外資系企業の対日本人マネジメント(2)

筆者が前職で海外を出張で飛び回っていた頃、社内規定では「ビジネスクラス」を利用して良い時代があったが、一時期、経費節減の為に率先垂範して「エコノミークラス」を利用した。
その時、同行した部下からは賛同の声よりも「昇進する夢が無くなるから止めて欲しい」という否定的な発言を耳にした。
確かに人が企業で頑張って働くモチベーション向上には「給与」以外に「福利厚生の充実」や「ポジションによる待遇の差」などが有るのに相違ない。「マズローの欲求5段階説」に類似した企業内での自分のポジションに対する段階的欲求が存在するのであろう。

日本型雇用の「三種の神器」と呼ばれる典型的システムには、「年功序列型賃金」「終身雇用」「企業別労働組合」がある。
しかし、グローバル化の潮流の中で、このシステムがすでに崩壊しつつある。政府は今年9月29日、政府と経済界、労働団体の代表者を集めた「政労使会議」を再開し、安倍晋三首相は、「経済成長を維持するには労働生産性の向上を図り、企業収益を拡大させ、賃金上昇や雇用拡大につなげる事が重要」と指摘した。
すなわち、「年功序列型賃金」の見直しなどの労働改革が必要との考えを示した。時を同じくして日立製作所は10月1日から、社員数の3分の1を占める管理職の給与を年功序列から成果主義に切り替えた。ソニーも2015年度から実施の予定である。

閑話休題。前コラムで日本企業から外資系企業に転職した人材は、この日本型雇用の典型的システムにも否定的な考えの持ち主が多かったのであろう。彼らは自身のスキルを信じ、アグレッシブにグローバルに活躍できる場を求めていたのであった。

しかし一方で、長年日本企業で働き、日本的企業習慣にも慣れてしまっていた彼らを待ち受けていたギャップは以下の事項であった。

  1. 引き継ぎなどの教育期間が日本企業のように手厚くない。
  2. 目標設定・管理が日本企業に比較して、より定量的数値で上司と確約させられる。
  3. 人事諸制度などが外国本社のマニュアルの直接的な和訳であり、日本的慣習とマッチしない。


(1)に関して、日本企業はどちらかと言えば「社風」を大切にし「企業理念」から始まり社内体制など、前任者との引継ぎや教育期間を十分にとる傾向がある。要するに、中途採用と言えども「終身雇用」の一端であるとの考え方に基づくと思われる。

しかし、外資系は「即戦力」が欲しいから採用したのであり、短期的にまず成果を出す事がミッションであり、採用の翌日から海外出張に行かされたとの事例も3社くらい筆者は耳にした。入社前までに「自力で当社の事を勉強してきなさい」ということが前提条件であろう。

(2)に関して、日本企業の多くも上期、下期および年間というように個人の業務目標の設定はされている。
しかし、その内容は「昨年度より効率を上げる」「品質を改善する」「在庫を減らす」「新規機能を見極める」など定性的な文章表現が多く、どこまで実施すれば達成されたのかファジーな部分が多いと思われる。
部下にとっては甚だ分かり難い表現ではあるが、上司にとっては最終評価の時に便利な表現でもある。なぜならば、日本人は「チームで仕事をして能力を発揮する」というチーム業務達成度を個人業績より優先する風潮があり、他方で人件費にも年度予算があることから、ファジーにしておいた方が予算調整時にいかようにもなるからである。

外資系もチームで仕事をするのは日本企業と同じであるが、基本的な考え方は「個の重視」である。
その為、上司との目標設定値は「昨年度より30%効率をあげ納期を短縮させる」「品質問題を50%削減し、費用を500万円に抑える」「在庫回転率を10日にする」「新規機能を商品企画書に盛り込む」など、定量的な目標設定がされる。
言うなればプロ野球選手の契約のように、数値目標が個人で達成できたら100%の評価であり、更に150%、200%の達成に対してインセンティブを与え、仕事へのモチベーションを向上させる。
部下にとっては非常に明確な目標設定ではあるが、弊害としては個の業績を重視するあまり、与えられたミッション以外は他人の仕事には協力しないような雰囲気があると聞く。

確かに国内企業における海外販売現地法人の予算策定値などを見ると、欧米では特に市場伸長率データに基づいたロジカルな数値目標が出てくるが、国内販売法人ではロジカルな販売数値+「気合値」が盛り込まれるところが、いかにも日本人らしいと筆者は考える。

(3)に関して、日本企業は昔から海外企業と戦うために「業界団体」を作っており、トップマネジメント同士の交流が盛んであった。その為、同一業界では人事諸制度などは比較的共通化されており、良い企業の事例などは「改善」という形で取り入れ進歩していった。
余談ではあるが、この業界団体が「談合」という独占禁止法違反に結びつく原因だとも言われている。

しかし、外資系は日本の業界団体に加入する必要もなく、本国で独自の人事諸制度を構築してきた歴史がある為、本国のマニュアルを直訳し適応している企業も多い。
すなわち日本固有の文化や風習は追加されていないのである。必要か否かは別として、事例では社員や家族の冠婚葬祭時の対応、取引先などへの挨拶状、夏休み休暇取得、防災マニュアル、連絡網などは整備未だ半ばという感じがする。

極論ではあるが、外資系企業の日本販売法人のミッションは、日本国内における販売を増やす事であり、その手段としては優秀な人材を将来の会社の為に育てる事よりも、他社の優秀な人材を高収入で雇用し即戦力として活躍させた方がトータル効率が良い、と彼らは考えている。
一方で雇用された人材も、その外資系で終身雇用や再教育されるつもりはなく、更に高収入を得られる外資系への転職の機会が訪れれば、3年~5年周期で転職していく事例も見受けられた。

企業のグローバル化が益々加速し、企業のオフィスには宗教も文化も育った環境も異なる人々が共存して仕事を進めることになる。
日本企業が海外に進出する場合も、海外企業が日本に進出する場合も、共に企業マネジメントを執行するポジションには、歴史観や文化、風習が理解できるその国で学修した人材(国籍は問わない)を積極的に登用した方が従業員との信頼関係の構築が早期に出来る気がしてならない。

(産業能率大学 経営学部 教授  三村 孝雄)

外資系企業の対日本人マネジメント

公開日:2014年09月25日(木)

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