【事例紹介】フリュー株式会社における事業部主体によるスピード対応の⼈材育成
はじめに
本記事では、取締役モバイル事業部⻑の芝⼭貴史様に、事業部としての⼈材育成に関するお取り組みをお話し頂きました。
Q:貴社の事業展開やモバイル事業部について教えてください。
基本的に当社の事業の進め⽅は、企業やサービスをベンチマークしながら市場に⼊って⾏き、シェアを徐々に取っていく⽅法です。典型がプリントシール機で、参⼊時点では⼤⼿電機メーカーも含め数⼗社が競っていましたが、徐々に撤退していきました。そして現在残っている中では当社がシェア1位となっています。全社的には⼿堅い事業展開を進めています。
その中でモバイル事業は後発参⼊ではありません。事業環境、事業分野そのものが新しいため、従来の⼿法では通⽤しない部分があります。今後は、特にスマートフォンへの移⾏とソーシャルネットワークの台頭への対応が⼤きな2つの事業課題としてあります。このような環境変化の中で新たなサービスを創っていく⼈材の育成がポイントと考えています。
Q:貴社の⼈材育成に対する考え⽅はどのようなものでしょうか?
「習熟」という観点が重要視される事業で、新卒が定期的に⼊ってきて、段階を踏んで仕事を覚えていくという⽅法がマッチする事業体だと思います。
それに対してモバイル事業の場合、商品サイクルも事業全体のサイクルも速く、そのペースだけの教育では⾜りない部分が出てきます。
教育メニューとしては、いわゆるマネージャーやリーダーを育成するためのものだけではなく、例えばベーシックなロジカルシンキングのようなものも必要となります。それには社員の⼊社以前の経歴が関係してきます。
おそらく当社のモバイル事業部に⼊社してくる⽅の9割近くは中途採⽤です。さらにインターネットやエンターテインメント業界出⾝の⼈が多く、系統だった社員教育といったものを受けたことがない⽅が多いのです。そこで基本的な能⼒レベルを揃えるためにもベーシックな教育も必要となってくるのです。
私⾃⾝も⼀般的なステップで社会⼈にならなかったタイプです。いくつかの職を経てオムロンエンタテインメント時代の当社に⼊社し、その時に初めて研修を受けました。それは現在当社で⾏っている初級マネジメント研修にあたるものです。初めて研修を受けてみて、⾃分なりに学ぶところがあり、必要な時に必要なものを学べばきちんと⾝に付くということを痛感しました。
また教育を受ける機会があることは、社員のモチベーションを⾼めることにもつながります。特に開発のエンジニアは非常に学習意欲が⾼い⼈が多く、意欲的にセミナーを受講しています。もちろん産業能率⼤学の公開セミナーのほか、プログラミングなど専門的な研修に参加することもあります。いずれにしても1⼈あたり年間1つは好きなセミナーを受けていいという予算を事業部内で組んでいます。
セミナーの選択についてもある程度⾃由度を持たせています。⾃分の意思で「これを勉強したい」と思って学ばないと無駄だと思うからです。⾃分が成⻑したいという意欲があって、学習意欲がある⼈にはチャンスを与えるという考え⽅なので、必須ではなく、社員全員が受けている訳ではありません。
Q:貴社の⼈材育成の体系はどのようになっていますか?また、その中で公開セミナーを活⽤されているねらいを教えてください。
当社では企業理念というものに最も重きを置いており、それが⼈材育成体系の基盤となっています。そのため、企業理念の共有を図る取り組みにはかなり⼒を⼊れています。会社全体の仕組みとして社員合宿、対話会、社員旅⾏という3つの⼤きなものがあり、これらは研修的な要素ではなく、イベントの感覚で⾏っています。
また1~2か⽉に1度、部門をまたがる形でグループを作り、1~2時間の対話をしています。企業理念の共有を進めていくために、まずお互いを知るということに重点を置いています。社⻑も含めてマネジャーレベルのメンバーも各チームに分かれて参画し、⾃らの想いや考えをメンバーと語り合っています。
そして⼀般的な社員旅⾏も年に1回⾏っています。強制ではなく⾃由参加ですが、いずれのイベントも企画する社員たちが参加者を喜ばせようと知恵をしぼっているので、参加者の満⾜度も⾼く、評判が⼝コミで広がって毎年⾼い参加率となっています。
