【事例紹介】オーデリック株式会社 社員1⼈ひとりの課題に合わせた⼈財育成を実践するオーデリックの取り組み

はじめに

2013年4⽉に役割等級制度を導⼊したオーデリック株式会社。職種や階層に応じて、社員1⼈ひとりが会社から求められている役割を果たすために構築された教育体系の全体像、さらに教育体系における公開セミナーの位置づけとその効果について、⼈財開発センター⻑の佐々⽊正⼈⽒に話を聞いた。
オーデリック株式会社 ⼈財開発センター⻑ 佐々⽊ 正⼈ 様

必須型と選択型をバランスよく取り⼊れた研修制度で精度の⾼い教育をめざす

同社では、階層別研修、昇格基準の1つとしての指定研修、⾃⼰申告制度と連動した研修の3つの柱からなる教育体系を構築している。階層別研修では主に佐々⽊⽒⾃らが講師を務め、新⼊社員から中堅社員、管理職までの教育を⾏っている。

「階層別研修で⾃ら講師を務めることで、全社員の顔と名前を把握することができます。また研修内でのディスカッションなどを通じて、個々⼈の考えや能⼒を知ることもできます。研修計画を⽴てる際には各部門の上⻑経由でメンバーの育成状況などを確認しますが、そうした報告のみに頼るのではなく、私⾃⾝も社員1⼈ひとりの特性を把握することで、より精度の⾼い教育が⾏えるようになります」(佐々⽊⽒)。

なお、同社では正社員だけでなく、契約社員やパート社員にも広く研修機会を提供している。

「新⼊社員研修や営業担当者基本セミナーといった基本能⼒に関する研修は、雇⽤形態に関わらず、全ての社員を対象としています」(佐々⽊⽒)。

その他、PCスキルなどの技能に関する研修も、全ての社員に受講の機会が⽤意されている。

⾃⼰申告制度をフル活⽤し社員1⼈ひとりに合わせた教育を実践

同社の取り組みにおいて特徴的な点は、⾃⼰申告制度と連動した研修の緻密な運⽤にある。

「当社ではトータル⼈事制度の1つとして⾃⼰申告制度を導⼊しています。その中にキャリアアップ計画として“⾃分に⾜りないスキル”や“これから伸ばしたい能⼒”を記⼊する項目を設けています。社員は⾃⾝が会社から求められている役割に照らし合わせながらこれらの項目を記⼊します」(佐々⽊⽒)。
同社では例年、400数⼗名の社員のうち実に300名を超える社員から、スキルアップのための研修機会を望む声が寄せられるという。そうした学びに対する全社的な意識の⾼さこそ、これまで⻑期にわたって同社が⼈財育成に取り組んできた成果と⾔えるだろう。

「セミナーの受講費⽤は会社が全額負担しています。社員は『会社のお⾦で学ばせてもらった』『成⻑の機会を与えてもらった』『⾃分の希望をかなえてもらっ た』といった気持ちになり、それがある種の⾼揚感となって、さらなる学習意欲の向上につながっているのではないでしょうか」(佐々⽊⽒)。

なお、社員の能⼒開発ニーズについては、「⾃⼰申告の内容はさまざまですが、中堅職ではマネジメントに関わるものが多いように感じています。また営業ス キルを⾼めたいという声も目⽴ちます。そうした個々の要望と、教育機関が主催する公開セミナーとを1つひとつマッチングしていきます」(佐々⽊⽒)。

スキルアップについての要望と当⼈の能⼒、さらに学ぶべきタイミングなどを⾒計らいながらのマッチング作業は、佐々⽊⽒が⾃ら⾏っている。これは階層別研 修などで、個々⼈の特性や能⼒を把握している佐々⽊⽒だからこそなせる業であろう。そして、社員の要望に合った講座を本⼈に伝える際、必ず佐々⽊⽒が直接、本⼈に参加の意思を問うという。

「本⼈に受講の意思を確認する際は、なるべく業務に⽀障が出ないよう複数の候補⽇を伝えるようにしています。また、メールを上司にも送ることで、部下の意思や研修への参加状況を把握してもらうよう⼼がけています」(佐々⽊⽒)。

