外資系企業の対日本人マネジメント(1)

今回は、日本市場に進出して日本法人(日本支社)を持つ外資系企業における、日本人従業員に対する人材マネジメントに関して考える。

ご存知のように日本経済を支えてきた製造業は、2008年12月のリーマンショック以降の急激な円高に対応すべく、商品のコストダウンおよび固定費の削減に尽力してきた。
前者に対しては工場の海外移転、後者に対しては給与カットを含む人件費の削減が主な施策であった。
しかし、それらの施策が奏功する間もなく、2011年3月11日に発生した東日本大震災によって、日本の製造業は企業存続の危機にさらされてしまった。
そして日本のお家芸であった液晶事業、半導体事業に関わっていた企業は、撤退に向けて動き出したのであった。
すなわち、事業譲渡を含む人材の放出(リストラ)に加速がかかった。

その一方で、世界市場の覇者になる千載一遇のチャンスを見出した韓国、台湾、中国企業(もちろん、欧米企業も)にとって、事業縮小を余儀なくされた日本企業は、技術と優秀な人材獲得の草刈場となっていった。
年齢的には40歳後半から50歳前半までの液晶事業や半導体事業に関わる日本人は、幹部候補として韓国や台湾などの大手企業からヘッドハントされ、あるいは転職サイトに登録をして時を待った。
そして技術系の人材は本国の研究所へ、営業系の人材は日本国内の法人へ高収入を条件に転職していった。

家族を含めた当事者の生活のための収入確保が転職の第一条件とはいえ、彼らは言わば第二の人生設計の好機と捉え、グローバル企業(外資系)のブランド力と高収入を条件に転職していったわけである。
転職時の条件とは、

  1. 自身の蓄積されたノウハウが生かせる職務と役職を得る。
  2. 年収は旧職よりも増額となる(管理職位の場合、およそ1000万円以上)。
  3. 約束された年収の契約期間は1年~4年でも構わない。
  4. 海外赴任はいとわない。


すなわち転職者は、「終身雇用」や「福利厚生」という日本的な労働条件ではなく、グローバル型企業の就労体制を受け入れた形で歩み始めた。
一方で日本企業に留まった人材も多くいた。彼らは日本企業らしい手厚い人事サポート体制により、年収の減少は容認し他事業部への転籍や関連会社への出向という道を選んだ。

前者と後者との違いは何であったのであろうか?粗い分析ではあるが、前者の人間的な特性としては以下のポイントが挙げられるだろう。

  1. 働く地域に固執しない性格と生活要件(地元企業意識がない。地域とのしがらみがない)。
  2. 働く業種・業態に固執しない性格(自身のスキルアップが目的)。
  3. 転職に失敗しても、また転職すればよいという楽天的な性格。
  4. 英会話能力の自信(特に営業系は海外赴任経験者が優遇される)。
  5. 日本企業に未だ存在する学閥や人脈による組織体制に対する反発心。
  6. ベンチャー企業にも共通する自由闊達な社風を好む。


以上のように記述したとはいえ、これからのグローバル企業に求められる人材像が、これらの要件を満たす人材でなければならないと誤解しないで頂きたい。 人事諸制度がきっちりと整った日本企業で活躍してきた彼らが、外資系企業に転職してからの苦悩を次回のコラムでお届けする。

(産業能率大学 経営学部 教授 三村 孝雄

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