共通の企業理念を組織の中に繰り返し浸透させていく取 り組みを通じて、この3つの⽂化が融合した⼟壌を育んでいく必要があるのです。
受講対象とする公開セミナーの各講座は、⼈事制度上の職能要件の各項目とゆるやかに連動させています。ただし、受講セミナーを選ぶ際には、職能要件などは あくまでも参考にとどめています。
受講内容については、プログラムの案内に記載されている情報はありますが、実際に⾃分に合ったものかどうかは、⾏ってみ ないと分かりません。ただ、セミナーを受けた後には、レポートをメーリングリストで公開し、モバイル事業部全員で共有する形にしているので、以前受けた⼈ に直接話を聞くことで内容の理解もできます。こうした形で情報を補完し選択の参考にしています。
私としては、セミナー選択の際にはできるだけ⾃分の弱みを克服するのではなく、強みを伸ばすものを選んでほしいと考えています。
仕事というのはチームで⾏い、⼈それぞれの強みや弱みを補完し合っているので、得意なところを伸ばしていただいた⽅がトータルでチームになった時のチーム⼒は強くなるだろうと考えるからです。
セミナーに対する受講者からの評価では、体系的にスキルを習得できることや他社の⽅と交流できるといった点で満⾜度が⾼いようです。
受講者の中には、セミナーの受講内容が⼤変気に⼊って、先述の会社の合宿でそのテーマを学習する分科会を⽴ち上げるメンバーもいました。⾃分の能⼒開発ニーズとセミナーで学習する内容がピタッと合った⽅にとってはそれが非常に業務に活きてくるところまでになっています。
全体を通して⾔えば、もちろん⾃分が望んで受講していることもあり、ほとんどの⽅は何かしら得るものがあったとか、他の⼈が何らかのセミナーを受講していることについて刺激を受けるといった⾯があります。ただ、研修はあくまでもきっかけですので、そこを通して何を得たか、どのように業務に活かしていくのかは、年2回のMBO(目標による管理)の中でもフォローをしながら進めています。
Q:今後の⼈材育成の課題は何ですか。また取り組みとして強化したい点についても教えてください。
京都事業所の開発部門では週1回の勉強会を⾏っています。メンバー同⼠で学びたいことが同じ傾向にある、例えばJavaの技術を⾼めて⾏けば開発に直接役⽴つといったこともあるので、この勉強会が定着しています。また去年からは、⽉15%は勤務時間を技術研究に使えるようにしました。会社が⽰した10個のテーマから各メンバーが関⼼のあるテーマを選択し、チーム単位で取り組むようにしています。
東京でも、他事業部を交えた⾃主的な勉強会を試みました。しかし例えばプライズ景品の企画と、携帯サイトの企画では、必要な知識やノウハウが全く違います。お互いのやっていることを知る程度でとどまり効果的ではありませんでした。そこで今は共通のベースになる、プランニングのための基礎⼒といったものに取り組もうと考えています。
公開セミナーで学んだことが直接的にまたは間接的に職場に影響を与え、それが次年度の受講の動機づけになっていくことで学びの風⼟が醸成され始めています。
しかしこれからはそれをもう少し進めていくことが必要となります。特にエンタテインメントやITモバイルといった分野では、個⼈の発想や思考、発信⼒がビジネスとして成功するかどうかの鍵でもあり、個⼈の能⼒に依存をしている要素が非常に⼤きいのです。ですからメンバーが会社から求められているものを提供するだけの仕事に安住していれば、当社は業界の中で⽣き延びていけません。当社をステップや踏み台にして⾃分で会社を作るといったくらいの意気込みがあった⽅がいいのです。
ベンチャー企業では多くの⼈が次の仕事のために今のうちにどれだけスキルをつけられるか、という気持ちで働いています。競合はそうした会社が多いので、より成⻑意欲を⾼く、競争意欲を⾼くやってもらうためには、どうしたらいいのかと考えて、働きかけています。より多くの社員が、⾃ら積極的に学習をする姿勢を持てるかどうかに、会社の将来がかかっていると考えています。