公開セミナーを活⽤したタイムリーな教育で営業⼒強化を図る

社員の育成に公開セミナーを活⽤することのメリットについて、佐々⽊⽒は次のように語る。

「さまざまなセミナーが年間を通じて開催されているので、営業スキルを⾼めるなどの社員の能⼒開発ニーズにタイムリーに対応できることが挙げられます。
例えば⽀店ごとの売上増減などにより、特定地域の営業⼒強化を早急に図りたいといった場合、複数の開催⽇がある公開セミナーが有効です。
また、近年の若⼿は対⾯のコミュニケーションに慣れていない傾向がありますが、交渉⼒を⾝につけることで営業⼒を⾼めたいという社員にネゴシエーションに関する講座を受講させるケースも増えてきています。
市場動向や社員個々⼈の状況を⾒極めながら、必要な教育を、必要なときに⾏えるという柔軟さが公開セミナーの魅⼒です」(佐々⽊⽒)。
また全国に営業所を持つ同社にとっては、⼤阪や名古屋といった主要都市で研修を受けさせることができる点もメリットが⼤きいという。

1日でわかる! コミュニケーションの技術

営業担当者基本
さらにもう1つ、公開セミナーの魅⼒として異業種交流が挙げられる。
「異業種交流は非常に⼤切です。研修で知り合った⼈同⼠のネットワークが仕事に直接役⽴つこともあれば、社内での⽴ち位置や年代が近い⼈との交流を通じて⾃⾝の⼒量を推し量る機会にもなります。社内研修だけでは、⾃⾝の⽴ち位置を客観的に把握することが難しく、“井の中の蛙”になってしまう危険性があるため、こうした機会は貴重です」(佐々⽊⽒)。

年度始めに⽴てた研修計画を淡々とこなすだけになってしまう企業も多い中、同社ではタイムリーな教育実施にこだわり続けている。そこには、“必要に応じた教育こそが⾼い成果を⽣み出す”という同⽒の思いが込められている。さらに、同社では常に今後の市場動向を予測しながら、近い将来に必要となってくるであろう研修ニーズを先読みし、いつでもタイムリーな研修を提供できるよう先⼿を打って研修準備を進めるなど、より⾼い成果を⽣み出す⼈財育成のあり⽅を追求し続けている。

同社では世代や役割などによって、各⾃が求めている学習内容が異なり、これに応じた学習⽅法を提供することが重要だと考えている。

「公開セミナーの受講者数を世代・役割別に⾒ると、30代から40代前半の係⻑クラスが最も多くなっています。職場で中⼼的役割を担う場⾯が多い層であり、最も成⻑したいという意欲が⾼い世代なのではないかと考えています。そして、もっと上の世代になると、⾃分で本を読むなど、研修で得るスキルよりもビジネスセンスを磨くことに熱⼼になるようです。それまでは研修でスキルを⾝につけてOJTで活⽤するという流れが⼀般的ですが、ある程度の年齢になると⾃分の⽣き⽅や価値観をしっかりと持っており、それを⽀えてくれる考え⽅を求めるようになる。今、そういった世代や考え⽅を持っている⼈を対象に『この本を読んだら勉強になるよ』と学びに誘導するようなしくみをつくれないかと考えています。おすすめの本を読む中で気づきを得る。それと同時に⾃⾝の弱点を知り、その補完のために研修を受ける。上の世代に対してはそのような成⻑サイクルを⽣み出すことが重要なのではないかと考えています」(中尾⽒)。

⼀⽅で新⼈・若⼿の育成に対しては、同社がめざす⾃⽴型⼈材になるために⼀番重要な時期であり、⼈材開発室と各部署との連結が不可⽋だと⾔う。

「⼊社後の3~5年間が最も⼤切であると感じています。新⼊社員は3か⽉間の新⼊社員研修を⾏った後各部署に配属されるため、継続的な育成には各本部の教育担当との連携が不可⽋となります。各本部では独⾃の教育が⾏われますが、当然ながら⾜りない部分が出てくる。現場のニーズを吸い上げながら、『⼈材育成プログラム』において現場で⾜りないものを補完するという形をめざしています」(中尾⽒)。