ちあわせている管理職を養成しなくてはならないと考えました。
外部のセミナーへ参加することで異業種の会社の課⻑や部⻑はどういう⽅なのか、どういう考えを持っているのかということをぜひ実感して、それをリーダーとなる⾃分⾃⾝へフィードバックをしてもらおうと思い、異業種交流ができる産能⼤さんのセミナーを選びました。
異業種交流によって、グローリーの常識は世間の非常識、あるいは逆にグローリーの非常識が世間の常識というような、⾃社内にいると⾒えないことに気づかされることが多くあります。また同世代の参加者と⽐較して⾃分の⽴ち位置やレベルを知ってもらう目的もあります。
⾃分がまだ⾜りないと感じるのであればその差を縮める努⼒を、反対に秀でていると感じたのであればその差を広げる努⼒をしてもらいたいと思います。

研修を受けた後は⾃分のめざすリーダー像や研修で学んだことを今後どう活⽤するかなどについてレポートを提出することを義務づけており、それを全統括部⻑ と部⻑に⾒てもらい、ビジネスリーダーとしての意識づけを図るとともに他部門の上⻑へのアピールチャンスを創出しています。

御社が求める「グローバル⼈財」と研修が内包するリベラルアーツの可能性には共通項を感じましたが、具体的にどのようなことが必要となるとお考えですか?

南⼭⽒:例えば、ロジカルシンキングやプレゼンテーションなどのビジネススキル、そして個々の専門的な技術⼒を磨くことは企業⼈として当然求められることですし、研修を通して⾝につけられるようにしています。
そして繰り返しになりますが、その前提としてヒューマンスキルという⼟台が基礎として、しっかりと根を張って⽀えていなくてはなりません。
しかし、これからの「グローバル⼈財」をめざすには、それだけでは不⼗分と⾔わざるを得ないとわたしは考えています。
その不⾜部分を補完するのがいわゆるリベラルアーツなのではないでしょうか。
スキルは前もって⽤意することができるものです。例を挙げますと、英語を話す状況があることを知っていれば、そのスキルは事前に準備することができます。しかし、実際のビジネスの場においては、外国⼈からどのタイミングで何を聞かれるか全くわかりません。
仕事に関係することだけではなく、⽇本の歴史や風⼟、⾳楽や⽂化などを急に尋ねられることもあるでしょうし、その不意打ちの質問に対して意識的に教養を⾝につけている⼈とそうでない⼈では当然ながらコミュニケーションに絶対的な差が出てきます。

「グローバル⼈財」とは何かと問われたならば、わたしはこういったリベラルアーツをコミュニケーションスキルとして持っている、バランスの取れた⼈財だと考えています。

上司と部下、メカとエレキなど⽴場が違う⼈たちが1つのチームとなり連携してものづくりをするということは、コミュニケーションを取り、互いを知らなくては始まりません。
しかしながら、若⼿もベテランも「何を話していいかわからない、何を話すべきか」と悩んでいる。でも答えはとても簡単なことなのです。雑談から始める。そのためにもさまざまな教養を⾝につけておくことは、これからの企業⼈、真の「グローバル⼈財」に不可⽋なことだと考えており、そのための教育も積極的に⽤意したいと思っています。

(2014年8⽉取材)